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82 同居人

 お手製の強化ガラスが、ササナの魔法によって破壊された。


 ……


 ショックで泣きそうだ。

 ただ、壊れたことが悲しいんじゃない。

 たった三度の魔法を凌げなかったことが、悔しかった。


「ご主人様、顔を上げください」

「無理だ。心が折れてる」

「その必要はありません。あの魔法に二度耐えたんです。奇跡ですよ」

「ってことは、ササナが使ったのは、スゴイ魔法なのか?」

「使用したのは初歩の攻撃魔法ですが、威力は上級に匹敵……いえ、それを凌駕していると思います」

「うん。アレは駄目だ。防ぎようがない」


 優秀な魔法使い(パルマ)冒険者(ムシアラ)がそう評すのだから、スゴイのだろう。

 けど、いまいち伝わらない。


「初歩の攻撃魔法なら、パルマもレアハムも撃てるよな?」

『可能です』

「んじゃ、頼む」


 強化ガラスを渡し、再現してもらうことにした。


「では、やります」


 地面に置いたガラスに、パルマとレアハムがレーザーを発射した。

 ピキともパキともいわなかった。


「もう一発頼む」


 二発目も同様だ。


「最後にもう一度だけ」


 三射目も変化はなし。

 全部二人同時に撃っているので、計六射した。

 にもかかわらず、強化ガラスには傷一つない。


「ササナ。一撃頼めるか」


 無言で放たれた一射によって、ガラスにヒビが入った。

 この結果からして、パルマの言う通りなのだろう。

 強化ガラスの性能が低いのではなく、ササナの魔法技術がそれを凌駕しただけなのだ。


 ……


「不満そうね。アンナ」

「まあ、結果だけ見たら不満だな。けど、ササナにも壊せないガラスを作る余地があることがわかったのは、いいことだ」

「ご主人様は、これ以上のモノを作るのですか?」

「もちろんだ。いずれ、ササナにも壊せないガラスを生み出してみせる」

「その心意気は凄いけど、無用の長物じゃないかしら」

「いや、防犯になるだろ」


 完璧を目指して、悪いことはない。

 不審者みたいのもいたし、万全は期すべきだ。


「今のままでも完璧よ」

「いやいや、ササナに割られただろ」

「パルマたちが言ったと思うけど、あの魔法はかなり強力なのよ。高位魔族のあたしでも、連続で一〇は撃てないわ」

「それは、襲撃者がササナと同等の実力者だったら、突破されるってことだろ」

「うぬぼれるわけじゃないけど、あたしクラスの魔族は暇じゃないの。それぞれが上の役職に就いていて、暗殺に動く時間はないわ」

「人間ならいるかもしれないだろ」

「ご主人様、それはありません。高位魔法を使える魔術師は、ほぼほぼ宮廷に雇われております。もちろん例外的な人物はいるでしょうが、魔檻の森に暗殺に出向く者はいません」

「言い切れるのか?」


 パルマが強く深く首肯した。


「アンナが思ってるより、人間が魔檻の森に足を踏み入れるのは覚悟がいるんだぞ」

「って言うわりに、ムシアラたちは気楽に来たよな?」

「魔族と信頼関係を築けてるアンナがいるからな。もしその前提がないなら、絶対に来ない」


 レアハムもうなずいている。

 全員がここまで言うのだから、そうなのだろう。


「けど、パルマがいる以上、このままにはできないだろ。隠しているとはいえ、イッタリーネの王族を危険にさらしてはダメだ」

「なら、ガラス戸を二重にすればいいんじゃない? 職人たちもリフォームは何度でも、って言っていたし」

「それで大丈夫なのか?」

「絶対とは言えないけど、家の中にいるなら安全だと思うわ」

「んじゃ、そうするか。悪いけど、手配を頼めるか?」

「まかせて。それと提案なんだけど、あたしもここに住んでいいかしら? 護衛とはいえないけど、安心材料にはなるでしょ」


 渡りに船だが、そんなことをしていいのだろうか。


「仕事は大丈夫なのか?」

「転移魔法があるから問題ないわ」


 ありがたい話だ。

 部屋も有り余っているし、俺としてはなんの問題もない。

 けど、総意でない可能性もある。

 きちんと確認しよう。


「パルマとライナはどうだ?」

「もちろん賛成です」

「わん」


 問題なさそうだ。

 こうして、初日に同居人が増えた。


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