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召喚から始まる人生二周目〜今度の召喚は赤子から!?〜  作者: 谷口 水斗
学園 初等部編

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26 強さとは


「ふわぁ⋯⋯」

「随分遅いんですね。起きるの」

「ひゃあ!?」


いきなり後ろから声がして大きな声を出してしまった。


「どうして貴女はいつもいつも驚かせてくるんですか!」


いつもいきなり現れたり後ろから声をかけてくる彼女に抗議の声をあげる。


「今回はたまたまあなたが起きたタイミングなだけですよ。わざとではありませんので」

「では以前はわざとであったと!?」


本当にこの人は⋯⋯。何を考えているのかが分からない。

そもそも私の部屋に平然と侵入してる時点で分からない。


「今日は何かご用が?私は予定がありませんので使用人も来ないと思いますが⋯」

「来週明けの日時場所についての確認と軽く帝国を調べてきた結果をお伝えしようと思いまして」


なぜこの人はさも当然のように話すのだろう⋯⋯帝国の内部を調べるなんて軽いものではないはずなのに。


「来週明け、私とシグマは召使いとして領主邸に居ます。と言っても形だけです。何もしませんよ」

「そう⋯ですか。では機を見て私の控え室に来られるということでよろしいのでしょうか」

「はい。その認識で構いません。今までのように気配を消して入るので驚かれないようにしてくださいね」


気配を消すのレベルが明らかに高い人相手に素人の私がどうやって気づけというのだろう⋯


「シグマも居ますから大丈夫ですよ。私は魔力的な遮断に加えて所作も徹底してますが、シグマにはそういうのは無いので。注意していれば気づけますよ」


彼女は心を読んだかのようにそう言う。


「て、帝国についても何かあると言っていましたね。何か分かったのでしょうか」

「⋯シグマの両親と実験の近況ですかね」

「シグマのご両親ですか!?生きているんですか!?」


私は思わず大きな声を出してしまった。

聖女を継いだ時、先代から伝えられた実験体のこと、シグマのこと。

シグマの両親は行方不明だと先代は言っていた。

どうやって見つけ出したのだろう⋯


「父親だけですがね。生きてますよ」


そう言う彼女の顔は明らかに不機嫌だった。

何故だろう⋯⋯


「母親は⋯7年前、シグマが生まれると同じくして亡くなったそうです」

「そんな⋯」

「⋯⋯私は父親に会わせるつもりはありませんよ」

「ど、どうしてですか!?」


シグマは一度として両親に会ったことがない。両親の存在すら知らないかもしれない。それなのにどうして⋯?


「⋯⋯シグマの父親は、実験体のことも全て知っている。シグマが実験体になっていることも知っていた」

「⋯⋯え?」


シグマの父親は全てを知っていた⋯⋯?なのに⋯⋯シグマは⋯⋯


「⋯⋯シグマの母親は⋯アルファです。帝国の最初の実験体の」

「え⋯⋯」


先代から話は聞いていた。シグマを含む実験体のことを先代に頼み、聖女である私たちが帝国の内部に潜り込めるようにしたのもアルファだと。


そのアルファがシグマの母親⋯?一体父親は誰だと言うのか⋯


「シグマの父親は誰なんですか⋯?」

「知る必要はないでしょう。向こうも会いたがっていませんし」


あっけからんと彼女は言う。


「⋯⋯シグマは⋯シグマはこれからも1人ということですか?せっかく父親が生きていたのに⋯⋯それなのに⋯⋯」

「?訳の分からないことを言いますね。実のとはいえ父親をする気がない人の元にシグマを置く意味なんてありますか?それに⋯⋯」


彼女は続けて言う


「お母様はシグマを離す気は無いですよ。まるで新しい子供ができたかのように接してますし。私は⋯⋯少し考え方が違うので一線は引きますが、一人にさせる気もありません」

「⋯⋯あなたが⋯あなたの家がシグマの家族になると⋯?」

「えぇ。殺さなかった時点で⋯その覚悟はしてましたよ。改めて確定したに過ぎません。お母様も家の者も皆、シグマのことを家族として迎え入れています。もちろん親戚にあたるこのセーラム家も」


彼女の言葉に嘘はない。聖女である私には言葉の真偽を確かめる力がある。終始それで審判していたが一度として嘘になることはなかった。

最初から⋯あの子を生かした時からもう決めていたというのだ。

王国侯爵家として私も名を知るネーデル家。

だからと言ってここまで覚悟を持てるものではない。

彼女からすれば⋯⋯きっとそれは大きなリスクだったはず。

それなのに彼女は⋯⋯


「⋯⋯どうして⋯それほどに⋯強いのですか⋯」


それは小さく、出てしまった言葉だった。

しかし彼女がそれを聞き逃すはずがない。

思わずハッとなって彼女を見た。

彼女は今までで見た事のない、複雑な表情をしていた。


「強い⋯⋯ですか。そうですね。人から見ればたしかに強さなのかもしれませんね。けれど⋯⋯これは私の弱さですよ。色々分かってしまうからこそ、最も自分の好む形にしようとする。でもそれは弱さです。それはいつか大きな⋯取り返しのつかないことを産んでしまうかもしれない」


また、彼女の雰囲気は年齢不相応のものとなった。

少し儚い、けれど強い意志のある、そんな雰囲気に。


「私はこの弱さを悪い事だとは思いません。むしろ私はこの弱さを捨てたくない。いえ、捨てるべきではないと思っています。きっとこの弱さを捨ててしまったら、それは⋯人ではない」


