第9話:詠唱ですか? イエ、謎呪文かも?
またまた6時の朝の鐘の音で起きた。『プラエクス』にやってきて、初めて静かで爽やかな朝を迎えられた……かもしれない。
身支度をして下の食堂に降りていくと、「「「おはよう!」」」と、朝から元気よく声をかけられた。
「おはようございます」
「一昨日も昨日もお疲れ様。やっと静かな朝ね。そこに座ってて、朝食今運んでくるから」
「いやー、バタバタしてましたよね。なんかこうやって静かだとかえって落ち着かない気が……」
瞳さんは笑いながら朝食を取りに行った。
改めて食堂の中を見渡す。窓の外には、朝の街を仕事に行き交う人たちの姿が眺められた。
(こうです! こういうのをスローライフっていうんじゃないの?)
朝食は普通にご飯と焼き魚とお味噌汁、それに、お漬物と梅干しのセットだった。
お味噌汁を飲んで、ほっと息を吐く。緑茶をまったり飲んで、静かな朝のひとときを楽しめた。
(ちょっと何か起きるんじゃないかとドキドキしたけどね。何も起きなかったよ)
そして、花ちゃんが学校に行くため出かけるので、私も一緒に市場へと向かった。
花ちゃんは学校に行くまで少し時間があるからと、『スパイス担当』として一緒に市場に行ってくれることになったのだ。
市場はすごい活気に溢れていた。
「お姉ちゃん、こっちこっち! 早く早く!」
花ちゃんに引っ張られ、1軒の野菜を売っている屋台に行った。
「おはようございます、おばちゃん。今日スパイス買いに来たんだけど、あるかなぁ?」
「あるけど、あんまり良いのがないんだよね……何が欲しいんだい?」
「ターメリックやコリアンダー、クミン、クローブ、レッドペッパー、ニンニクと生姜かな? お姉ちゃん、これでいい?」
「もしあれば、質が悪くてもいいから、胡椒の粒があればいいなぁ」
「あるにはあるけどさぁ、何年も前のだからほんとにあんまり香りがしないんだけど、それでいいのかい?」
「それで大丈夫です!」
「おばちゃん、まとめて買うから安くしてよ」
「相変わらず花ちゃんはしっかりしてるねぇ。おまけしとくからさぁ、支払いはまたつけとくからね」
「うん、お願い!」
「はい、これだよ」
とおばちゃんは新聞紙に小分けに包んで渡してくれた。私は荷物を受け取り、空間収納の中に入れた。
そして花ちゃんが学校に向かうので別れることになったが、
「お姉ちゃん、私スパイス担当だからね! ちゃんと手伝うから学校から帰るまで待ってて。お姉ちゃん、帰り道は大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、気をつけてね。いってらっしゃーい!」
「行ってきます!」
私は宿に戻った。
「ただいま帰りました! これから裏庭でスパイス畑を作ろうと思うので、何か用事あったら呼んでください」
「お帰りなさい、わかったわ。あそこのところに作ってね。ありがとね、お願いね!」
「了解です!」
(さぁさぁ、これから私のイメージが炸裂するぞ! ゴスロリちゃん(女神ヴォルプタス)が『魔法はイメージ!』って言ってたからね。アニメ好きの私にはバッチリじゃん!)
まずは土を起こさなければね。
「私のイメージよ。炸裂しろ! 土魔法よ、土をかき混ぜて畝にしろ!」
テレビで見たアニメの映像を思い出しながら、怪しい呪文を唱えると――。
(なんということでしょう……)
次の瞬間には、きれいに整った畝ができていた。
(ねぇねぇ、私ってひょっとして魔法少女? めちゃくちゃチートじゃん!)
そして、目の前にある各種スパイスの種を並べて、
「新品、新品、大新品! かわいい赤ちゃん"たね"たちになっとくれ〜!」
と言うと、あらあら不思議。今まで乾燥してひび割れていたような種たちが、ふっくらと生き生きとしてきた。
(やっぱり日本のアニメ純粋培養の私には簡単なことなのさ。魔法はイメージだからね。ネッ、ゴスロリちゃん(女神ヴォルプタス)!)
