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76 法衣の解体

 瞳を輝かせたパルマが、ずっと拍手をしている。


「こんな凄いことができる錬金術に、わたしは感動しています!」

「確かに姿を変えるのはスゴイが、驚くのはそこじゃないぞ。この法衣の一番スゴイところは、間違いが起きないように設計されているところだ」

「間違い……とは、どのようなモノでしょう?」

「簡単に言うなら、なりすましだな」

「なるほど。それは放っておけませんね」


 パルマの表情が引き締まる。

 さすがの理解力だ。


「この法衣の一番の利点は、他人になれること、であることは間違いないし、それを除外したらこの法衣に価値はない」

「一番の利点が、最大の難点でもあるわけですね」


 うむ、と俺は大きくうなずいた。


「もし流出して犯罪に使用されたら、犯人を捕まえることは不可能……とまでは言わないが、難航を極めるだろう。だからこそ、母ちゃんは法衣に魔法を仕込むんじゃなく、素材に魔法を仕込んだんだ」

「盗難防止でしょうか」

「正解だと思う。けど、母ちゃんのスゴイところは、それだけじゃない。素材に錬金を施すことで、簡単に複製できないようにしたんだ」


 法衣に魔法を付与すれば、一度の錬金で済むし、作業的にも簡単だ。

 けど、母ちゃんはそれをしなかった。

 なぜか。


「たぶんだけど、奥行きを排除したくなかったんだろうな」

「奥行? ですか」

「ああ。術者の力量に一任される魔法陣を付与すれば、幅広い可能性が生まれるけど、悪用される可能性も高まる。だからこそ、決められた効果しか発揮しない魔法陣を採用したわけだけど、製作者としてはつまらない」

「もっといいモノが作れるのに、それを許さないジレンマがあるのですね」

「そこで母ちゃんは考えたんだと思う。素材に魔法を付与して、それを組み合わせることで、様々な効果を発揮するようにしたんだ」


 幅を持たせながらも、素材に組み込まれた魔法陣を深く理解していないと、それを完成させられない。

 そのバランスが最高なのだ。


(さすがだな。母ちゃん)


 作ったモノがどう使われるかをきちんと想像し、悪用されることも想定しているのだから、深謀遠慮に頭が下がる。

 と同時に、この法衣は魔法の知識がないと完成しないこともわかった。


「パルマ。もしこの法衣に組み込まれている魔法陣を理解したうえで再現するには、どれぐらいかかる?」


 …………


「ご主人様が仰るように、法衣を作る布や糸に魔法陣を構成する何かが付与されており、それらをパズルのように組み合わせることで完成するのだとしたら、わたしにそれを理解できる知識があるなら再現することは可能でしょうが、それができない可能性も充分にあります。正直、現状ではなんとも言えません」


 もっともな意見だ。

 なら、やってみよう。


「分解するぞ」

「よろしいのですか?」

「このままじゃ手詰まりだからな。先に進むためにも、やってみるしかない」


 ダメだったら、王都から新しい法衣を送ってもらえばいいし、直接行って作り方を教わるのも手だ。


「はい!」

「よし。まずは糸を解くぞ」


 切るのが簡単だが、可能なかぎり現物を残しておきたい。

 玉止めをカットし、糸を解きたい……ところだが、これがなかなかむずかしい。

 丁寧に紡がれたモノはしっかりしていて、おいそれとはいかなかった。


(やるな。母ちゃん)


 裁縫したのは職人(べつじん)だと思うが、母ちゃんが素材を錬金したからこそ、こんな面倒なことをしているのだ。


「ご主人様。お手伝いします」


 パルマが対角線から援護を開始した。

 ありがたい。


 …………


 チマチマした作業を黙々とこなし、数時間後、俺たちは法衣の解体に成功した。


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