84 確かな成長と変化の兆し
パルマの魔法技術が上がったのは、ササナと一緒に住むことになったから。
それは間違いない。
間違いないのだが……それは一端にすぎない。
大事なのは、向上心を持って行動したことだ。
「ササナ様、少しよろしいでしょうか?」
今も空いている時間を見つけては、せっせと話を聞きにいっている。
ササナ自身疲れているときもあるようだが、魔術の話をするのは、思いのほかリラックスになるらしい。
仕事を忘れることもでき、今ではササナのほうからパルマを誘い、二人で食事や入浴を楽しんだりもしている。
そこに文句はないが、風呂場での魔法実践は禁止した。
「アチィー!」
「冷てぇー!」
マグマを彷彿させる熱湯や凍る寸前の冷や水をかけ湯で浴びたときは、死ぬかと思ったからだ。
「いやいやいや、見ればわかるだろ」
と言う者もいるだろうが、見てもわからないから、禁止にしたのだ。
もうもうと湯気が上がることもなければ、浴室が凍えるようなこともないいつも通りの環境を、一目で看破する能力は俺にはない。
もちろん、一瞬で異変に気づく者もいる。
メイドさんたちやライナは、何事もないように対処していた。
実害があったのは俺だけで、俺が注意深く風呂に入れば、なんの問題もない……ないのだけど、カラスの行水の俺には無理だった。
入浴はささっと終わらせたいし、全裸で洗い場を転げ回りたくない。
とはいえ、自分の未熟さを知り、感化されたのも事実である。
「同席していいか?」
理解できないのは承知の上で、魔法談議に花を咲かせているお茶会に、参加志願したこともある。
「もちろんです。ご主人様」
「お茶の用意をしてもらうわね」
二人は快く同席を許可してくれたが、結果は記すまでもない。
わからないを通り越し、まるで違う言語を話されている感覚だ。
唯一理解できたのは、わからない、ということだけだった。
しかも自分から参加した手前、途中退席するわけにもいかず……現在地がわかっただけでも有意義だったな……と自分を慰めることしかできない。
けど、成長を感じ取れるのは、すばらしい体験だ。
それが自分じゃないとしても、喜ばしい。
「パルマはあと数年も勉強すれば、人間界最強の魔法使いになるのも、夢じゃないわね」
ササナのそれは本音だと思う。
出会ったころとくらべて、パルマの魔法技術は飛躍的に向上している。
「そんな、わたしなんてまだまだです。イッタリーネには、背中の見えない第魔法使いが、数多くいらっしゃいます」
それも本音だと思う。
遠くを見るパルマからは、その者に対する深い尊敬と愛情がにじみ出ている。
その気持ちは、俺も理解できた。
「高い目標があるのはいいことだよな。俺もいつかは、祖父さんやご先祖さんを超えたいもんだ」
二人の背中は遠いけど、あきらめるつもりはない。
魔檻の森で研鑽を積めば、錬金術の神髄にたどり着けるはずだ。
「よし。地道にがんばるか」
「はい。わたしもがんばります」
「アンナ。パルマ。大変だ」
気持ちを新たにした俺たちのもとに、血相を変えたムシアラが飛び込んできた。




