83 メイドさんの恩恵
ササナと同居することで、二つ良いことがあった。
一つは、ササナが雇用する数人のメイドさんが同居することになったこと。
なぜそうなったかといえば、理由は一つ。
ササナが、俺たちの想像より多忙だったから。
毎日ではないが、太陽が昇る前に仕事に赴き、真夜中に帰ってくることもある。
そんな生活を送りながら部屋をキレイに維持することは困難で、メイドさんたちを雇うことになったそうだ。
「全員、実家で雇っていた子たちだから、身元保証も万全よ」
正直それは心配していなかったが、ササナの苦労が減るなら問題ない。
パルマとライナも同意見らしく、すぐに同居は許可された。
「ありがとうございます。アンナ様、パルマ様、ライナ様」
お辞儀の所作も美しかったが、その仕事っぷりはそれ以上に美しかった。
陰ひなたにサポートし、掃除も食事も完璧だ。
俺たちに不干渉でも許される立場なのに、彼女たちは適切な距離を保ちながら、心地よい住環境を提供してくれた。
まさに、家事のスペシャリスト集団だ。
そんな彼女たちの働きに感動した俺たちは、早々に軍門に下った。
というより、がっつり助けてほしかった。
俺とパルマは掃除が苦手だし、料理のレパートリーも少ない。
なら、全面的に任せよう、という話になったのだ。
もちろん給金を支払う気でいたが、それは固辞された。
彼女たちの本職はササナのお世話であり、そこを一番に動くことは譲れないそうだ。
なんの問題もない。
片手間だろうがなんだろうが、やってくれるなら大歓迎だ。
「アンナ様。お召し物は最低一日一回は替えてください」
「アンナ様。食事はよく噛んでお召し上がりください」
「アンナ様。カラスの行水でもかまいませんが、たまには湯船に浸かりリラックスしてください」
「アンナ様。夜更かしをするな、とは言いませんが、睡眠は大事にしてください」
……
なぜか、俺だけが怒られているような気がする。
気のせいだとは思うが、メイドさんたちの視線も厳しい。
今も飲み物を取りに来ただけなのだが、小言を言われそうだ。
(よし。錬金しよう)
逃げるように……いや、錬金部屋に逃げ帰った。
「わん」
部屋にはライナがいた。
逃げてきた……わけではないだろう。
ライナは頭がいいので、メイドさんたちからの評判もいい。
もちろん叱られることはあるが、同じ過ちを二度繰り返さないのが評価されている。
「ライナ様、同じことを何度も言わせないでください」
ため息を吐きながらそう言われるのは、俺だけだ。
……
自分がダメ人間なのは承知の上だが、開き直るのはよろしくない。
千里の道も一歩からというし、改善を図ろう。
とりあえず、机にたまったホコリを拭った。
(うん。キレイは正義だ)
ほかのところも拭いていたら、
「わん!」
とライナが吠えた。
「どうした? って、ヤベッ」
錬金釜から煙が上がっている。
まだ許容範囲だが、温度が上がりすぎると、中の素材がダメになってしまう。
火を消すのが手っ取り早いが、薪なのでそれもむずかしい。
今できることは、薪を退かして火力を弱めることだ。
「熱そうだな」
たぶん、触るとヤケドする。
けど、やるしかない。
「アチッ!」
ダメだ。
耐えられない。
「ご主人様。消化するのですか?」
ライナが救世主を呼んできてくれた。
ありがたい。
「すまんが頼む」
「お任せください」
魔法で火が消された。
ピンポイントで魔法を使うのは高等技術らしいが、いとも簡単に実践している。
パルマの魔法技術の向上。
ササナと生活することが、そこに繋がったようだ。
そして、それが同居してよかったことの二つ目である。