「私はこの弱さを許容しています。だからこそ、その弱さを受け入れられる強さを持つことにしているんです。実力で⋯その弱さを補えるなら、弱さを捨てる必要はありませんから」


「捨てるしか無かったこともあった。けれど、そこに残ったのは後悔です。ただ癒えぬ傷と後悔だけがあった。私はもう⋯そのような思いはしたくない」


彼女の言葉に重みが増す。何百年も生きたかのような、神の言葉に近い重みを。


「だから私はこの弱さを捨てないことにしました。捨てなければならないような状況にはしない。そして、守りたいものも、全て守る。そのための力であり強さです」


強い意志だった。とてもとても強い意志だった。私には無い⋯強さだ。


「でも⋯貴女は私のようにはならない方がいいですよ」

「な、なんででしょうか」


突然の振りに戸惑った声が出てしまった。


「私は誰も頼ろうとしませんからね。一人で全てを為そうとする。それはいつか孤独を生みます」

「⋯⋯⋯」

「そうなるべきではないと私は思います。人も頼ってこそ強さだと思うので。私はただ⋯孤独を選んでるだけですから。私を参考にするべきではない」


自嘲気味に、自らへの皮肉も込めて、彼女はそう言う。彼女の目はどこか遠くを見ていて、少し悲しそうだった。


「⋯あなたは時々、すごく長い時間を生きた人のような発言をしますね。年下とは思えない⋯そんな雰囲気があります」

「⋯⋯⋯」


私の言葉に、彼女は困ったような、悩んだような、そんな顔をして笑う。


「⋯⋯ネーデル家に居る限り、私は侯爵令嬢メアリ・ハル・ネーデルですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」


彼女の纏っていた雰囲気はいつの間にか元の侯爵令嬢らしいものに戻っていた。


「そうでした、これをあなたに」


そう言って彼女がどこからともなく出したのは謎の食べ物。


東の国の主食である米の上に赤い何かが乗っている。


「マグロって知ってますか?このセーラム領の港でも置いてあったりするんですが」

「名前は聞いたことがあります。魚であればなんでも盗む猫すら盗もうとしない魚ですね。聖国の海でも稀に獲れるそうです。場所ばかり取って邪魔だと視察の際にお聞きしました」

「米の上に乗ってるのがそのマグロです」

「え?」


彼女の言うことが信じられなかった。米の上に乗ってるのがあの悪名高いマグロだと言うのだ。その上、生である。


「⋯⋯私の目には生のように見えるのですが⋯」

「生ですよ」


即答で返ってきた。


「確かにマグロってすごく足が早いんですよ。こんな感じで凍らせないと保存なんて不可能です」


そういいながら彼女はどこからともなくマグロを取り出す。1匹が丸々凍っている。


「それは昨日の余りです。シグマと来る時にはまた別のものを考えてますが、シグマは多分これも食べてほしいとは思ってるんじゃないかと思いまして」

「それで⋯今⋯?」

「えぇ。別に重いものでもないですし寝起きでも食べれるでしょう」


そういう問題ではなくあのマグロを生で食べるということに驚いている。


「鮮度は昨日のままなので大丈夫ですよ。昨日の朝、市場でその場で凍らせて、昼に捌いたのを異空間収納に入れて置いたものなので。異空間収納の中は時間が止まってるんですよ」


さらっとすごいことを言っている気がするがもう突っ込むのは諦めた。こちらが先に持たなくなる。


「⋯⋯どう食べるのが正解なのでしょう」


皿の上に一つだけ置かれたマグロ。食べ方が分からない。


「手で持ってこの醤油につけて食べるんです。こうやって」


彼女はまた別の同じ形をしたものを出して手本を見せてくれる。


「手で⋯⋯?」

「えぇ。箸は使えないでしょう?」

「⋯⋯⋯」


箸。東国で食事の際に使われるものだと聞いている。

見た事はあるが使い方は確かに分からない。


「これにフォークを使うのだけは許せません。使うにしても箸です。使えないなら手でいってもらう他ありません」


拒否権は無いようだ。


「別に作法が問われる場でもないでしょう。咎める人なんていませんよ」


その通りではある。ここにいるのは彼女だけ。


「い、いただきます」


彼女がやっていたように食べる。すごく悪いことをしている気になってしまう。


「⋯⋯!」

「シグマと同じような反応しますね」


彼女がそう言う。米の上に乗ったマグロは口に入れた途端に溶けたようになくなってしまった。


「溶けたように無くなったでしょう?大トロと言われる部位です。さっきのマグロでだいたい500gぐらいしか無かった希少部位なんですよ」

「⋯⋯マグロがこんなに美味しいものだとは知りませんでした」

「ああやって保存できなくても朝揚がったものをその日の昼に解体して食べるぐらいはできると思いますよ。聖国でも揚がるのでしょう?」


聖国の料理人にあの魚を解体することができるのだろうか⋯そもそも拒否されそうだ。


「とても美味しいものでした。ありがとうございます」

「大したことでは無いですよ。マグロは沢山ありますし」


彼女はそう言って席を立つ。


「私はそろそろ行くとしましょう。貴女の侍女が来ているようですし。次は⋯⋯シグマと共に会いに来ますので。では」


その言葉と同時に彼女の姿を認識できなくなってしまった。

私は一人、つぶやく。


「⋯⋯はい。お待ちしています」




今回は短期間で更新できました!

更新頑張ってまいります!

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