89 犯人は……
ウルクの首が床を転がる。
魔法による幻術……かと思ったが、違うらしい。
首元から大量に溢れ出る血の海と鉄臭さが、それが現実で起きたことだと認識させる。
気持ち悪い。
呼吸するたびに、その思いが強くなる。
(外に出るか)
新鮮な空気を求めてガラス戸にむかう俺の手を、パルマが引いた。
??
無言でかぶりを振られてもわからない。
「まだなにか起こるのか?」
「アンナ。かがめ」
説明を求める俺の頭を、ムシアラが押さえつけた。
「ぐへっ」
床に叩きつけられる格好になったが、文句はない。
こうされなければ、俺は死んでいた。
後ろの壁に数本のナイフが刺さっているのが、その証拠だ。
「やらせるか!」
ムシアラが剣を一閃し、さらに襲い来るナイフを弾き飛ばす。
「ウインドブラスト!」
時間差で三度襲い来るナイフを、パルマが吹き飛ばした。
「四度目の正直……といきたいところだが、無駄だろうな」
ササナとレアハムの動きを見越しての発言だろうが、姿が見えない。
ただ、聞き覚えのある声のような気がするので、知り合いだと思う。
(だれだ?)
……
ダメだ。
思い浮かぶ人物がまるでいない。
交友関係の狭い俺が思い出せないのだから、他人なんだろう。
「姿を見せなさい」
「嫌だ」
「では、あなたの目的を教えなさい」
「色々だよ。世間知らずのお姫様」
パルマの素性を知っている……ということは、イッタリーネの関係者だ。
「わたしが世間知らずなのは真実ですが、姿を見せない卑怯者に言われたくありません」
「そんな安い挑発に乗ると思っているから、世間知らずなんだよ」
とことん下に見ているし、バカにしているのもよくわかる。
そして、それに付き合わない底意地の悪さも持ち合わせていた。
「では、世間知らずのわたしに、ウルク先生を殺害した理由を教えてください」
「それならば問題ない。馬鹿なお姫様に教示してさしあげようじゃないか。その爺を殺した理由は、これ以上利用価値がないからだ。生かしておけば、いらぬことをペラペラ喋るだろうしな」
口封じが必要と言うことは、やはりパルマの知り合いのようだ。
俺の知る人物じゃない……はずなのに、声を聞くたびに見えない輪郭が脳裏に浮かぶ。
(だれだ?)
割と最近会った気がする。
(う~ん)
ここまで劣悪な人物なら覚えているはずだが、さっぱりわからない。
「ササナやムシアラの知り合いか?」
揃ってかぶりを振られた。
「パルマはどうだ?」
「声に聞き覚えがある程度です」
俺とパルマだけが知っている人物。
最初に思い浮かんだのは、貴族のフットイ親子だが、刑に服している彼らがこんなところにいるはずがない。
ではだれか。
「考えても無駄だ。無能者の集団に突き止められるほど、愚かではない」
「もしかして、セーバスじゃないか?」
…………
「否定しないってことは、正解なんだな」
「半分だけだがな」
ガラス戸のすぐ近くに、覆面をかぶった黒装束の男が現れた。




