第11話:テンプレですか? はいそうです。フラグですか? わかりません。
あれから数日、理さんが熱心にカレーや唐揚げのスパイス研究を重ね、とうとうベストな配合を完成させた。
その間ずっとカレーと唐揚げを毎日食べていたから、体重がちょっと心配……だけど、魔法を使っているから大丈夫だと信じたい。やっぱりカレーと唐揚げは、毎日でも全然いける!
でも、毎日同じだとさすがに飽きてしまうので、ここでまた懐中時計ちゃんの検索機能でこの世界にありそうなレシピを調べてみた。(ほんとになんてチートなのでしょう!)
カレーうどん、ドライカレー、唐揚げのカレー南蛮、酢豚ならぬ「酢鶏」などなど、味のバリエーションが一気に増えたので、毎日でも全然飽きずに食べられる。
ただ、本当にカロリーが……いや、考えないでおこう。どうせゴスロリちゃん(女神ヴォルプタス)に色々お願いするなら、いくら食べても太らない体型も一緒に頼んでおけばよかった。今更だけど。
(ヴォルプタス様~〔こういう時だけちゃんと呼びます〕、もし心の声が聞こえているなら、追加条件で「いくら食べても太らない体型」もお願いしまーす! それに、私の中一の4月までの知識じゃちょっと心細いから、せめて高校までの知識もインプットし直してくださいよ。私の心を勝手にいじったんだから、これくらい当然ですよね……? ただ、安全安心でお願いしますね……!)
◇◆◇
毎日お店には大行列ができてしまい、大繁盛なのは嬉しいけれどご近所に迷惑がかかってしまう。そこで、「朝6時半に整理券を配る」というルールを第3回文明開花会議で決定した。
宿泊客は別として、一般のお客様はお昼の100食限定。夜は宿泊客のみ。そうしないと収拾がつかなくなってしまうからね。
ところで、宿屋「文明開花」のすぐお隣には、なんだかとてもワクワクする『スチームパンク工房』がある。親方と弟のコンビがこの街ではかなり有名らしいんだけど、その工房には住み込みで働いている、私と同じ歳の女の子もいる。
親方の名前は源さん、弟の名前は元さん、見習いの子の名前は風ちゃん。
源さんと元さんは白髪頭で、いかにも職人! 下町の頑固親父って感じだけど(私の勝手なイメージ)、話してみると全然そんな怖くない。風ちゃんは私と同じ歳なのに、スチームパンクの才能がある天才らしい。
お隣の『スチームパンク工房時代屋』は、一見こじんまりしてそうに見えるけれど、この世界の日本においてもかなり有名な工房なのだという。
初めは音もしないし、匂いもしないし、工房があることにも全然気づかなかった。この世界のご都合主義的な謎技術があるらしく、作業音も匂いも外に漏れない仕組みになっていて、めちゃくちゃ静かなもんだ。
うちのお店がお昼に行列を作ってご近所に迷惑をかけちゃっているので、お詫びも兼ねて、毎日まかないと同じものを3人分、出前として届けに行くようになった。私もそれで、お隣さんとよく話すようになったのだ。
工房の中は、アニメでよく見た歯車や蒸気機関、金属加工が絶妙に融合したような空間で、『これぞスチームパンク!』という感じで、訪れるたびにめちゃくちゃワクワクしてしまう。
ある日、お昼時が特に混雑してしまい、出前を届けるのが少し遅くなってしまった時のこと。
『スチームパンク工房』に入ると、源さん、元さん、風ちゃんの3人が、真剣な顔で頭を突き合わせて難しい顔をしていた。
「こんにちは~。お昼届けに来ました! 混んでてちょっと遅くなっちゃってすみません、ここに置いておいていいですか?」
「おっ、もうそんな時間か! いつも悪いねぇ」
「いえいえ、ご迷惑おかけしてるのはこっちの方ですから!」
「それよりも……どうしたんですか、そんなにみんなで難しい顔をして」
