72 強化塗料を作ろう
錬金釜に材料を入れる前に、炉が必要だ。
外枠は魔力で小さな四角い壁を作ればいいが、中に敷き詰める灰はどうしよう。
木を燃やせば勝手にできるが、床が心配だ。
大事なテントに穴を開けるわけにはいかないし、不具合を起こす可能性も否定できない。
(薄いタイルを敷けばイケるかな?)
俺の魔力でもそれっぽいモノはできたが、問題は強度だ。
マジックリュックから木の棒を取り出し、叩いてみた。
外枠に異常はないが、薄くしたタイルはダメだ。
ちょっと力を入れただけで、ヒビが入っている。
こうなると、外枠も信用できない。
というか、信用してはダメだ。
「火を扱う以上、慎重に慎重を重ねないとな」
自分が死ぬ分にはあきらめもつくが、パルマやテントを巻き添えにはできない。
さて、どうしたものか。
「ご主人様。マジックバックをお借りできますか?」
野菜を抱えた救世主が現れた。
「これを自由に使ってくれ。それと、小さい炉を作ってくれないか?」
「大きさは、これと同程度でよろしいですか?」
「ああ。頼む」
「了解しました」
渡したマジック風呂敷に野菜を収納したパルマが、即座に炉を完成させた。
ガンガンガン
力一杯叩いても平気だ。
傷もヘコみも皆無である。
「助かった。これで作業に入れる」
マジックリュックから小さな破材を取り出し、火をつけた。
「錬金をするのですか?」
「ああ。家に塗る強化塗料を作るんだ」
「見学してもいいですか?」
「気の済むまで観察してくれ」
「ありがとうございます」
錬金釜をセットし、作業を開始しよう。
まずは素材を煮込み、ベースとなる塗料を作る……といきたいところだが、すべてを一からやるには時間が足りない。
基礎に使う分だけでも、さっさと作らねば。
という時に便利なのが、溶かして混ぜるだけでできる簡易セットである。
「大丈夫かな?」
長年の研究の末に完成した便利アイテムだが、保存がむずかしいのが玉に瑕だ。
今考えると、奴隷を買おうと思ったきっかけになった爆発も、劣化が原因だと思う。
きちんと確認しよう。
……
大丈夫だ。
これなら問題ない。
「あらよっと」
錬金釜に放り込み、グツグツ煮る。
「よし。完成だ」
「えっ!? 本当ですか?」
パルマが信じられないのも無理はない。
錬金術っぽいことは、なに一つしてないのだから。
けど、これで出来上がりなのだ。
「問題は、これをどう運ぶかだな」
アーチ状の取っ手はあるが、間違いなく熱い。
「魔法で浮かせるのはどうでしょう?」
「頼む」
「えっ!? 重い!」
パルマの表情が険しい。
額に薄っすら浮かぶ汗からしても、よほど手強いようだ。
「パルマ。無理しなくていい。たぶんだけど、ご先祖さんの錬金釜には、魔法耐性が付与されてる」
そうでなければ、この結果にはならないはずだ。
俺が片手で運べたことも、それを裏付けている。
「しょうがねえ。灯を消して粗熱を取るか」
「それなら魔法でお手伝いできます」
風で火を消し、周りに氷の支柱が立った。
スゴイ技だ。
ご先祖さんや母ちゃんが錬金術に魔法を付与したのも、納得でしかない。




