67 錬金釜の回収
あぶなかった。
床下に落ちただけで、ケガはしなかった。
錬金釜に押し潰されることもなかったし、一安心だ。
後は、子ナイトウルフが救助に来てくれるのを待とう。
「にしても、マジで危機一髪だったな」
現場が二階だったら、無傷では済まなかった。
最悪、死んでいたかもしれない。
ブルッ、と背中が震えた。
「アンナ、生きてる?」
「その声はササナか?」
「そうよ。で、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」
「ケガは?」
「してない」
「よかった。じゃあ、今助けるわ……って、何よこれ!? めちゃくちゃ重いじゃない!」
「無茶するな。足場が抜けるぞ」
魔族とはいえ女性一人で持てるモノじゃないし、踏ん張ったらササナの二次被害もありうる。
「それは大丈夫よ。あたしは魔力で浮いてるから」
「んじゃ、そこにいるのはササナだけなのか?」
「ええ。パルマもあの子も外で待機してる」
賢明な判断だ。
しかし、このままではどうしようもない。
(う~ん。どうしたものか)
横を向いたら、すごいことに気づいた。
「ササナ。這っていけば、外に出られそうだ」
「本当?」
「ああ。パルマたちの足が見える」
「そう。じゃあ、あたしも外に出るわね」
「おう」
光りを目指し、這い進む。
「わん」
子ナイトウルフが俺に気づき、床下をのぞき込んだ。
目が合っているので、間違いなく出られるだろう。
「わんわん」
「どうしたのですか? あっ!? ご主人様!」
しゃがみこんだパルマも、俺に気づいた。
あと一息だ。
「ふいぃぃ」
床下から這いだし、額の汗を拭った。
正直、四つん這いで進むのが、こんなにつらいとは思わなかった。
「大丈夫ですか?」
「ああ。ケガはしてない。それよりも、俺の荷物はどこだ?」
「あそこです」
テントの近くに放置されているマジックバックに近寄り、中を漁る。
「これか? それか? あれか?」
なかなか目当ての物が出てこない。
(この辺も改良しなくちゃダメだな)
なんて思っていたら、当たりを引いた。
「よし。んじゃ、ちょっといってくる。ササナも悪いけど、もう一度中に入ってくれ」
「いいけど、何する気?」
「錬金釜を回収する」
マジック風呂敷を手に、俺は再度床下に潜った。
「ササナ。いるか?」
「ええ、いるわよ」
「んじゃ、俺が合図したら、錬金釜を落としてくれ」
「そんなことして大丈夫? 危ないわよ!?」
「実行の前に避難するから大丈夫だ。それより、ササナは大丈夫か? 倒壊に巻き込まれる恐れもあるぞ」
「問題ないわ。万が一そうなったとしても、傷一つ付かないわよ」
「わかった。信じるからな」
錬金釜の下に風呂敷を広げ、四隅に石を置いた。
こうすれば、多少の風には耐えられるはずだ。
(よし)
最終確認をし、俺はシャカシャカシャカと床下から出た。
「ササナ! やってくれ!」
「オッケー!」
メキメキ……ドスン!
錬金釜が落下するような音が聞こえたが、家は倒壊していない。
これなら大丈夫そうだ。
「駄目です!」
「わん」
再度潜ろうとした俺を、パルマと子ナイトウルフが止めた。
「いや、行かねえと錬金釜が回収できねえだろ」
「ササナ様。風呂敷をたたんでもらえますか?」
「いいわよ……って、何よ!? これ!? ……これ作ったのアンナよね!? こんなとんでもないモノをあんな使い方するなんて、信じられないわ」
外に出てきたササナがこめかみを押さえている。
「ですよね。驚きますよね」
「ええ。驚きすぎて、寿命が縮んだ気がするわ」
「わたしもです」
ササナとパルマが深くうなずきあっている。
シンパシーが生まれたのはよいことだが、物申させてもらう。
「これはそんなにすごくねえだろ。俺からすれば、あのテントのほうがすごいぞ」
『はあぁぁぁ』
でっかいため息だ。
二人だけでなく、子ナイトウルフも一緒だ。
「あのテントの魔法技術の説明は、もう終わったのか?」
放っておくと集中砲火をくらいそうなので、話をそらした。
「はあぁぁぁ。それをする前に、アンナが問題を起こしたんでしょ?」
「すんません」
「わかればいいの。じゃあ、あたしとパルマの話をそこで聞いてなさい」
「はい」
風呂敷を渡された俺は、ササナが家から持ち出してきたイスに腰かけた。




