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召喚から始まる人生二周目〜今度の召喚は赤子から!?〜  作者: 谷口 水斗
学園 初等部編

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25 実験体


静まり返った石畳の通りに降り立つ。


翌早朝、私は帝国の首都に来ていた。


流石にセーラム領からは気が遠くなる距離なので転移魔法を使った。


目的は帝国の実験体の調査。シグマの事実上の姉に当たるこれまでの実験体の情報、そして新たな実験体が作られていないかだ。


「早朝ですからここも静かですね⋯⋯」


私が歩いているのは帝都の中央通り。昼間は人でごった返す場所だ。

早朝ということもあり、飲食店の仕込みをする人以外に人通りはない。


「やはり情報を集めるならここですよね」


私が足を止めたのは冒険者ギルド。私はインビジブルで姿を消し、ギルドに潜入する。


ギルドには既に冒険者が居て、依頼への出発準備を整えているようだった。


私はテラスのようになっている二階部分からエントランスを見下ろし、聞き耳を立てる。


これから向かうのであろう依頼についての会話やパーティーへの勧誘といった冒険者ギルドらしい内容が聞こえる。


早朝だからこそだ。冒険者は全体的にガラが悪く、昼間はこんな方法では情報収集がしにくい。会話の内容が聞くに堪えないものだからだ。


以前昼間に行って後悔した。


「あまり有益な情報は無さそうですね⋯」


やはり冒険者レベルでは帝国の実験体の事など聞くことすら無いか。

しかし帝国の中枢に潜入するのは聖教国に比べてリスクが高い。


お母様からの言いつけもあるし、あまり大きなリスクは背負いたくない。

ここでこんなやり方で調べているのもリスクだ。そもそも不法入国でもある。


「おや、お嬢さん。ここはお嬢さんみたいな方が来る場所ではありませんよ?」

「ッ!?」


唐突に声をかけられた。間違いなく私に対してだ。

インビジブルの魔法は発動している(・・・・・・)

