33 もう一つのパーティー
結論からいえば、パーティーは大成功だった。ディーク以外の貴族とも私は華麗にトークを決め、相手の望む情報をちらりと与え、食いつくのを待つばかり。楽勝、楽勝、と心の中で高笑いを続けた私は、外のテラスですっかり熱くなっていた頬を夜風で冷ます。
二階の手すりからぼんやりと夜の庭を見下ろす。背中からは明るい光が差し込み、遠い世界のように華やかな笑い声が聞こえた。
出入り口は騎士団員たちが護衛として活躍してくれている。ミアムは可愛らしすぎるからか、護衛とは思われていないようだけど。ふふふ、と小さく笑う。
「リッカ、こんなところにいたのか」
「ル~?」
私はほにゃほにゃ声で振り返った。多分、暗闇の中でも真っ赤な顔が見えたのだろう。
ルーは眉を寄せて私に近づく。
「酒を呑んだのか? 随分酔っている」
「呑んだよよよよ~。だあって、挨拶したら、みーんな勧めてくるんだもーん。断れないじゃあ~~~ん? これはやばそうと思ってぇ、避難した私を褒めてぇ~」
「酒は慣れないのか?」
「初めてだよ~ん。こればっかりは、もっと慣れとけばよかったかも~。あ、ルーは、まだお酒は呑んじゃだめだよ~~~」
「さすがにこの体では呑まない……じゃなくて、いくらなんでも呑み過ぎだ。部屋に戻った方がいい」
「ホストなのに、招待した人たちより先に帰れないよぉ~」
なので、ちょっとでも酔いを覚まさねばならない。ほっぺを冷ます秋の風がいい感じだ。
ルーは、おそらく心配そうな声をしていた。
「……部屋に戻って、一眠りするくらい誰も咎めないだろう」
「だいじょうぶ! 私ねぇ、寝なくっても元気なのが取り柄! ムッキムキ」
腕を持ち上げてポーズを作った。へらへらする私に、ルーはそれ以上、何も言わなかった。
楽しそうな笑い声が、階下からどっと響く。
「……でもさー、みんな、ほんとに、見る目がないよねー」
ぽろっと、溢れてしまった。
ふわふわしているのか、ゆらゆらしているのか、お酒のせいで自分の心がわからない。
「今日はたくさん、褒められたけどさー。別に、私は知ってることを、言っているだけなのにね。わかってることを、してるだけなのに」
今度は手すりに背中をもたれる。夜の真っ暗闇が、視界いっぱいに広がる。
「すごいセンスだー……とか。なんでそんなこと、わかるのーとか。……別に知ってるだけで、何もすごくないのに……」
いくら褒められたところで、冷たい目で見てしまう自分がいる。
私はただ、他人の成功を横から掠め取っているだけ。一周目に得た知識を、ただただ必死の思いで使っているだけ。私自身が凡人であることは、私が一番わかっている。
――そうじゃなければ、あんなにあっさりと処刑されるわけがない。
「知っていることをしているだけ、か」
ルーには、私が何を言っているのかわからなかっただろう。わかるわけがない。
それなのに。
「自身が持つ知識を組み合わせ、最大限の効果を得る。そんなことは、誰もができることではないと思うが」
「……うれしいことを、言われたきがする」
「事実を伝えただけだ」
「たいへんだ、うれしくなった。これはもう、踊るしかない」
「脈絡がわからない。舌も回っていないぞ」
「母は息子とダンスします。なんだとー私とダンスが踊れないってかー」
「妙な絡みをしないでくれ。子供用のステップは知らないんだ」
「多少の背の差など、母はきにしないのです。さあ、踊りましょうぞぉ!」
ルーと両手を繋いで、くるん、くるんと私は踊った。
少しだけルーは困ったようにしていたけれど、なんだかんだと付き合ってくれた。
きらきらした星空の下で、くるくる回って、力の限り笑ってしまう。
こんなに楽しい日は、もしかしたら初めてなんじゃないかな。
城にいた頃も、そうじゃない頃も、それこそ、全部をひっくるめても。
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「うう、頭が痛い……」
パーティー自体は大成功で終わったものの、翌日、私はベッドの上ですっかり丸くなっていた。ユフィが心配そうに水をついでくれたけれど、枕元ではにやにや顔のルーが座っている。
「呑み過ぎだな。今日くらいは休んだ方がいい」
「……そうする」
何事も、バランスというものが必要なのかもしれない。




