94 決着
黒子を中心に収めた炎の球が、グニャグニャと形を変えている。
「ぐあああああああ」
苦悶の表情を浮かべながら、黒子はじっと耐えている。
そうまでして、戦わなければいけない理由があるのだろうか。
……
俺にはわからない。
けど、腹を決めているのはわかる。
「獄炎鎧の完成だ」
燃え盛る炎のような瞳が、それを示していた。
「アンディ! こんなことはもうやめましょう?」
「命乞いなら無意味だ!」
「そんなんじゃありません。わたしは、わたしが知っているアンディに戻ってほしいだけです」
「戻ることなんかない。これが本来の姿だ」
「そんなことありません。嘘であの笑顔は作れません」
「いいや、簡単にできる。お前らを殺す未来のためなら、どんな表情でも浮かべてみせるし、屈辱にも耐えてきた!」
「それほどまでに、わたしたちが憎いのですか?」
「ああ。すべてが憎い! イッタリーネもドワルムントも関係ない! 幸せに生きるすべてのモノが気に入らない!」
燃え盛る炎が、黒くなった気がする。
それはあたかも、黒子の心を表しているようだ。
もう、届く言葉はないだろう。
「アンディ……」
パルマも、名を呼ぶことしかできなかった。
「おしゃべりは終わりだ。地獄を味わせてやる!」
黒子が地を蹴り、グレートゴーレムに迫る。
ザシュッ!
切断まではいかなかったが、小太刀がグレートゴーレムの腕を深く削った。
それだけでもスゴイが、切断面がゴウッと燃え上がる。
グレートゴーレムでなければ、焼死していただろう。
凄まじい威力だが、諸刃の剣でもあるようだ。
黒子が獄炎鎧を纏ってから、絶えずチリチリと髪や肌が焼ける音と臭いがしている。
苦しそうな表情を浮かべていることからも、黒子が命を削っているのは間違いない。
「殺す。殺してやる」
怨嗟に満ちたつぶやきが、重く聞こえる。
まるで、世界を呪っているようだ。
「ルシファー、ムシアラ、レアハム、ライナ、パルマ、アンナ。一人残らず、殺してやる!」
攻撃はすべてグレートゴーレムが防いでいるが、黒子は俺たちを斬っている。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!
少しずつ小さくなるグレートゴーレムに、満足そうだ。
けど、悲しかった。
俺だけじゃなく、パルマ、ライナ、ムシアラ、レアハム、ササナも同じ気持ちだと思う。
「黒子の過去は知らないけど、もういいだろ。今なら、まだ引き返せるぞ」
「馬鹿が! 命乞いをするなら、もっと頭を使え!」
「そんなんじゃねえ。アンナは、お前の心配をしてんだ」
「馬鹿に心配されるほど、落ちぶれちゃいない!」
「そうではありません。あなたはもう、状況を理解できていないのです」
「そんなことはない。お前たちを殺せることは、ちゃんと理解している」
笑みを浮かべ、黒子が小太刀を振るう。
何度も何度も何度も。
「アンディ。あなたが歪んでしまったのは、わたしが原因ですか?」
「そうだ! お前ら王侯貴族の責任だ!」
「そうですか。なら、わたしの命をあげます。だから、昔のあなたに戻ってください」
「その勘違いがムカつくんだ! お前一つの命で満足するほど、こっちの人生は軽くない!」
よほど辛く悲しい人生を歩んできたのだろう。
けど、それを他人にぶつけるのは、筋違いである。
「お前らのような害悪を生み落とす世界は、滅ぶべきなんだ!」
すべてを拒絶する絶望を抱いたせいで、盲目になってしまったのだろう。
「殺してやる!」
無理だ。
そんなことは、どうしたって叶わない。
獄炎鎧に焼かれた黒子の動きは、あきらかに落ちていた。
最初、俺には認識することすらできなかった太刀筋も、今ははっきりと見える。
「パルマ。グレートゴーレムに、黒子を魔檻の森に押し込むように命令してくれ」
「わかりました。創造主パルマ・トーチスが命ずる。アンディを魔檻の森で抑え込め」
「了解」
グレートゴーレムがタックルしたまま黒子を掴み、魔檻の森に飛び込んだ。




