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88 裏切りの連鎖

「く、くそぅ」

「往生際が悪いですよ」


 ウルクが絞りだした小さな火球を、パルマが消失させた。


「こ、これならどうじゃ」


 歯がみしながら、ウルクが直径四センチぐらいの球を取り出し、コロコロと転がした。

 小型爆弾……ではないと思う。

 野心の強そうな性格からして、自分もろとも、とは考えないだろう。

 けど、万が一もある。

 パルマやムシアラもそう感じたようで、俺を護るように動いた。


「ははっ、引っかかりおった」


 下卑た笑みを浮かべながら、ウルクが隠し持っていた笛を吹いた。


 ピィィィィィィィ


 けたたましい音が響き渡る。

 合図なのは間違いない。

 早まる鼓動を自覚しつつ、俺は身構えた。

 ウルクを注視するパルマと、剣の柄を握り臨戦態勢を取るムシアラ。

 レアハムは入り口近くに移動し、襲撃者に備えている。


 ……


 緊張しているのに、なにも起きない。


 …………


 時間だけが流れていく。


「もしかして、失敗した?」

「そんなことはありえん! 馬鹿者が!」


 俺にだけ当たりが強い。

 イラッとするが、青色吐息の老人を責め立てる気にはなれなかった。


 ピィィィィィィィィィィィィ


 ウルクが再度笛を吹いた。

 さっきより長いが、結果は変わらなかった。


「な、なぜじゃ!? もしやあやつら、逃げたのか!?」

「逃げてないわよ」


 ガラス戸が開き、ササナが入ってきた。


「誰じゃ!? 貴様は!?」

「ルシファー・マグナガル。で、わかるかしら」


 ウルクがガタガタ震えだした。

 顔も真っ青から白に変わっていく。

 すごい血の気の引きようだ。


「そのリアクションなら、あたしのことは知ってそうね」

「な、なぜあなたのような高官が、このような場所に……」

「すぐ隣りは魔族領なんだから、あたしがいても不思議はないでしょ」

「おためごかしを。これは立派な侵略行為ですぞ」

「侵略してきたのはそちらでしょ? 魔檻の森に、物騒な連中がたくさんいたわよ」


 外を指さすササナ。

 その先に視線を移すと、ライナたちが整列していた。


「く、くそっ」


 足の下には、盗賊のような風貌の男たちが転がっている。


「ウルクさん……でしたっけ? あなたが笛で合図を送ったのは、彼らよね?」

「知らぬ。あんなゴロツキと儂は無関係じゃ」

「そう。でも彼らは、あなたに雇われたと証言したわよ」

「罪を逃れる放言じゃ」


 頑として認める気はないらしい。

 けど、それは悪手だと思う。


「おれたちはそのジジイに雇われたんだ。そこの女を拉致したら、恩赦してやる、って条件だ」

「おれもだ」

「おれも」


 裏切りのブーメランが、次々に突き刺さる。

 こうなっては、もう言い逃れはできない。


「テレポート」


 まだ奥の手があるようだ。

 けど、不発に終わった。

 俺でさえその可能性を考慮していたのだから、パルマやササナが無警戒であるはずがない。


「くそっ」


 万策尽き、床を叩くウルクの首が飛んだ。


『えっ!?』


 想定外の出来事に、俺を含めた全員が呆気に捉われた。


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