81 内見
「家のことでなんかあったら、すぐに知らせてください。修理でもリフォームでも、何度だって行いやす」
「大工道具一式を大活躍させてみせますぜ」
『イヤッフ~!』
アフターフォローまでしてくれることに感謝しかないが、のこぎり、かんな、トンカチ、差し金、ノミといったそれぞれが当たった景品を高々と掲げる姿は、異様である。
(やっぱ無理してでも、一式渡すべきだったかな)
時間的にかなわなかったが、限界まで挑む価値はあったと思う。
『イ~ッヤッフ~っ!』
これほど喜んでくれるなら、なおさらである。
けど、無理だった。
魔術の勉強をしながらパルマに錬金術の初歩を教え、かつ必要なモノを錬金した日々は、それなりに忙しかった。
(ライナたちとも遊んだしな)
冷静になればなるほど、これでよかったのだと思う。
職人さんたちは同じ現場で働いているのだから、貸し借りもできる。
(うん。そうだな。これが正解だ)
満足そうに帰っていく親方たちを見送りながら、そう確信した。
「にしても、本当にデケェな」
あらためて見ると、その大きさに圧倒される。
サイズだけなら、貴族の豪邸と大差ない。
これを、俺とパルマで維持できるのだろうか。
「わん」
ライナが存在をアピールしてくれるのはありがたいが、戦力になるかは疑問だ。
雑巾がけはできそうだが、ゆすいだり絞ったりはむずかしいと思う。
(いや、それでも充分だな)
ゴミ屋敷を製造した俺より、はるかに役に立つ。
本人にやる気があるのもいい点であり、後ろ向きな俺とは大違いだ。
「よし。なにはともあれ、中を見るか」
「ご主人様。ご一緒します」
「わん」
「あたしもいいかしら?」
「おれも……」
「私も」
ササナは堂々としているが、ムシアラとレアハムからは遠慮が見てとれる。
恐縮しているのかもしれないが、そんな必要ない。
新築の家に、隠すようなモノはないのだ。
「よし。んじゃ、皆で見学会とシャレこもう」
俺たちは玄関で靴を脱ぎ、ライナは足裏を拭いてから中に入った。
長い廊下の奥にあるリビングは、とんでもない広さだった。
正直、広すぎて落ち着かない。
これだけ広いと暗くなりがちだが、外に繋がるスライド式の大きなガラス戸から降り注ぐ日差しで問題ない。
「ここを突き破って侵入する輩がいるかもしれないな」
「ふっふっふっ。ムシアラよ、その心配は無用だ」
「そんな馬鹿な」
「と思うなら、やってみればいい。斬撃でも魔法でも、好きなだけ打ち込んでいいぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……せりゃ!」
ムシアラが振り下ろした一刀を受けても、ガラスは無傷だ。
ヒビの一つも入っていない。
「では魔法を」
「レアハム。すまないが、それは外から頼む」
「かしこまりました」
渡したサンダルを履き、レアハムが水の魔法を撃ち込んだ。
大波が打ち寄せるような迫力に驚いたが、ガラスは無傷だ。
「もしかしなくても、コレはアンナが作ったんだよな?」
「もちろんだ。自信作だし、ムシアラたちの家のガラスにも採用しているぞ」
「それはありがたいが、いいのか?」
「ダメなら使ってないし、壊れても替えはあるから大丈夫だ」
「なら、予備の一枚を貰えないかしら?」
「いいけど、小さいのしかないぞ」
「充分よ」
「どうぞ」
パルマが渡した手鏡サイズのモノを持ち、ササナが外に出た。
「コレ、壊してもいい?」
「いいぞ」
ササナの指先から、レーザーが放たれた。
ピキッと音がした。
けど、傷はない。
「へぇ~。凄いわね」
あまり驚いた様子もなく、二射目が放たれた。
ビキッ
ヒビが入った。
無言で放たれた三射目で、ガラスは粉々になった。
「なんてこったい」
想定外の出来事に、俺はくず折れた。




