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77 解析はむずかしい

「スゲェな」


 床に並べた素材を前に、俺は改めて母ちゃんの偉大さを知った。

 糸や布に別々の魔術を施しているのは予想済みだったが、その繊細さは想像のはるか上だった。

 縫い合わせに使用する糸と、刺繍に使用する糸で付与されている魔法が違うのにも驚いたが、布も用途によって変えられていた。

 というか、すべてのパーツに違うモノが付与されている。

 しかも、それらの組み合わせによって効果や魔法陣が変わるのだから、お見事と言うしかない。


「これは解析するだけで一苦労ですね。すべてをつまびらかにするのは、個人では途方もない時間を要するでしょう」


 パルマが言うには、ここにある数種類の糸や布でも、組み合わせ次第で多様な魔方陣が構成できるそうだ。

 けど、ちゃんと効果が発揮できるかは別らしい。

 すべてを理解するには、トライ&エラーを繰り返すしかない。

 それはあたかも、複数の組み方ができる白紙のジグソーパズルを完成させるに等しい作業であり、根気と集中力が試される。


「ササナに協力してもらうのはどうだ?」

「……最善ですが、この技術が流出するのは……非常にマズイ気がします」

「そこは安心していいわ。あたしたち魔族に、錬金術師はいないから」

「ササナ様!?」


 パルマはいきなりの登場に驚いているが、それより気になる発言があった。


「魔族に錬金術師がいないって本当か?」

「ごめんなさい。言い方を間違えたわ。魔族の中にも錬金術師は存在するわ。まあ、数は圧倒的に少ないし、優秀な人材は皆無と言わざるをえないけど」

「不足してるのは、教える人材? それとも設備? もしかして、両方……なんてことはねえよな?」

「残念ながら、両方よ」

「マジか!?」

「マジなのよ。まあ、それも当たり前なんだけどね。魔族(あたし)たちからすれば、魔法が錬金術みたいなモノだから。優秀な人材は、どうしてもそっちに集まっちゃうのよ」

「わかる。自己研鑽する環境が整っているほうが、成長を感じる機会は多いもんな。それに、ササナがいるのもデカイんだろうな」

「同意します。身近に超一流を感じれることは、自然とモチベーションを上げますからね」


 うんうんとうなずくパルマにも、そういった存在がいたのだろう。

 もちろん、俺だって例外じゃない。


「爺ちゃんがそれだったな」

「なら、アンナが目標(それ)になってくれない?」

「今は無理だ。まずは生活を安定させなきゃならないし、パルマに魔法を習う時間も必要だ。それに、ライナともコミュニケーションを取らないとダメだからな」

「わんわん」


 外にいるライナの嬉しそうな声が聞こえる。

 中に入ってこないのは、狭い作業場で火を焚いているのが暑いらしい。


「弟子の一人も無理かしら?」

「無理だな。それに、弟子ならもういる」

「わたしです」

「そう。それは残念だわ」


 簡単に引き下がるということは、この答えも想定済みだったのだろう。

 なんにしろ、理解してくれるのはありがたかった。


「で、本題なんだけど。これの解析できる?」


 ……


 なにも言わず、ササナはジッとパーツを観察している。


「できる……だろうけど、上っ面だけね。もっとはっきり言うなら、パルマと大差ないわ。人手が一か二の違いだけね」


 それでもありがたいが、魔族の高官としての仕事があるササナに協力をしてもらうのは、むずかしいだろう。


「ありがとう。こっちで頑張る」

「ごめんなさいね」

「気にしないでくれ。またなにかあったら頼む。それと、少ないけどコレ持って行ってくれ」


 完成した強化塗料を渡し、ササナを見送った。


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