34 ゲットした! ……いろんなものを
展覧会が無事に終わってしばらく。
私は目の前の宝石を見て、うっとりと両手を合わせていた。
「きらっきらだぁ……」
ディーク・アバジールは約束を守る男であった。
テーブルの上に置いた『竜の涙』を、私はじっくりと観察する。
涙型のきらきらと輝くクリスタルのような魔石――『竜の涙』の中には、光にかざすと炎のような揺らめきが見える。それが本当に中で燃え盛っているようで、見ているだけでヒヤヒヤする。
「ひい~……。本物だ……でも、薬にするのはこれを削らないといけないんだよねぇ……」
薬の材料は主に三つ。『トメロンの花』『竜の涙』そして、『レッドドラゴンのツノ』。
あとは細々とした薬草で効能を調節する必要があるけれど、そちらはすぐに手に入る。
パーティーに招待した貴族たちとお礼の手紙をやり取りしてさらなる関係を構築する傍ら、私は『竜の涙』の加工に勤しんだ。
ガチガチに硬い『竜の鱗』を削るためには、超高温で熱して、わずかに柔らかくなった隙に削り取る必要がある。削るのは全部ではなく、一欠片で十分。それだけでファリス村の住民すべてに行き渡るほどの薬を作ることができる。しかしたった一欠片だって大変なのだ。
というわけで、まず必要なのは大量の熱。炎属性の魔法使いがいればいい話だけど、そんな有能すぎる人材が都合よくいるわけがなく。代わりに使ったのは、騎士団たちが宝の持ち腐れとして倉庫に保管していたクリスタルサラマンダーの盾である。クリスタルサラマンダーとは、硬い透明な鱗で全身を包んでいる魔物で、自身の鱗を通して太陽の光を吸収し熱を取り込む性質を持っている。
そのクリスタルサラマンダーの鱗を使った透明な盾で太陽の光を集めて、『竜の鱗』に照射する。中の炎が激しく揺らいだ瞬間、ブラックタートルの甲羅で、ゴリゴリッ! と潰す。
ブラックタートルとは世界で三番目くらいに硬いといわれる魔物だ。それなのに甲羅以外の部分はふにょふにょで、動きも遅いのですぐ殺られる。宝ならず、甲羅の持ち腐れである。これらの苦労を経て、私は『竜の涙』を粉末状にする加工を成功させた。
ちなみに『竜の涙』の加工方法については、一周目にカナッツに騙されて買った雑学本に書かれていた。誰がこんな知識を必要とするんだ……! と読んだときは思ったけど、案外使うタイミングは来るものなのね。
『自身が持つ知識を組み合わせ、最大限の効果を得る。そんなことは、誰もができることじゃない』からね! 苦労の全部に意味があったとはいわないけれど、昔の頑張りはちゃんと今にも続いているのだ。
そんなこんなと時間が過ぎていき、ある日私は屋敷の中で、「ギャーッ!」と悲鳴を上げた。
「リッカ様、いかがなさいましたか!? グレイ! リッカ様にお渡しする品は、すべて確認を済ませているはずだろう!」
「もちろんです、送り主はカナッツ様からで、なんの問題も……!」
「くくくくく、くく、くくく」
「錯乱していらっしゃる……! ユフィ、今すぐにリッカ様を自室にお運びする……!」
「はい、エヴァン様! すぐ準備を……」
「クモーーーッ!」
カナッツからの贈り物――もとい、貢ぎ物の箱を持ったまま、私は意識を失いそうになった。
「……くも?」とエヴァンが訝しそうな顔をして、私の手の中の箱を見る。そこにあるのはただの真っ白な布だった。
ただの布を前にして悲鳴を上げて倒れそうになった私だったが、箱を持ったままであることに気づき、「とととととととってとってとって、取って!」とエヴァンに向かって全力で手を伸ばし、ついでになるべくのけぞって体から距離を置く。
「はあ……」
エヴァンがやっと受け取ってくれたので、私は長くため息をついてそのまま地面に手をつきへたり込む。
「ああああ、カナッツったら……! パーティーの成功祝いなんて言って、『ライトスパイダー』の糸で作った服を贈ってくるなんてぇえええ……」
自分で言っていて泣けてきた。だんだん涙声になってしまい、情けない顔になっていく。
ちなみに、こんなことを言っている私だが、『ライトスパイダー』という蜘蛛の魔物の糸で作られた服は最高級品とされていて、祝いの品として贈っても間違いではない品ということは知っている。
ではなんでこんなに私が怯えているかというと、私はどんな種類でも蜘蛛の魔物が大嫌いなのだ。
そう、これは一周目のときのこと……。
スタンピードが起こった際、様々な魔物がファリスのダンジョンから溢れた。その中の一匹である巨大な蜘蛛の魔物に襲われたのだ。命からがら、なんとか逃げ出すことができたが、それからというもの私は蜘蛛が大の苦手になってしまった。
でもこんなことは言えないので、みんな目を見合わせて不思議そうな顔をしている。
「『ライトスパイダー』の糸を使えば、使用者の思考に合わせて自由に形を変えることができる、もはや魔導具レベルの服になるんでしょう……? 知ってるわ。知ってるけど、苦手なものは、苦手なのよ……!」
「あのう、そうしましたら、この『ライトスパイダー』の服はいかがいたしましょう? 処分いたしますか……?」
「……うーん」
恐るおそる問いかけるユフィに返答すべき内容を眉をひねって考える。
処分する、というのは正直しづらい。
カナッツからの贈り物だからというより、超高級品を私の好き嫌いで判断するのはなんとなく気兼ねする。いつまでも座り込んでいるわけにはいかず、立ち上がって、しばらく腕を組んで考えた。そして、答えを出す。
「……ルーにあげる?」
ルーさえよければだけど。
所有者の思考に合わせて自由に形を変えるのなら、大きさの問題も気にしなくていいだろう。これからルーも成長していくのなら、むしろちょうどいいのかもしれない。
いやでも自分がいらないものを息子に渡すってどうなんだろう。
「……ルー様に尋ねて、問題なければ受け取っていただきましょうか」
一連の騒ぎを収めるべく、グレイがまとめた。よし、そういうことで。だめならだめということで。
どうなることかと思ったけれど、ルーは快く受け取ってくれた。ちょうど肌寒くなっていたので、新しい服がほしかったらしい。
実際に着ている姿を見させてもらったが、ルーが思い描くデザインを小さな体にまとわせ変化する様はなんだか面白くて「おおお」と拍手してしまった。
こうして見ると、ちゃんと服、という感じで蜘蛛感がないのは嬉しい。
見るのも苦手なんじゃないのかといわれそうだけど、別にいいのよ、自分が着なければ。
蜘蛛に罪はあっても、道具に罪はないのよ。
***
季節の変化とともに、外の景色も少しずつ移り変わっていく。
外はすっかり黄色い落ち葉も消えてしまい、丸裸の木が寒そうに揺れている。
こうして、新たな日々が近づきつつある、ある日のこと。
私は、一つの決意をするのだった。




