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二周目領主はもうだまされない!  作者: 雨傘ヒョウゴ


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31 輝くドレスは着る人間がいてこそなのよ


 なんだか使用人たちの目に謎の炎が灯っているなあ、と思うことしばしば。

 元気に働いてくれる分には、もちろんいいんだけどね、なんてぼんやりしている暇もなく、展覧会までの準備は目まぐるしかった。

 その中でもグレイの働きはめざましく、ちょっと無理なのでは? というお願いまできっちりとやり遂げる有能っぷり。その調子でどんどん私に仕えなさい。


「よしよし、いいわねいいわねぇ」


 そしてとうとう、展覧会の当日となってしまった。

 私は自室の鏡の前でくるりと回って自分のドレスを確認する。

 普段に着ている、足首まで隠すようなたっぷりフリルの可愛らしいドレスもいいけれど、今着ているのは背中が大胆に開いて、スカートの丈も少し短い。代わりにスカートの下にはたっぷりとレースが詰まっているので、いやらしさは感じない。


「こういうのも、たまにはいいわよね?」


 と、私の髪を整えるための櫛を持ったままのユフィに問いかけると、「もちろんですとも!」とまるで自分のことのように全力で頷いてくれる。うーん、使用人たちだけではなく、最近はユフィの様子までおかしいような……。まあ、別にいいっちゃいいけど……。


 こういったスカート丈をカットして変化をつける形が、次に貴族の社交の間で流行するのだ。我ながらとてもいいものを作り上げることができたと何度見ても感動する。

 絵を買うだけ買ってお別れするはずのカナッツだったが、私が忙しくパーティーの準備をしていると知ると、大きな馬車を引いてやってきた。


『やあやあリッカ様! もしやこのカナッツの力を必要としていらっしゃいません?』


 朗らかな顔をしつつ抜け目のない口調で話すカナッツは、やはり油断ならない存在だったが、便利には違いないので、素直に力を借りることにした。ドレスのアイデアはあっても、実際に私が作ることはできないので腕のあるパタンナーと裁縫師を融通してくれたのも彼である。ついでにルーのおめかし服も作ってもらえたのは嬉しい。パーティーには息子のお披露目も必要でしょ。


『……リッカ様っておいくつなんです? ハ? 二十五歳? ルー様は六歳? ハア? はあ。はー』


 なぜかものすごく失笑というか、曖昧な顔をしていたけど。

 そしてルーを見て、『うっわ。こっちも全然わかんねぇ。行ったり来たりのぐちゃぐちゃって感じ。あー……まじでファリス領は想像がつかないもんだらけだ……』と、ぼそぼそ話してたけど。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよね。


 パーティー会場である屋敷の清掃や準備、日程を調整し、多くの貴族たちへの招待状を送り……と、目まぐるしいほどの時間が過ぎ、やっとのことで迎えた大舞台の当日なのだと考えると、なんだか感慨深い。

 同時に、だんだん不安に思えてくる。


「……ユフィ、ほんとの本当に、似合っていると思ってくれている? ドレスが素敵なのは間違いないわ。でも着る人間によってその辺りは変わるじゃない?」

「リッカ様! 何をおっしゃいますか! リッカ様に似合わないお洋服がこの世にあるはずがありません! もし似合わないなどとのたまう貴族がいれば、私がワインの瓶で頭を殴り目を覚まさせてやります。母にもそうしろと言われておりますので!」

「今いきなり最後かっ飛ばなかった?」

「なんのことですか?」


 あまりにもいつもの可愛らしい小動物みたいな姿で首を傾げられたので、もしや聞き間違いか何かだった? と自分の耳を引っ張った。あとなんでお母様が出てきた?


「似合って……るのよね?」

「もちろんでございますよ! あ、もしやルー様でしょうか?」


 ノックの音が聞こえたので、私は入室を許可する。すると入ってきたのはルーではなくエヴァンだった。


「リッカ様、パーティーの間の護衛についてご相談が……」


 エヴァンは私と目を合わせた瞬間、眉間の皺をとにかく激しくする。こんな皺は見たことがないほどに。


「……いるじゃないの。似合ってないと思う人間が」

「いえリッカ様。おそらくですが、その、最近私も気づいたのですが、エヴァン様のこの表情には二種類あり……」


 二種類も何も、一種類よ。親の敵かと思うほどに、エヴァンに凝視されているわよ。


「失礼。入ってもいいか? 俺の準備はできたが、そちらはどうだ」


 次に入ってきたのはルーである。普段の膝丈ズボンも可愛いけど、きっちりしたケープつきの服もおめかししている感があっていいわね。

 ルーは私を見上げて、にこりと笑う。


「ああ、よく似合っているな」

「ルーもね!」


 と言いながら私はしゃがんで勢いよく両手を広げる。

 ルーは眉をひそめて首を傾げた。そのまま時間が流れていく。


「何をしているんだ?」

「息子ならちょっとくらい抱きしめてもいいのかな、と……」


 でもこっちから行くと嫌がられるかなと待っていた。「はっはっは」とルーは爽やかに笑って無視した。そこまで華麗にスルーしなくても。


「……そろそろ時間ね。遊んでいる場合じゃなかったわ」


 よいしょと立ち上がって、ルーに手を伸ばす。


「今度こそ、いいでしょ? 母子は一緒に登場しなきゃ」

「……ああ、そうだな」


 ルーは私の手を握り返した。さて、広間に向かおうじゃないか。


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