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Bell Cat ~聖天使猫姫物語~  作者: 栞那りあ(neneko)


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第5話:紅蓮の執着と、踊るスピードスター

挿絵(By みてみん)

 燃え盛る商店街の空気に、マゼンダの甲高い笑い声が響き渡った。


「ふふふ……あはははっ! 逃げなさい、もっと無様に逃げ惑いなさい!」


 パリン、パリンと、熱膨張に耐えきれなくなったショーウィンドウのガラスが次々と砕け散る。

 マゼンダの両手から放たれた炎は、ただの火の玉ではなかった。まるで独自の意志を持った蛇のようにうねり、標的の体温を感知して執拗に追い回す「ねちっこい」炎の魔法だ。

 彼女の美しい指先がオーケストラの指揮者のように動くたび、炎の鞭が生き物のように這い回り、アスファルトをドロドロに溶かしながら、ベルキャットたちの退路をじわじわと塞いでいく。ジリジリと肌を焦がす異常な熱気に、りりんたちは息を呑み、額から滝のような汗を流した。


「くっ……! 何だよこの炎、しつこいっ!」

 りんかが、飛んできた炎の獣の顔面をヘビーパンチで粉砕する。

 バチィッ!という破裂音と共に炎は四散した。しかし、殴り飛ばして散ったはずの火の粉が、空中でシュルシュルと不気味な音を立てて再び集まり、瞬く間に元の蛇の形をとって襲いかかってくるのだ。物理的な打撃で完全に消滅させることができない。


「りんか、無闇に突っ込まないで! 囲まれるわ!」

 かりんも、鋭い蹴りで真空の刃を作り出し、ライトニングキックの風圧で炎を吹き飛ばす。しかし、吹き飛ばしても吹き飛ばしても、マゼンダの無限に湧き出るような魔力と執念深い攻撃の前に、二人は完全に防戦一方になりつつあった。


「いい気味ね。ネイヴィー様の御心を乱した罪、その肌をじっくり、じっくりと焦がして償わせてあげるわ……!」

 マゼンダは歪んだ笑みを浮かべ、今度は後方で防御と解析に回っているりんじゅと、りりんの方へと視線を向けた。彼女の指先が弾かれ、ひときわ巨大な炎の蛇が群れをなして二人へと襲いかかる。


「りりんちゃん、りんじゅお姉ちゃん!」


 炎の牙が二人に届く寸前。

 オレンジ色の閃光が、猛烈な風圧を伴って炎の壁を突き抜けた。めいりんだ。


「あははっ! そんなのろまじゃ、私のしっぽにも触れないよ!」


 めいりんは八百屋の軒先のテントをトランポリンのように蹴り、アーケードの看板を飛び石のように軽々と跳躍する。重力を無視したかのような、猫そのものの驚異的な敏捷性。空中でしなやかに身体を捻り、追尾してくる炎の蛇たちを間一髪で、ひょい、ひょいと躱していく。


「ちょこまかと……目障りな小娘ね! 焼き尽くしなさい!」

 マゼンダが苛立ちを露わにし、両手に魔力を込めて炎の蛇の速度をさらに上げる。

 炎がめいりんの足元に迫り、その細い足首に絡みつこうとした――瞬間、めいりんの身体が空中でくるりと反転した。


『めいりん、右に三歩、そこから斜め上・四十五度に飛んで!』

 脳内に響くりんじゅの『解析』テレパシー。戦況を俯瞰し、敵の魔法の軌道と速度を完全に読み切った、ブレインとしての的確な指示だ。


「了解っ!」

 めいりんは空中で見えない足場を踏むかのように、軌道を鋭く変えた。彼女を猛スピードで追っていた炎の蛇たちは急な方向転換に耐えきれず、互いの身体に激突。ドカーーーン!!という爆発音と共に四散し、自滅していく。


「なっ……私の炎が!?」


「こっちだよー、おばさん!」

 商店街の街灯の上にひらりと音もなく着地し、めいりんが「あっかんべー」と舌を出す。


「誰がおばさんよ!! 許さない、絶対に逃がさないわよ!!」

 完全にめいりんに標的を絞り、激昂したマゼンダ。彼女は周囲の炎を一度すべて自分の両手に集め、特大の火球へと圧縮し、怒りに任せて放とうとする。

 それは、めいりんという「囮」に気を取られ、完全に周囲への警戒がおろそかになった、致命的な隙だった。


「……今だっ!」

 めいりんは街灯を蹴って地面スレスレを滑るように駆け抜け、マゼンダの視界からふっと消えた。


「え……? どこに……」

 マゼンダが特大の炎を構えたまま、虚を突かれたように見回した、次の瞬間。


「――つーかまえたっ!」


 真上から降ってきためいりんが、マゼンダの背中に飛び乗り、彼女の目を背後から両手でパッと塞いだのだ。


「きゃあっ!? な、何よこれ! 離れなさいこの野良猫!!」

 視界を完全に奪われ、パニックに陥るマゼンダ。魔法の制御は「視覚による標的の固定」が不可欠だ。コントロールを失った特大の炎は空の彼方へ飛んでいき、周囲を包んでいたねちっこい炎の魔法も、シュウシュウと音を立ててただの煙へと消え去っていく。


「りんかちゃん、かりんちゃん! 今ならいけるよ!」

 めいりんがマゼンダの背中にしがみついたまま、元気よく叫ぶ。


「よくやったわ、めいりん! ……さあ、反撃の時間よ!」

 かりんがヒールを鳴らして低く身構え、りんかが両拳を強く打ち合わせる。

 翻弄のスピードスターが作った最高のチャンス。熱気と煙が晴れた商店街で、ベルキャットたちの怒涛の反撃が始まろうとしていた。

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