第30話:元日本の私へ。私はこっちで、したたかに生きていくから
ここのところ、お店を手伝う以外は穏やかなスローライフを送っている。リサイクルのゴミ捨て場にも気分次第で行ってみては、お宝をゲットしてきたりして、これがウハウハで実に楽しい。
料理組合も、蒸気機関組合も、服飾組合も、今は嵐の前の静けさなのか、これといった大きな変化もない。
あまりに働き詰めの私を心配したのか、瞳さんに「昨日と今日の2日間は、しっかり休みをとりなさい」と、あの絶対逆らえない優しい笑顔で言われてしまったので、ありがたく(強制的に)休むことにした。
昨日は1日中ベッドでゴロゴロしていたけれど、それも流石に飽きたので、今日は街を適当にぶらぶらとお散歩している。
そうすると、近くに結構大きな公園があって、綺麗な小川が流れる池の周りに木陰のベンチが並ぶ、とても快適な場所を見つけた。私はぼーっとそこに座り、景色や空を眺めながら、「あぁ、私ったら今、ちゃんとスローライフしてるなぁ」なんてのんびり考えていた。
――そういえば、元の日本にいる私は、今どうしているんだろう?
こちらに来て、ゴスロリ女神様に元の世界への哀愁をちょっと弄られてからというもの、私の感情のどこかが少し変わってしまった気がする。
元の日本では、共働きで忙しいお母さんとお父さんに代わって、13歳の私が家事を一手に引き受けていた。
こっちに来てから振り返ってみると、「あれって、本当に普通のことだったのかな?」と疑問が湧いてくるのだ。
もともと、私が家事をやるようになったきっかけは、お母さんがとても疲れて帰ってきたときだった。家庭科で習ったばかりの、目玉焼きとサラダと、今思えばすごい大雑把に具を切ったお味噌汁を作ったのが始まりだ。
洗濯も掃除も、疲れ果てたお母さんのために、学校が休みの日に手伝った。
その時、お母さんにもお父さんにも、すごく褒められた。それが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
だから、「もっとお父さんやお母さんに褒められたい」の一心で一生懸命努力して、今の私は13歳にしてそれなりに手際よく家事ができるようになったのだ。
でも、いつの間にかそれは、「私(暁)がやって当たり前」のことに変わってしまっていたように思う。
金銭的には恵まれていたし、家族自体が嫌いだったわけじゃない。けれど、何かが決定的に違っていたんじゃないかって、こっちに来てから強く思うようになった。
お父さんもお母さんも、私をちゃんと見てくれていたんじゃなくて、ただ「都合よく使える便利な存在」として持ち上げて、利用していただけなんじゃないか……?
そんな、ひねくれた冷めた考え方が、今の私の頭から離れなくなっている。
私は、こっちに来てからどんどんブラックになっている。
でも、誰も頼れないこの異世界で1人で生きていくためには、少しぐらいブラックで、したたかにならなきゃやっていけないんだ。
みんなが私を可愛がり、大事にしてくれるのはよく分かる。でも、それだって――もし私がヴォルプタス様から与えられた「チート(色々なスキルや収納カバン)」を持っていなかったら、どうだったんだろう? そんな風に、つい裏を勘ぐってしまう自分がいる。
だからこそ、私はどこかでみんなと一線を引いてしまう。自分のこの言動や行動が、相手にどんな影響を与えるか、打算的に計算してから動いている。
……なんだか、私ってすごく寂しい13歳になってしまったな。
だけど、私はこの世界で1人で(自分の足で)生きていかなきゃいけないんだから、これでいいんだ。
まぁ、いっか。
元日本に残っている、もう半分の私。
そのまま純粋無垢なままで、両親に頼られ、愛される「良い子の暁ちゃん」のままで、すくすく成長してね。
私はこっちで、すっかりブラックになって、したたかに、この世界を私ひとりの城をもとめて生きていくからさ。
――なんてね。
これは、とある13歳のかわいい乙女の、ほんの小さな独白。




