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75 変身

 寸胴型の錬金釜で強化塗料を作りながら、母ちゃんが作った法衣を観察する。


 ……


 憶測の域を出ないが、法衣を作った後に魔法を付与したのではなく、材料に細工を施した……ように思う。

 そうすることで、素材を加工した形によって、別の効果を発揮するようにしたのだ。


 ……


(そんなことできるのか?)


 自分で考えたことを自分で否定するのも大概だが、むずかしい気がしてならない。


(いや、待てよ。効果を一方向に定めればイケるか?)


 正反対の事象を起こすのは大変かもしれないが、灯を火の玉にするぐらいなら可能かもしれない。

 けど、それを一つの魔術式で兼用できるのだろうか?


(ダメだ。さっぱりわからない)


 このまま悩んでいても、時間の無駄だ。

 魔術の練習をしながら、パルマにいろいろ訊いてみよう。


「先生。魔法を教えてください」

「もちろんです」


 快諾してくれたが、なぜかモジモジしている。


「どうした?」

「その……ご褒美……ではありませんが、わたしに錬金術をご教授願えませんか?」

「それはかまわないけど、作れるモノは限られるぞ。なんでかわからねえけど、クロムハイツにしか作れないモノがあるんだよ」

「かまいません。もとより、少し学んだだけでご主人様と同等になれる、とは考えておりません」

「よし。んじゃ、お互い得意分野を教え合おう。ってことで、まずは俺が教えてもらってもいいか?」

「はい」

「さっそく質問なんだけど、火を生み出す魔法があるとして、その量はどうやって調整するんだ?」

「方法は二つあります。簡単なのは火を生み出す魔法陣を描き、自身の魔力量で調節する方法です。しかし、初心者や魔力を扱うことに長けていない術者であるなら、あらかじめ決めた量を生み出す魔法陣を使用することをお勧めします」

「前者は魔力の繊細なコントロールが必要で、後者は繊細な魔方陣を暗記することが必要、ってことで合ってる?」


 パルマが拍手した。

 ということは、正解だ。


「ご主人様。これをご覧ください」


 パルマが空中に描いた魔法陣に向けて魔力を注ぎ込むと、小さな灯が点った。

 それを継続する時間に比例して、火の玉が大きくなっていく。


「スゲェな……おおっ!?」


 小玉スイカぐらいで膨張は止まったが、火力は増し続けている。

 近づいていないのに熱さを感じるのが、その証拠だ。


「次いでお見せするのが、コレです」


 火の玉を消し、魔法陣は残したまま、その横に新たな魔法陣を三つ描いた。

 どれも似ているが、よく見るとデザインが違う。


「これが後者のやつか」

「正解です」


 ボッ、ボッ、ボッ、と小、中、大の火球が生まれた。

 けど、魔力を注ぎ続けても、変化は起きなかった。


「なるほど。これなら熟練者は前者のほうが楽だし、未熟者は後者が安全だな……あっ!? わかった」

「何がわかったのですか? もしかして、この魔術を体得されたのですか?」

「さすがにそれは無理だ。俺が理解したのは、母ちゃんが素材に錬金した理由だ」


 手に持っていた法衣を広げた。


「ご主人様。何ですか? それは」

「んん!? ああ、そうか。パルマは法廷にいなかったな。これは、俺の母ちゃんが作った姿を変える法衣だ」

「凄い! そんなことができるのですか?」

「試してみるか?」

「はい!」


 渡した法衣を身につけ、パルマが魔力を込めた。

 すばらしい。

 一瞬で裁判官になった。

 けど、パルマは首をひねっている。

 自分で自分の姿は見えないから、当然だ。

 ここには鏡もないし、どうしたものか。

 悩むまでもない。

 俺が実践すればいいだけだ。


「パルマ貸してくれ」


 無言で返された法衣を身につけ、魔力を込める。

 上手くいくだろうか。


「おおおっ!? す、凄いです!」


 上手くいったようだ。


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