それなのに私を認識している。


「なぜ見えているのか、といった顔ですね?素晴らしい魔法ですね。私でもはっきりとは見えません。お嬢さんであることは分かるのですが⋯」


この男⋯相当強い。魔法師としてだけではなく戦士としても。

さてどうしたものか。この男を殺すことは簡単なのだが間違いなく面倒事になる。


帝国と敵対したいわけではないし、面倒事は避けたい。


「姿を表してくれませんか?敵対はいたしません」

「⋯その言葉を信用できるとでも?」

「それもたしかにそうですね。しかし、なにかやましいことをしているのはそちらでは?」

「⋯⋯⋯」


痛いところを突いてくる。その通りだから何も言えない。


「私はお嬢さんとお話がしたい。ただそれだけです」

「⋯いいでしょう。お話だけならば受けましょう」


インビジブルの展開方法を変える。これで立っても下から見られることはない。


「これはこれは。そのような事もできるんですね」

「お話、しましょうか」

「えぇ。おかけください」


促されるまま私は近くの椅子に腰掛ける。

男もまた反対側の椅子に座る。


「さて、何から話しましょうか」

「⋯⋯⋯」


この会話の主導権はあちらにある。

様子を伺うことにしよう。


「お嬢さんは何を目的にここに?隠れて情報収集とは感心しませんね」

「⋯私はこの国の人間ではありませんので」

「なるほど。その技術があればたしかに簡単に入国できますね」


下手に誤魔化すのは愚策だろう。目的は隠しつつ躱すしかない。


「いいんですか?不法入国者であることを私に明かして」

「⋯⋯⋯ダメそうなら、それ相応の対応をするだけですよ」

「それは勘弁願いたいですね。私ではお嬢さんに勝てそうもない」


魔力は最大限に抑えてるのだが、どうやらバレているようだ。にもかかわらず声をかけてくるとは、なかなか怖いもの知らずだな。


「まぁ、兵士に突き出すなんてことはしませんよ。私にそんなことをするメリットはありませんし、お嬢さんから何から不利益を被ったわけでもありませんからね」

「それなら剣を抜かなくて良さそうですね」


少しだけ警戒を解く。この男、嘘は言っていないようだ。


「さて⋯何が目的で冒険者達を盗み見ていたのでしょう?」

「⋯少し知りたいことがありまして」

「ほう。その知りたいこと、とは?」

「言えるわけないでしょう」


少し殺気を向ける。男は全く怯みすらしない。


「⋯先にも言いましたが、お嬢さんが何を目的にこちらにいらしていたとしても、私は兵士に突き出すなんてことはしませんよ」

「その言葉を信じれると?」

「ではこちらはいかがですか?」


男が出してきたのは契約の誓書。

契約内容と自身の名前を書き、相手に名前を書かせる。

そしてお互いに血を垂らすことで成立する魔道具だ。


契約不履行のペナルティは命だ。その重さからあまり一般的に使われているものではない。


「⋯よくそんなもの出せますね」

「お嬢さんにとってはこれぐらい必要でしょう?」


見ず知らずの不法入国者にそこまでするのか。

何が目的なんだ。


「私には目的なんてありませんよ。ただお嬢さんが何をしに来たのか。それが気になるだけです」

「⋯分かりました。契約、しましょう」


私は男の出した契約の誓書に契約内容を書き、名前を書く。この魔道具では偽名は使えない。


「ネーデル⋯王国侯爵家のネーデル家の方でしたか。契約内容は『メアリ・ハル・ネーデルから聞いた全ての事柄について他言無用とする』ですか。いいでしょう」


男も署名欄に名前を書く。ギルバート・ヒルドリデというらしい。


⋯ギルバート・ヒルドリデ?


