第33話:緊急招集!美容革命秘密計画と環さんの筋肉
スタスクちゃんが納車された日の夜、文明開花での夕飯はとても賑やかだった。
私と花ちゃん、環さんに加え、時代屋の皆さん、そしてなぜか源さんと元さんの奥様方まで参加している。瞳さんが招待したのだ。もちろん瞳さんも一緒にテーブルを囲んでいる。その代わり、本日の宿泊客対応は幼馴染の富さんが臨時で手伝ってくれていた。
なぜ時代屋さんの奥様方が呼ばれたかというと――この間、私を夜中過ぎまで悩ませた原因(研究への没頭)もあるが、普段からあの職人男2人は夢中になるとほとんど家に帰ってこないらしい。ここから歩いてすぐのところにそれぞれの自宅があるというのに、だ。
研究熱心なのはいいけれど、これでは家族が困ってしまうのも無理はない。そこで瞳さんが「奥様方に美味しいものを食べてリフレッシュしてもらおう」と招待したというわけだ。
あの蒸気機関組合での強気な態度が嘘のように、奥様方2人の前ではおとなしく、黙々と夕食を味わっている。
本日のメニューは定番のカレーと唐揚げ、さらにとんかつやエビフライなど、新メニューが目白押しだ。環さんは、時代屋さんに自分専用のスタスクちゃんを注文できたらしく、終始ご機嫌は絶好調。女性陣同士で大いに盛り上がっていた。
「それにしても、ほんとに暁ちゃんって可愛いわよね。いろんなことひらめくし!」
「そうなんだよ! お姉ちゃんはすごいんだから!」
(――花ちゃん、それ以上は言っちゃだめだぞ……)
「もう料理の新メニューも次から次へと出てくるし、この甘味なんかすごいのよ」
「このデザートなんて絶品だわ……。これはやっぱり、お店に食べに来なきゃ味わえないのかしら?」と環さんが目を輝かせる。
「ランチで出してるだけでも、もう手一杯なのよ〜」と瞳さん。
私はひたすら食べる。もぐもぐもぐ。おいしい、おいしい。
「そういえば、最近『文明開花』関係の女性陣の髪、みんなツヤツヤサラサラしっとりしてるんだけど……この料理を食べてるからって聞いたわよ?」と源さんの奥様が切り出した。
「ほんとよねー! みんな髪が綺麗で、いったいどうしてなのかしら?」と環さんも同調する。
(もぐもぐ、もぐもぐ。私は何も聞こえない。おいしいな、おいしいな。テンプレはもうお腹いっぱいなんだってば)
「ねえ、なんでかしらねぇ」と環さん。
そこに、絶妙にタイミング悪く、やらかし男・理さんがひょっこり登場した。
(ハイハイハイハイ、なんでよりによってこのタイミングで来るかなぁ……!)
「ちょっと理さん。あなたまで髪がつやつやサラサラしっとりしてるんだけど、いったいどうしてなの?」
「えっ、えっ、えっ?」と言いながら、理さんは慌てて私を見やった。
(私を見るんじゃねえ! 私は今、大事なもぐもぐタイムなんだからな!)
「暁ちゃん、どういうことかオネエさんにお・し・え・て〜?」
(あーあーもう、めんどくさい! 必殺・丸投げ発動……!)
私はすっと立ち上がると、キリッと言い放った。
「緊急招集! 緊急招集! 『文明開花』緊急戦略会議を開催します!」
みんなポカーンと口を開けているが、知ったことではない!
「このたびは、うっかりすっかり理さんがやらかしてくれたおかげで、『シャンプー&トリートメント緊急発売方針』会議を始めます。皆様よろしいですか? 返事がないようですね。もう一度言います、皆様よろしいですか」
「「「「「ハイっ!」」」」」
「ここでの話は、今ここにいる人たちだけの秘密です。特に時代屋の奥様方、そして環さんには特別に……」
ドン! ドン! ドン! と、テーブルの空いているところにシャンプーとトリートメントのセットを3組叩き置いた。
「シャンプーとトリートメントをお渡ししますのでお持ち帰りください。もしなくなったら私にお申し付けいただければ補充します。もちろん無料です。
ただし! 絶対に内緒にしてくださいよ。もし内緒にしなかったら……おわかりですよね?」
私はできる限り低い声で脅しをかけた。
それから環さんに向き直る。
「環さん、服飾組合で美容関係の販売をお願いできますか? 私からの委託ということで……出所は絶対秘密厳守でお願いしますね。シャンプーとトリートメント、香りの良い石鹸を何種類かと基礎化粧品、それからお化粧品。あと香水も何種類か。これらを服飾組合におろします」
そう言って私はサンプルを取り出した。
もちろん、そこにいる女性陣全員分だ。(もちろん瞳さんの幼馴染み3人と玲子さんの分も。渡さなかったら怖いからね…)ただし、花ちゃんと風ちゃんにはハンドクリームとツヤツヤリップだけにしておいた。他の大人たちにはモニターとして1組ずつ渡し、感想はすべて服飾組合の環さんに伝えてもらうことにした。その後の販売方法や値段設定など、面倒な実務はすべて環さんに丸投げする、という条件でのビジネス始動である。
納品は、私が月に一度、特許料の確認に行くついでに行うことで即決した。数に限りがあるので、もちろん「限定品」として売ってもらう。
(ちなみに、亜空間収納の鑑定で確認したところ、この世界の人の肌にも完全にあっていてアレルギーの心配もないってゴスロリちゃん(ヴォルプタス様)のお墨付きだから安心なのだ)
「本当に、ここは厳重な守秘義務をお願いしますね。ここにいる皆さん、もう一度言います。守らなかったら……おわかりですよね?」
皆さんはとっても良い返事をしてくれた。
「これにて、文明開花・緊急戦略会議を終わります!」
――会議モードが終わった途端。
安心したのも束の間、環さんのガッシリとした腕が私を捕らえ、なんと高い高いをしながらぐるぐると部屋中を回り始めた。
「すごいわ、すごいわ暁ちゃん! やっぱりあなたって最高よ!!」
(やめてくれ――! 身長190センチ以上ある環さんの高い高いなんて、私、天井に頭がぶつかりそうじゃん! 目が回る、目が回るよ!)
「環さん、ちょっとやめてあげて! 暁ちゃん、目を回しかけてるわよ!」
「あらあら大変! 大丈夫かしら!?」
(全然大丈夫じゃない――っ!!)
私はこの日、この世界に来て一番の命の危機を感じたのであった。
誰か、助けて……!