それから懐中時計ちゃんで一応検索して、種の植え方を教えてもらい、とりあえず種を植えて土の上から「水よ降れ〜、霧雨のように水よ降れ〜」と唱えると、適度な水が土を湿らせた。
「お昼よー、食べに来て!」
と瞳さんに呼ばれたので、一旦お昼ご飯を食べに食堂に行った。
「スパイス畑はどんな感じだ?」
「結構順調ですよ!」
「忙しくて見に行けないから、手伝いもしなくてごめんね」
「いえいえ、とんでもないです。花ちゃんが学校から帰ってきたら手伝ってくれるって言ってますので」
「学校は大体お昼を食べて、1コマ授業を受けたら帰ってくるから、もう少ししたら帰ってくるんじゃないかしら?」
「了解です!」
魔法を使うとお腹が空くのか、もうペコペコだ。
お昼ご飯は定番の唐揚げを食べた。唐揚げ粉は少し理さんたちに渡しておいたんだ(だって美味しいもの食べたいんだもん!)。唐揚げはやっぱり正義だね。
でも、これは文明開花のまかない食でお客様には出さない。なのでキッチンの片隅で美味しく食べている。人目もなくてゆっくり食べられる最高のご褒美だ。
強烈な食欲をそそる匂いが漂っちゃうので、もしお客様に聞かれたら「今料理を研究中なので、最高のものができたらメニューにする」って伝えてもらうようにお願いしてある。
「食べ終わったので、裏庭に行ってきます!」
「おー、頼んだぞ」
「お願いね」
「花ちゃんが帰ってきたら、裏庭に来るように伝えてくださいね」
「「わかったあ!」」
私は再び裏庭へ向かった。
そして、畑の前で両手を大きくウェーブさせながら、
「大きく〜、大きく〜、大きく育て〜! 美味しく育って、みんなの胃袋へ〜!」
と唱えながら、何回か踊るように怪しい動きをすると、「ピョッコン!」と一斉に芽が出てきた。
「イメージの勝利〜!」
と私が空に向かって拳を突き上げていると、ふと視線を感じた。
振り向くと、花ちゃんがちょっと冷たい目でこちらを見ていた。
「お姉ちゃん、ただいま……って、何してるの?」
(こういう時は、何事もなかったようにするのが1番だよね!)
「花ちゃん、大丈夫! これはね、我が家に伝わる秘伝の儀式なんだよ。誰にも言っちゃだめだからね!」
「うん……?」
「さぁ、花ちゃんもこの芽が大きくなって、スパイスがわっさわっさ成長した姿を脳裏に浮かべて、一緒に唱えよう! 秘伝の魔法を教えるよ、さあこっちに来て!」
そして、2人で腕を大きく波立たせながら、踊るように
「大きく〜、大きく〜、大きく育て〜! 美味しく育って、みんなの胃袋へ〜!」
と何回か唱えた。
そうすると――(なんということでしょう!)
スパイスがぐんぐん急成長して、さっきまで何もなかった畝が一瞬で緑でモサモサになってしまった。
「お姉ちゃん、できた、できたよ! 私、秘伝の魔法ちゃんとできたよ!」
「うん、ちゃんとできた! よかったよかった!」
「これでスパイス担当になれるね! お母さんとお父さん呼んでくる!」
花ちゃんは大急ぎで2人を呼びに行った。
(これ、大丈夫なのか……? このチート、さすがにヤバくないか? 花ちゃんまで危ない魔法に目覚めてないよね……? まぁいいか〜!)
慌てて花ちゃんに連れられ、理さんと瞳さんが裏庭にやってきた。
そしてスパイスだらけの畑を見て、言葉を失い、ポカンと口を開けて呆然としていた――。
(やっぱりヤバかったのかな? まぁ、なるようになるさ……!)




