68 テントに込めた想い
「パルマ、テントに施された魔法をどう思う?」
「今も所々不安定なままで、変わりがないように思います」
「もっとよく観察してごらんなさい」
……
俺も目を皿のようにして見たが、ちんぷんかんぷんだ。
というか、これは素人にわかるモノなのだろうか。
……
わからないと思う。
なら、ここにいなくてもいい気がするのだが……
「じっとしてなさい!」
「はい」
そわそわしたつもりはないが、ササナにはお見通しのようだ。
いや、視野を広く持つ余裕があるのだろう。
(んん!?)
視野を広く。
これがキーワードかもしれない。
俺は椅子から立ち上がり、テントをぐるっと一周した。
感じ取るモノがあったのだろう。
パルマも同じことをしている。
……
「あっ!」
俺はなにもわからなかったが、パルマは気づいたようだ。
「ササナ様。もしかしてこのテントには、複数の魔法が施されているのではありませんか?」
「正解よ。じゃあ、いくつの魔法が施されているかわかる?」
わからない。
けど、二つ以上は確実なわけだから、「三かな? いや、四の可能性もあるか」なんて、知ったかりをすることはできる。
(まあ、やらねえけどな)
見当違いだったら、恥ずかしすぎる。
そして、真剣に悩んでいるパルマに失礼だ。
「こことここが境目……じゃないんだとしたら、ここの説明ができないし……う~ん」
腕を組み、眉間にシワを寄せ、あれやこれや考えている。
真摯に向き合う姿は好ましいと同時に、わからないからと考えるのをやめた自分が恥ずかしかった。
もう少しだけ、頭を働かせよう。
このテントは、ご先祖さんが錬金したマジックバックの改良版だ。
その用途は、中で安全に過ごすこと。
であるのなら、わかったかもしれない。
「もしかして、一個なのか?」
『えっ!?』
パルマとササナが、目を丸くした。
「あれ? その反応は……合ってるの?」
「え、ええ。正解よ」
「凄いです! ご主人様! 何を見てその結論に達しのか、わたしにご教授ください」
「悪いけど、それは無理だ。俺がこの結論にたどり着いたのは、魔法使いとしてじゃなく、錬金術師としてだから」
??
パルマとササナが、そろって首をかしげた。
わからないのも無理はない。
俺だって半信半疑なのだ。
「正直、俺には魔法のことはわからない。けど、これを作ったご先祖さんの気持ちは、多少理解できる。さっきの話を聞くかぎり、これを使うのは敵意や害意のある人間が指定した場所だろ? なら、そこで使う物に、複雑な魔術は組み込まないだろ。なぜなら、壊れたら大変だからな」
当時の人間の魔法レベルは知れないが、高い可能性は排除できない。
そんな連中に嫌がらせでもされようものなら、全滅だってありえる。
それを防ぐためにも、シンプルかつ頑丈にすべきだと思う。
「だから、一番大切な多種族での使用を妨げる効果を最大かつ長持ちするようにして、ほかのモノは補助的な役割にしたんじゃねえかな」
例えるなら、木だ。
大きく太い幹を倒れないようにして、枝葉は切られてもいいようにしたのだと思う。
「なるほど。一つの魔法でありながら、脆い個所とそうでない個所があるんですね」
「その通りよ。しかもその脆い個所は、簡単に修復できるようにもなってるの」
「へぇ~、そりゃスゲェな」
「魔法の知識もなく、それを看破したアンナのほうが凄いけどね」
「そうですよ。ご主人様」
「わん」
褒められるのは嬉しいが、そんな大層なモノじゃない。
俺がやったのは、作り手の気持ちを汲んだだけだ。
本当にスゴイのは、何百年も前に作ったモノが、こうして残っていることである。
よほど大事にしてきたのだろう。
「これ、使っていいのか?」
「物は使うためにあるのよ」
「ありがとう。大事に使わせてもらう」
「ええ。そうしてちょうだい」




