90 黒子の評価
突然現れた男は、上から下まで真っ黒だった。
晴天の下、太陽の光が降り注ぐ外にいて、今のいままで姿を認識できなかったのはなぜだろう。
魔法の力だとは思うが、決めつけるのはよろしくない。
衣服にカラクリがある可能性だってある。
「ご主人様、わたしの後ろへ。あの者……かなりの使い手です」
「油断するな。物理も超一流だぞ」
俺の前に立つパルマを守るように、ムシアラが先頭に立った。
けど、額に汗をかき、構えた剣先が震えていることを加味すると、旗色は悪いのかもしれない。
「流石はギルドマスタームシアラ。油断してくれれば、即皆殺しにできたんだがな」
「グルルルルルル」
黒子が半歩踏み出した瞬間、ライナたちが喉を鳴らして威嚇しだした。
けど、動かない。
いや、プレッシャーで動けないのだろう。
もしかしたら、黒子はこの場にいる最強の実力者、なのかもしれない。
「なあ、半分正解ってどういうことだ?」
俺が臆さず話しかけられるのは、その強さを認識できないからだ。
正直、俺が一番弱いこと以外、なにもわからない。
「君と出会ったときはセーバスと名乗っていたが、本当の名は別にある。だから、半分正解だ」
「んじゃ、ドワルムント王国の森で殺されていたセーバスは、別人なのか?」
「いや、この村にいた秘書のセーバスで間違いない」
禅問答だろうか。
よくわからないが、ウソをつかれている感じはしなかった。
なら、考えればわかるはずだ。
…………
「なるほど。俺たちがこの村に来て出会ったセーバスは黒子君だけど、本物も生きていたわけだ。だいぶ前から、拉致して成りすましていたんだな」
「存外、馬鹿ではないようだ」
話をする気になったのか、黒子が足を止めた。
「でも、初対面の俺たちはまだしも、よくラウルを騙せたな」
「世間知らずの餓鬼を手のひらの上で踊らせることなど、児戯も同然だ。いや、児戯のほうが大変だな」
「なら、なんで姿を現したんだ? こんなリスクを背負わなくても、目的は達成できただろ」
「その口ぶりだと、こちらの意図を見抜いている、と聞こえるぞ」
「正直、なんのことやらさっぱりだ。けど、この状況がおかしいのだけは、理解できてる」
「どうおかしいんだ?」
「目的とか意図はわかんねえけど、今まで暗躍してきたのを方向転換した理由があるんだろ。んじゃなきゃ、表に出る意味ねえじゃん」
「ははははは。お前のことも世間知らずの馬鹿だと認識していたが、改めよう。なかなか聡明な馬鹿だ」
肩を揺らして笑う姿からして、誉め言葉なんだろう。
とてもそうとは思えないが、すべてを下に見る黒子からすれば、最上級のそれかもしれない。
「いや、実に愉快だ。褒美として、部下にしてやろう」
「えっ!?」
急なヘッドハンティングに、俺は眉根を寄せた。




