第31話:服飾組合の麗しのお姉様…じゃなくてオネエさまと、新たな不労収入
今日は玲子さんと一緒に、服飾組合へ登録に行く予定だ。とうとう最新式の胸当てとカップ付きインナー、そして上下お揃いのかわいい下着が完成したのだ。
モニターとして、文明開花にいらっしゃる淑女の皆様方も何日か前から着用してくれている。はいからさんのような服装のひとみさんも「今まではさらしを巻いて苦労して着付けていていたけれど、これならスッと着られて、しかも胸の形も綺麗! まるで魔法みたいだわ!」と大感激していた。もちろん、ご近所の幼馴染みの皆様方も大喜びだ。
私は待ち合わせの場所である、玲子さんのブティックまでとぼとぼと歩いて向かった。
こっちに来てからというもの、歩くことがすっかり日常になってしまった。早くサイドカー付きスクーターが来ないかなぁ……としみじみ思いながら足を動かす。
玲子さんのブティックは街の中心部にあり、私が初めに降り立ったあのとてもおしゃれな地区だ。そこから服飾組合まではすごく近いらしい。
今日は私の服飾組合への登録と、この画期的な下着の特許に関する手続きだ。またまた不労収入が増える。ウハウハだね。
いろんな組合からの特許料が入るのはもう少し先だから、早くお金が入って憧れの大正浪漫なマイホームが欲しいと、最近つくづく思う。
ガッポガッポ、ガッポガッポと、早く収入カモン!!なんて欲深いことを考えながら歩いているうちに、玲子さんのブティックに到着した。
赤茶色のレンガ造りで、イギリスの街角にある本屋さんのような雰囲気ですごくかっこいい。さすがモガ(モダンガール)のブティックだね。
カランカランとドアのベルを鳴らして中に入ると、「いらっしゃいませ」とこれまたおしゃれなモガのお姉さんに声をかけられた。
私は「暁と申します。玲子さんとお約束しているんですけれど」「伺っております。少々お待ちくださいませ。今、呼んでまいります」
さすが最先端の一流店、店員さんの対応もパーフェクトだね(と、上から目線の暁ちゃんだ。まぁ、いっか)。
しばらくすると、玲子さんが奥から出てきた。
「暁ちゃん、いらっしゃい。今ずっと歩いてきたんでしょう? このまますぐに服飾組合に行って大丈夫? 今日ちょっと忙しくてバタバタしちゃって」
「こんにちは。全然大丈夫です。お仕事お忙しいのに抜け出させてすみません」
「大丈夫よ。すぐ近所だし、手続きもすぐに終わるから」
「じゃあ、行きますか」
そう言って、私たち2人は連れ立って服飾組合へと向かった。
服飾組合の外観は真っ白なレンガ造りで、これまたとてもハイカラでおしゃれだ。いかにもお金を持ってそうな組合だな……。
当然、ここではお約束の「面倒くさく絡まれるイベント」などは一切発生しない。受付を通り過ぎ、いきなり服飾組合の組合長の部屋へと案内された。
そこで、異世界お約束の「強烈な出会い」が待っていた。
「あらま! いらっしゃい。玲子ちゃんたら、こんなに可愛い子を連れて!ほんと、食べちゃいたいわ! そのスチパンロリのファッションも素敵だわぁ。それに、その服はちょっと普通じゃないわね……って、あんまり触れるとヴォルプタス様から天罰が下ったら大変だから、詳しく聞かないでおくけどね!」
話しかけてきたのは、身長190センチほどもある長身で、パッつんおかっぱの麗しい顔立ちに、しっかりとした筋肉質の体型をしたお方。
体型にぴったりのサーモンピンクのワンピースにベレー帽をかぶっている。すごく派手なはずなのに、不思議ととてもよく似合っていて、どこか優しそうな雰囲をまとっている。
(食べちゃいたいって……。それに、ゴスロリちゃん、ここでもいい仕事してるんだね)
「あら、私としたことが、自己紹介がまだだったわね。私はこの服飾組合の組合長をやっている、環っていうの。よろしくね」
「はじめまして、暁といいます。よろしくお願いします」
「今回はまた、画期的な胸当てとカップ付きインナー、それに上下お揃いの下着だって? 服飾業界の革命だわ! 玲子ちゃんから聞いたけど、暁ちゃんは料理組合や蒸気機関組合にも入っているのよね。規定、手数料、税金、手続きは全部そこと一緒だから、大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です。これが会員カードです」
私はテーブルの上にカードを置いた。
それを確認すると、環さんは蒸気機関組合で見たのと同じような鈴を鳴らして職員の人を呼んで、私のカードを渡して手続きを進めてくれた。
職員がきたとき、コーヒーを差し出してくれた。
そういえば、この世界に来て初めてのコーヒーだ。久しぶりのコーヒーに、私は心の中で小さくガッツポーズをした。
私はまだ13歳だけど、コーヒーはブラック派だ。大人なんだよ、暁ちゃんは! ほほほほほ。
「このコーヒー、とっても香りが良くていい苦味があっておいしいです。私、酸味が強い系は好きじゃないので」
「あら、なかなかあなたも通ね。ますます可愛くなっちゃうわぁ」
(……なんか、背中がゾッとしたぞ? 気のせい……だよね?)
「ほんとに暁ちゃんて、可愛くて面白い子ね。これからもよろしくね。ちょっと遠いからなかなか行けないけど、今度『文明開花』にランチしに行くわね。その時はよろしくね!」
そんな楽しいおしゃべりをしている間に、私のカードの裏に服飾組合の「鋏」のロゴが綺麗に刻印されて戻ってきた。料理組合は包丁とまな板のロゴ、蒸気機関組合は歯車のロゴだったから、ドンドン増えてるなあ(本音はもうこれ以上増やしたくないよー…)。
玲子さんは終始ニコニコと微笑みながら、あまり話を挟まずに見守ってくれていた。
「じゃあ、今日はこれで失礼するわね。それではまた、組合長。ごきげんよう」
(ごきげんよう、なんて初めて聞いたよ。どこのお嬢様だい、まったく)
私も釣られて、「ご、ごきげんよう」と言ってみた。そして、しずしずと淑女らしく服飾組合の建物を出た。
外に出てから、私は玲子さんに向き直った。
「今日は玲子さん、本当にありがとうございました。またランチの時にお会いしましょうね」
「こちらこそ、また服飾のアイデアがあったらいつでも話してちょうだいね。今回は本当にありがとう。この業界の大革命になったわ。女性がもっと身軽になって、社会にどんどん出ていけるようになる。それだけのすごいことを、暁ちゃんはやり遂げたんだって自覚したほうがいいわよ」
(私はそんな大層な自覚、全然ないんだけどなぁ。それに、そんな面倒な社会的責任とかいらないいらない。今はガッポガッポ不労収入が入ればそれでいいのよ)
「そんな、とんでもないです! 玲子さんのデザインの腕と服飾の技術が高かったからこそ実現できたんですから。私なんか、ちょっと見本を見せただけですからね……じゃあ、またお店でお会いしましょう!ごきげんよう!」
そう言って、私たちはそれぞれの目的地へと別れた。
私の帰る場所は、今のところ『文明開花』で借りている3階の部屋だけどね、となんだかしみじみ思う。
暁・13歳の、ちょっぴり切なくてシュールな帰り道。
――なんちゃってね。