「⋯⋯なぜ皇帝の身内がここに居るんですか?」


ギルバート・ヒルドリデ。ムルガル帝国現皇帝の弟だったはずだが⋯⋯


「⋯色々ありましてね」


何やら事情があるようだ。帝国内部も一枚岩ではないのか。

お互いの名前を確認し、誓書に血を垂らす。


「これで契約成立ですね。お話いただきましょうか。お嬢さん⋯いえ、メアリさんが帝国(ここ)に来られた理由を」

「分かりました」


私はシグマのこと、実験体のこと。そして聖女との繋がりのことを話した。


話を聞いたギルバートはしばらく考え込み、その間私は出入りする冒険者に聞き耳を立てていた。

有力な情報が取れるとは思っていないが、普通にこの世界の冒険者というのにも興味があるからだ。


昨日は何を狩っただとかどれだけ稼いだかとかそんなことを話している。


「実験体⋯⋯アルファ、と呼ばれていた実験体のことはご存知ですか?」


不意にギルバートがそう問いかけてきた。アルファはたしか先代聖女の頃に居たとされる実験体のはずだ。


「えぇ。名前だけは」

「最初はある試みだったのですよ。聖女以外の人間が主神マーラカルトのお声を聞こう、というね」


馬鹿なことを考えるものだ。神の声は適性があるから聞こえるというものではない。神がその存在に話そうとするかしないかでしかない。


「愚かな考えでしょう。ですが20年前、前皇帝、私の父ですね。父が見つけたのですよ。神の力を強く感じることができる人を。それがアルファです」


「父の代ではただ神の声を聞くという目的の元、様々な試みが行われていました。当然非人道的なことはされておりませんでしたよ。アルファのことは私も知っていますからね」


ギルバートの見た感じの年齢から考えればそうだろう。

以外にもアルファは最近まで生きていたようだ。


「ですが現皇帝、私の兄の代になってからこの試みはある方向へ変わっていきました。それは神の力の軍事転用です」


やはりそういう狙いか。本当にバカバカしい。神の力を自らの支配欲のために使おうなどと。


「兄が今の地位に就いたのが15年前⋯アルファは7年前にこの世を去りました。実験の果てに」


⋯やはりアルファはもうこの世に居ないのか。しかし7年前となると現聖女はアルファとは面識が無いのではないか?彼女が聖女になったのは5年前だ。


「シグマ⋯十八番目ですか。あの子は⋯アルファの子です。アルファが最期に先代聖女に託した子なのですよ」

「⋯⋯⋯」


まさかの事実だ。実験体のファーストナンバーがシグマの母親だとは。しかし父親は誰だ?まさか前皇帝じゃないだろうな。


「私がここに来たのも7年前です。アルファの死と共に私は城を出ました」

「⋯なぜ?」

「皇族としての地位も、名誉も、何も要らなくなってしまったからです。継承権の無い次男である私には彼女を守る力もありませんでした」

「⋯⋯シグマの父親はあなたですか」

「えぇ」


シグマは産まれて一度も母にも、父にも会っていない。

あの子にとっての家族のようなものは稀に会えた聖女ただ一人。


「シグマは⋯私が保護しています。年齢相応に、必要なことを、これからに必要なことを、色々教えています」


無意識に怒気がこもる。この男はシグマを助け出すことだってできたはずだ。一緒に逃げることぐらいできたはずだ。

先代聖女だって今の聖女にシグマのことを引き継いだのは父親の存在を知っていたからだ。

皇族ならばシグマに会うことなど大したことでは無い。

それなのにこの男は───


「あなたは、シグマを守れる唯一の存在じゃないんですか?あの子は両親の存在なんて知りません。あの子の心の拠り所はたった一つだった。

先代聖女からあの子を引き継いだ今の聖女です。5年前からあの子の面倒をたまに見ていたそうですよ。本当はあなたがするべきだったんじゃないんですか?あなたがあの子を連れて逃げていれば⋯あの子は人を殺すこともなかったんじゃないんですか?」


言っても無駄なことは分かっているがたらればを垂れてしまった。

私の言葉にギルバートは目を伏せる。


「その通りですね⋯私には⋯兄に逆らう勇気がありませんでした。我が身可愛さにシグマには大変な苦労をさせたようですね⋯」


ギルバートは何かを決めたように私に向き直る。


「メアリさん。あなたが何を成すつもりなのかは分かりません。ですが、もし私の⋯助力を許していただけるのであれば仰ってください。私はここに居ます」

「⋯分かりました。その時は、ここに来ます」


私は少し肩の力を抜き息を吐く。


「⋯⋯アルファ以降の実験体については何かご存知ですか?」

「アルファ以降は兄が探させた人達ですね。神の力に適性のある者だとか言われていたはずです」


やはりか。だがアルファの子供であるシグマを実験体にしたあたり、良い結果は無かったのだろう。それに聖女の言葉からしてほとんどは子どもだ。何か理由をつけて連れてきたのだろうな。


現皇帝は⋯心底気に食わない。気に食わないなんて理由で殺すなんてのはしないが、そうしてしまいたい。


「聖女はどうやって実験体と接触していたんですか?表向きは繋がりは無いでしょう?」

「先代の頃から変わっていないのであれば、城の使用人に扮して接触していたはずですよ」


やはりか。シグマから聖女が侍女服を着ていたことは分かっていたからな。

となると内部に協力者が居るのだろうか。誰の助けもなしにはできないだろう。


「⋯帝城に忍び込むのはお辞めになった方がいいですよ。あなたであっても見つかる可能性がありますので」

「元よりするつもりはありません。そこまでのリスクは背負えませんよ」


なにはともあれ、帝国にまで来た意味のある情報は得れた。まさかギルドマスターが皇帝の弟だとは思っていなかったが⋯⋯


「私はこれで失礼します。また会うことが⋯⋯あるかもしれませんね」

「えぇ⋯またいつかお会いできることを願っております」

「では」


私はインビジブルの展開方式を元の形に戻し、幻惑魔法も混ぜて冒険者ギルドから出る。

幻惑魔法まで混ぜたのにも関わらず、ギルバートは私がギルドを出るまで捉えていたのは気のせいということにしておこう。


───────────────────────────


私は転移でセーラム領の別荘に戻る。

部屋に転移すると目の前にシグマが居た。まだ7時台なのだが起きていたらしい。


「お、おはようございますシグマさん」

「おはようございますなのです。メアリさま、いきなりあらわれたのです」

「⋯⋯そういう魔法ですよ」


今、転移してきたなんてのはいくらシグマ相手でも言えないので誤魔化す。


「⋯シグマさんは今日何か予定はありますか?」

「?かみどめつくるのです」


特筆する用事は無いか⋯⋯なら聖女の周りを観察でもしておこうか。

敵になりうるのが何人で、味方になりうるのが何人なのかを偵察しておかなければならない。


ギルバートのような存在も居るかもしれないから念入りに偽装はしよう。


「⋯今日お母様は領主邸に行くはずですが、髪留め作れますか?」

「セセリアさまにみてもらうのです!」

「あぁ⋯セセリアが⋯」


シグマはセセリアに面倒を見てもらうこととしよう。






お久しぶりです。

少しずつ書いているのですが、今回は先である27話がなかなかに長くなり、時間がかかってしまいました

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