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第24話 殺意ゲージ99、再び


 その数字を見た瞬間、俺は息を呑んだ。


 刻印(こくいん)が青く輝くのと、同時だった。

 膝をついていたシャルロッテが、操り人形のようにぎこちなく立ち上がる。その瞳から、光が失われていた。意志の宿らない、硝子玉のような目だ。

 そして、彼女の頭上の数字が。


『殺意 99』


 跳ね返った。

 ここ十数日、俺が毛布で、毒で、共闘で、少しずつ削ってきた数字。八十、七十へと近づいていたはずの、それが。

 一瞬で、九十九へ。

 初夜のあの夜と、同じ数字へ。


「これが、白百合(しろゆり)の本来の姿だ」

 首領が、嗤った。

「刻印は、感情を上書きする。情にほだされた道具を、本来の刃へ引き戻す。――白百合。任務を果たせ。その男を、殺せ」

 シャルロッテが、短剣を抜いた。

 ふらり、と俺に向かって歩いてくる。その足取りは、彼女のものではなかった。刻印に操られたたどたどしい歩みだった。

 頭上には、九十九。

 刃が持ち上がる。狙いは、俺の心臓。


 領兵が止めようと動くのを、俺は手で制した。

 そして――一歩、前へ踏み出した。

 無防備に。彼女の刃の、間合いの中へ。

「アルヴィス、何を……!」

 ゴドウィンの、悲鳴のような声。

 だが、俺は止まらなかった。

 シャルロッテの虚ろな瞳を、まっすぐに見据える。

 彼女の刃が俺の胸へ突き出される――その寸前で。


「その九十九は」

 俺は、静かに、言った。

「お前の、数字じゃない」


 刃が、止まった。

 俺の胸の、皮一枚、手前で。

「俺の目は、殺意の高さは視える。だが、ずっと視えなかった。その殺意がお前自身のものなのか、それとも――何かに強いられたものなのか」

 俺は、彼女のうなじの青い刻印を見た。

「今、わかった。その九十九は、刻印が書いた数字だ。公爵が、お前に押し付けた数字だ。お前の本当の殺意じゃない」

 シャルロッテの虚ろな瞳が、かすかに揺れた。

「思い出せ、シャルロッテ。毛布をかけられて呆れた夜を。子供を助けて、『任務上、必要なだけ』と嘘をついた時を。星を見上げて、『君でいい』と言われた昨日の夜を」


 刻印が、激しく明滅した。

 シャルロッテの体が震える。九十九の刃と、その奥の何かが、彼女の中で激しくぶつかり合っていた。

 俺は、その奥を視ようとした。

 いつもの盲点。だが、今度は。

 その真っ暗な奥から、ほんの一瞬、数字が滲み出た。


 本心――三十四。


 九十九と、三十四。

 その二つの数字の、あまりの乖離に、俺は確信した。

 彼女は、まだこちら側にいる。

「刺せ、と言うなら、刺せばいい」

 俺は、両手を広げた。胸を、晒す。

「でも、お前の本当の答えは、三十四だ。――どっちの数字に従うかは、お前が決めろ」


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