95 黒子の最後
黒子を魔檻の森に押し出すことに成功した。
こうなればササナの助力も借りれるので、負けることはない。
とはいえ、まだなにも終わってはいない。
「邪魔だ! 退け!」
グレートゴーレムに押さえつけられながらも、黒子はジタバタともがいている。
戦意喪失はしていないが、炎の勢いは目に見えて衰えている。
消えるのも、時間の問題だ。
「往生際が悪い……って言っちゃえばそれまでだけど、その執念は見事ね」
「勝った気になるな! お前らは絶対に殺す!」
「無理ね。魔檻の森にいる以上、あたしが好きにさせないわ」
「関係ない! どんな手を使っても、お前らを殺すんだ!」
「じゃあ、やってみなさい」
見下ろすササナと目が合い、黒子が唇を噛んだ。
本音では、もうどうにもできない、ことを悟っているのだろう。
「降参だ」
切れた唇から血を流しながら、黒子は負けを認めた。
もがいていた体からも力が抜け、動くのもやめてしまった。
「アンディ。なぜこんなことをしたのですか?」
「それは……」
黒子が語った過去に、パルマは顔を伏せた。
「イッタリーネの暗部は深い。だけど、王女である君なら、綺麗にできるかな」
「わかりました。わたしにできることは、精一杯努めると約束します」
「ありがとう。アンナ・クロムハイツ。君にも迷惑をかけたが、王女に助力してもらえないだろうか」
それはかまわない。
けど、この展開は謎だ。
黒子の姿勢が、数秒前と違いすぎる。
「いぶかるのは当然だ。けど、死を間近にしたら、復讐なんてどうでもよくなった。それよりも、第二第三のアンディ……イッタリーネを生まないことのほうが重要だ」
なるほど。
納得の理由だ。
けど、なにか引っかかる。
上手く言葉にできないが、なにかがウソくさい。
(なんだろうな……あっ)
黒子の言葉を思い返して、あることに気づいた。
(やっぱりこいつ、あきらめてないんだな)
恐ろしい執念だ。
自分の信念を曲げてでも、目的を遂行しようとしている。
けど、惜しむらくは、黒子がここまで追い詰められたことがないことだ。
自分のプライドより悲願の達成を取ったのだが、無意識に抵抗が顔を出した。
「今の名前が、心底嫌なんだな」
「なんのことだ?」
「アンディ・イッタリーネ、って言いたくないんだろ? だから、妙な間が空いたんだ」
名前もそうだが、黒子は一人称すら口にしていない。
俺、僕、私と言うことで、アンディ・イッタリーネを認める気持ちになるのが、嫌なんだと思う。
けど、それほど負の感情を抱くモノを、俺たちを油断させるために発したのだ。
「チッ!」
黒子の全身が一気に燃え上がった。
「獄炎爆発!」
決まっていれば、文字通り爆発したのだろう。
けど、それは起こらなかった。
「おイタはダメよ」
「クソがっ!」
ササナに邪魔されたことに、黒子が憤る。
「なんでだ! なんでお前らの人生ばかりが優遇される!」
俺はその通りかもしれないが、他のみんなは違う。
冒険者だったムシアラとレアハムが辛酸をなめているのは間違いないし、パルマだって奴隷に身を落とした。
圧倒的な力を有しているササナだって、魔族というだけで忌み嫌われている。
ライナだって、魔獣というだけで討伐されても仕方がない。
けど、それを言ったところで、黒子の心は救われない。
王侯貴族を皆殺しにできない以上、満たされることはないのだ。
「がはっ」
黒子が盛大に血を吐いた。
急速に顔色が悪くなり、手足も震えている。
「あ~あ、これでおしまいか。実に下らない人生だ。けどまあ、その顔が見れただけマシか」
悲痛に歪むパルマの表情に薄笑いを浮かべ、黒子の炎は完全に消えた。
その命とともに。




