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第11話 魔獣の森の共闘


 九日目、辺境の森から魔獣(まじゅう)が下りてきた。


 角を生やした巨大な猪のような獣が、群れで。秋口に森の餌が尽きると、こうして人里へ降りてくる。辺境では毎年のことだ。だが今年は数が多い。

 領兵団だけでは手が足りない。俺は剣を取り、自ら出ることにした。

 砦を出ようとしたとき、背後から声がかかった。


「……わたしも行く」


 シャルロッテだった。軽装に着替え、腰にあの短剣を提げている。


「足手まといになるなら、置いていくが」


「ならないわ。誰に向かって言っているの」


 頭上の殺意は九十二から少し落ちて、九十前後を忙しなく上下していた。森へ向かう間も、彼女の数字は定まらない。


 最初の魔獣の群れと、集落の手前でぶつかった。

 俺は獣の動きを読む。角の振り方、脚の踏み込み、視線の向き――獣にも体の予兆はある。次にどう動くか、俺には先に視える。


「右の三頭、君に任せる。左は俺がやる」


 言うと、シャルロッテは応えるように地を蹴った。

 彼女の戦い方は、対人暗殺のそれと同じだ。無駄がなく、急所を正確に突く。三頭の間を縫うように身を散らし、一頭を仕留めては次の死角へ流れていく。


散り百合(ちりゆり)


 花弁が散るように途切れず舞う体捌きだ。魔獣の角が土を抉った瞬間、彼女はその脇へ滑り込み、太い首の一点だけを切り裂いた。巨体が一拍遅れて傾く。

 俺の「読み」と、彼女の「技」。

 噛み合った。


 戦いの最中、一頭の魔獣が、俺の死角――真後ろから突進してきた。

 獣の予兆は、視界に入っていなければ読めない。まずい。

 だが、振り向くより先だった。

 白い影が、俺と魔獣の間に滑り込む。シャルロッテの短剣が突進してきた獣の眼を貫き、勢いを殺した。獣は横様に倒れる

 彼女の刃が、俺を守った。


 最後の一頭を片付けて、戦いは終わった。

 血と土の匂いの中、俺とシャルロッテは息を整えながら向かい合った。

 俺は彼女の手の中の短剣を見ていた。

 ――その刃の向きは。

 俺ではなく、倒れた魔獣の方を向いていた。

 あれほど何度も俺の喉元に突きつけられた刃が、今は俺を守るために振るわれた。


「礼を言う」


 俺が言うと、シャルロッテはばつが悪そうに目を逸らした。


「……今のは、体が勝手に。暗殺者の反射のようなもの。深い意味は、ないわ」


 その頬が、戦いの熱とは別の理由で朱に染まっている。庇った当人が、庇われた俺よりよほど動揺していた。

 頭上の嘘ゲージが、満杯に光っている。

 シャルロッテはすぐに短剣の血を払った。こちらを見ないまま、汚れた袖口ばかりを気にしている。

 殺意の表示は、まだ八十五。高い。刃は、形の上ではまだ俺に向けられている。

 けれど、いざというとき、その刃は――俺を守った。

 表に出る数字と、いざというときの行動が、食い違い始めている。


「ああ。君の任務のために、せいぜい長生きするよ」


 俺がそう返すと、シャルロッテはほんの一瞬唇を尖らせて――それから、ふいと背を向けて歩き出した。

 その背中を追いながら、俺は思った。

 この女の刃が、いつか完全に、俺を守るためだけに振るわれる日が来たら。

 そのとき、頭上の数字は、いったい何を示すのだろうな。


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