5 私の恋心は――?
婚約披露パーティーの会場である、宮殿の舞踏会場。
多数の丸テーブルが設置され、この国での最上級の食べ物と飲み物が載っている。
今夜のパーティーへの出席者たちは皆、会場入りをして自分の名前のカードが置かれた座席の椅子に座っている。
色とりどりのドレスで着飾った女性たち、シンプルなスーツを着こなす男性たち、婚約披露パーティーという事もあり各国独自の特別な正装を身に纏う近隣諸国からの来賓も少なくない。
舞踏会場の中心に位置するテーブルには五人の人物が座り、談笑をしている。
シヴィラ王子の父、ここローバリウス国国王ガロウ・ローバリウスと王妃ミカナ・ローバリウス。
隣国カナギルの国王アキハ・クロウと王妃ルーナ・クロウ。そして二人の娘であり、カナギル国王女であるサラサ・クロウ。
ここら一帯の国々での婚約披露パーティーには、決まった様式美が存在している。
パーティーが始まるときに夫になる男は会場にいてはならない。
パーティーが始まり、しばらくしたところで会場の照明が全て消える。
入口扉が大きく開き、夫になる男が入り妻になる女の下へ行く。
二人が夫婦になる誓いを皆に聴かせる。
会場にいる全ての人間が――、来賓以外の従者、給仕たちも含めて全ての人間が立ち上がり拍手をする。
このような流れが長い年月で出来上がり、人々に根付いていた。
会場にいるほぼ全員が何も気にしていないように雑談などをしているが、内心照明が消えるのを今か今かと待っている。
この舞踏会場の照明は、等間隔で壁に据え付けられたガス灯。淡いオレンジ色の光が会場内を照らしている。
会場内で全く違うことを考えているのはサラサ王女のみ。彼女は今、先ほどシヴィラ王子との最終打ち合わせを終えて自分が出した結論とその結論に対してどうすべきかを考えている。
サラサは小さく首を振った。ため息を吐き、舞踏会場入口の巨大な両開き扉へ目を遣る。
答えは既に決まっている。必要なのは私が道化師になる覚悟だけ。
そろそろ暗くなり、あの扉が開く。そのとき、シヴィラ様の隣にはアリシアというメイドが――。
――――
サラサが見ている扉の向こう側の廊下には、シヴィラとアリシアが待機していた。舞踏会場の照明が消えると内側から執事がノックをし、シヴィラへ伝えることになっている。
執事もシヴィラは一人で待っていると思い込んでいる。
アリシアは隣に立つシヴィラを横目で盗み見た。大きな付けまつげが微かに割り込む視界にも少しずつ慣れてきている。
シヴィラ様にも緊張の色が見える。当然だろう。今からやろうとしている事は、もしかしたらこの国の存続に関わる問題に発展しかねないのだから。
それでも――、それでも自分を駒として扱われる様な結婚は耐えられないだろう。
シヴィラ様も。
サラサ様も。
そこでアリシアは一つの疑問と不満に行き着く。
では、お二人の婚約破棄の為に私が駒の様に扱われる事は――?
そして、決して表に出す事は許されない、でも確かに私の中にあるこの恋心は――?
コンコン。
小さなノックが聴こえた。
アリシアの鼓動が跳ね上がった。




