87 パルマ対ウルク
殺される。
そう認識した次の瞬間……炎の魔球が消失した。
どうやら、脅しだったようだ。
ほっ、として胸を撫でおろすが、冷静になればなんてことはない。
ウルクに俺を殺す理由はないのだから、こうなるのは必然なのだ。
と思いたいところだが、違うのかもしれない。
周囲に満ちる険悪な空気が、事態の重さを感じさせる。
「先生。どういうおつもりですか?」
パルマの声も、険に満ちている。
視線も鋭く、まるで親の仇を見るようだ。
「な、なぜじゃ!? こんなこと……ありえん」
当のウルクだけが自分の両手を見つめ、「ありえん。ありえん。ありえん」とつぶやき続けている。
「先生! 今質問しているのは、わたしです!」
ビクッと震え、ウルクが視線を上げた。
「ひぃ」
威圧するパルマに慄き、腰を抜かしてしまった。
「質問に答えてください。なぜ、あのようなことをしたのですか?」
「儂は悪くない」
「先生。いい悪いなど訊いてはおりません。わたしが訊ねているのは、ご主人様に攻撃魔法を放った理由です」
「こやつがお主をかどわかしておるからじゃ。でなければ、こんなことはしておらん」
「それは先ほど否定しました。わたしは自ら意思でここにいて、アンナ・クロムハイツ様をご主人様とお慕いしているのです」
「馬鹿なことを言うな! お主はイッタリーネの王女なのじゃぞ」
「先生、いい加減にしてください。これ以上は看過できませんよ」
「な、なんのことじゃ!?」
パルマは黙ったまま、ウルクの右手を指さした。
「くっ」
唇を噛む様子からして、なにかあるのだろう。
けど、俺にはさっぱりだ。
「それを消してください」
「わかった。そう怖い顔をせんでもいいじゃろ」
ウルクが手のひらを上にむけると、直径五センチ程度の魔球が顕現した。
隠すことのできないサイズだから、視えないようにカモフラージュしていたのだろう。
「ふん」
握り潰したのは、着実に実行しました、というアピールだ。
「これでよいな?」
パルマはなにも言わなかった。
ただ、悲しそうに表情を歪めている。
「もう、わたしの知るウルク先生はいらっしゃらないのですね」
「何を言っておる。ここにおるではないか」
「いいえ、わたしが尊敬した先生はおりません。少なくとも、いまだ殺害をもくろむ方を、わたしは師とは認めません!」
「ちっ」
舌打ちとともに、ウルクがレーザー光線を撃ち出した。
狙いはパルマだ。
けど、それが当たることはなかった。
「一度ではなく二度やれるならば、まぐれではないようじゃな」
不敵な笑みを浮かべながら、ウルクが立ち上がった。
どうやら、腰を抜かしたのも演技だったようだ。
「いやはや、ずいぶんと腕を上げたようじゃな」
「あえて先生とお呼びしますが、訪ねてきた目的は何ですか? まさか、こんな子供のイタズラをしにきたわけではありませんよね?」
「儂を愚弄するつもりか?」
「そんなつもりはありません。事実を告げただけです」
「調子に乗るな!」
怒髪天を衝くように、ウルクが連続で魔法を放つ……が、どれも発動した瞬間に消失している。
パルマが対処しているのだろう。
魔法のことはよくわからないが、これがスゴイことなのかは一目瞭然だ。
「くっ、はっ、くっ」
ウルクは苦しそうだが、当たるまでやるつもりなのだろう。
けど、魔力の限界は近そうだ。
「ぐふっ」
胸を押さえ、ウルクが倒れ込んだ。
脂汗を掻く様子からしても、演技ではない。
対するパルマは、汗一つかいていないし、息も乱れていない。
完勝だ。