私がそう声をかけると、源さんがふーっとため息をついて少し愚痴をこぼし始めた。
なんでも今、政府からの依頼で「蒸気機関車の揺れが激しすぎるからどうにかしてほしい」と頼まれているらしい。けれども、なかなか良い改善案が出なくて頭を悩ませているとのことだった。
私は「へぇ~」と思いながら、ふと、この世界に来る直前の夜にテレビで見た番組を思い出した。
私よりちょっと年下や年上の子供たちが、大人顔負けの専門知識を大人っぽく語る番組で、ゴールデンウィークの2時間スペシャル番組。その中で、最新の豪華寝台特急の揺れについて特集していたのをたまたま見ていたのだ。
そのとき、ぼそっと、ついつい口が滑って言ってしまった。
「……サスペンション自体は、もう既存のものであるんですよね?」
「おっ、よく知ってるな! あるにはあるんだけどよ、それがどうもうまく制御できねぇんだよ」
「えっと、よくわかんないですけど……要するに、揺れと反対の力が瞬時に加わるように,
制御できないんですかね? そしたら揺れが相殺されて、全然揺れなくなると思うんですけど……」
私が勝手にぶつぶつとつぶやくと、源さんが急にピクッと反応した。
そして、ものすごい迫力の怖い顔で「なんだと……!? 今、なんて言った!?」と、私の顔の真ん前にすごい勢いで顔を近づけてきた。
「ち、近いですってば!」
けれど源さんはお構いなしに、「もう一回言ってみろ! なんて言ったんだ!」と大きな声を張り上げる。
(キタキタキタキタ~!! これぞ異世界テンプレ、いわゆるフラグってやつですか!?)
私は圧倒されつつも、両手を使って説明した。
「ええと、右側に傾きそうなときは左側に引っ張る力を加えて相殺して、上に跳ね上がりそうなときは下に力を加えて抑え込むんです! 私、専門的なことはよくわかんないですけど、そうやって瞬時に揺れを制御すれば、めちゃくちゃ快適な乗り心地になるんじゃないですか?」
さらに、調子に乗って言葉を続ける。
「それができたら、1両まるごとスイートルームにして超高級ホテルのようにできるし、お風呂だって揺れでお湯が飛び出ない中で入れるし! 食堂車だって作れるから、長距離の旅が一気に楽になりますよ!
それに、2枚のガラスの間に空気と特殊なガスを入れて、片方を金属でコーティングした断熱ガラスを使えば、最高の『展望デッキ』だって作れちゃいます! そこから空も満天の星空も眺められたら、ロマンティックでめちゃくちゃ素敵だと思いませんか? 蒸気機関車に乗ること自体を目的にしてくれるお客様も増えるはずです。
そうそう、一般の座席もちょっと個室風にして、夜は上と下のスペースをうまいこと2段ベッドに展開できるようにすれば……もう完璧な寝台列車の出来上がりじゃないですか! ……なんてね!」
すると、元さんが怪訝そうな顔をして「ちょっと待て、ガラスに金属をコーティングなんかしたら、向こうが透けなくなっちまうのじゃないか?」と突っ込んできた。
「えっと、人の目には見えないくらいの、めちゃくちゃ薄い金属の膜を吹きかければ大丈夫かなって?よくわかんないですけど……何せただの思いつきですから!」
私の適当な返事に、元さんは「……なるほど、透明なまま熱を遮る薄い金属膜か……!」と、なぜか一人で勝手に深く納得して唸り出している。
私がペラペラと夢を語り終えると、源さん、元さん、風ちゃんの3人は、なぜかハッと目を見開いたかと思うと、次の瞬間、私に何も言わずにバッと立ち上がり、どこかへ猛ダッシュでいなくなってしまった。
……え?
「では、私はこれで失礼します……」
ポツンと取り残された私は、苦笑いしながら誰もいなくなった時代屋を出たのだった。
これは……もしかして、またとんでもないフラグを立ててしまったのだろうか?
イヒヒ……ひふっ?




