第23話 白薔薇、来襲
白薔薇は、夜明け前のいちばん暗い刻に来た。
最初に動いたのは、領境の警鐘だった。続いて砦の東で、仕掛けておいた罠の一つが作動した音。消された数字――感情を殺した刺客たちが、闇の中を滑るように忍び寄ってくるのが、感覚でわかる。
その数、十二。
一人ひとりが黒鴉と同等の精鋭だ。まともにやれば、領兵五十でも足りない。
だが、こちらはまともにはやらない。
「来たぞ。配置につけ」
俺の合図で、領兵が動いた。
白薔薇は予想どおり、二手に分かれた。本命と、陽動。シャルロッテの読みは正確だった。
俺は、本命の一団がこちらの「用意した道」へ誘い込まれていくのを見ていた。彼らが「ここから入れる」と判断した、たった一つの隘路。その両側に、領兵を伏せてある。
刺客たちが隘路に踏み込んだ、その瞬間。
「今だ」
仕掛けが発動した。
頭上から、丸太と土嚢が落ち、隘路を塞いだ。土煙が上がる。退路を断たれた刺客の肩が動くたび、俺は先に声を飛ばした。消された数字でも、体の予兆までは消せない。
「弐ノ型――先見の太刀」
それを一人で振るう代わりに、読んだ予兆をそのまま号令に変えて、五十の槍に振らせる。
「右の壁。二人、上へ逃げる」
領兵の槍が、そこへ突き出される。
暗殺者は、闇と不意打ちでこそ真価を発揮する。その二つを奪えば、ただの手練れの剣士に過ぎない。
戦況は互角――いや、こちらが押していた。
シャルロッテも戦っていた。後方に回り込もうとする刺客の前に立ちはだかり、彼女自身の暗殺術でそれを迎え撃つ。
「散り百合」
かつての同胞を相手にしても、短剣の軌道は鈍らない。
いける。このまま押し切れる。
そう思った矢先だった。
砦の中央。混戦を抜けて、一人の男が姿を現した。
白薔薇の首領。
他の刺客とは格が違った。頭上の数字は消されている。だが、その立ち姿から滲む圧は、黒鴉の比ではない。
首領は戦場をゆっくりと見渡し――そして、まっすぐにシャルロッテを見た。
「白百合」
低い声だった。
「随分と辺境の水が合ったようだな。だが、忘れたか。お前を『道具』に仕立て上げたのは、公爵だ」
首領は、自分の手のひらを開いて見せた。
そこには、白百合の紋様が彫られていた。シャルロッテのうなじと、同じ。
「その首の刻印が」
首領の指が、その紋様をなぞった。
「お前に、それを思い出させる」
刹那。
シャルロッテが苦悶の声を上げて、膝をついた。
彼女のうなじの刻印が、灼けるように青く輝き始めた。




