第524話 はいチーズ
宇宙では大変なことになっておりますが……。
そんなことは知ったこっちゃない、ひかりたち(笑)。
今回はいつもの9人による、いつもの大騒ぎです!
「そもそもやな、ボクらロボット部なんやから、ちゃんと活動せなアカンのちゃうか?」
両津良幸が、いつになくもっともらしい顔でそう言った。
都営第6ロボット教習所の談話室。
地下の対袴田素粒子防衛中央指揮所では、教官たちが忙しく働いているというのに、こちらはいつもと変わらず平和そのものだった。
「君は何を言ってるんだい? 俺たちは毎日思いっきり活動してるぜベイビー!」
棚倉正雄、いや、自称ジョニーが胸を張る。
「何の活動や?」
「青春さ!」
正雄の歯がキラリと光る。ニヒルな笑顔である。
「いや青春って、何すんねん?」
「それを探すのが青春だぜっ!」
正雄は右腕を天に向けて上げた。何のポーズかは謎である。
「はよ探さんかい!」
「はい!」
その時ひかりが、まるで正雄の真似をするかのように元気よく手を挙げた。
「私、毎日ご飯食べてるよ!」
「それは部活ちゃう!」
「毎日することと言えば、睡眠も大切ですわ」
宇奈月奈央が、スマホから顔を上げずに言った。画面では、特撮ドラマヒーローが戦っている。
「それも部活ちゃうって!」
「おやつも大切ですぅ」
伊南村愛理が、手にしたお菓子の袋を掲げる。
「大切なものとちゃう! 部活や、部活!」
「じゃあ、両津くんは何してるのよ?」
泉崎奈々の質問に、両津が再び胸を張った。
「ボクは部長や!」
「だから何してるのよ!」
「部長の仕事や!」
「だから、それは何かって聞いてるのよ!」
「えーと……」
両津の目が泳ぐ。
「あれや! みんなが楽しく活動できるように見守っとるんや!」
「何もしてないだけじゃない!」
「なるほど。いうなれば監督業ってところですわね」
「そう! それやそれ! 宇奈月さん、ええこと言う!」
「監督って、映画撮る人?」
ひかりが首をかしげる。
「じゃあ両津くん、映画撮ろうよ!」
「その監督とちゃう!」
「じゃあ、野球の?」
「それもちゃう!」
「現場?」
「うきーっ!」
そんなやり取りの最中、談話室のドアが勢いよく開いた。
「何よ、みんな楽しそうじゃない!」
野沢心音だ。
左右に垂らした三つ編みを揺らしながら入ってくる。その後ろから、館山大和がニッコリと顔を出した。
「こんにちは。ボクらも混ぜてもらっていい?」
「ココちゃん! 大和くん!」
ひかりが嬉しそうに両手を振った。
「もちろんですわ。どうぞこちらへ」
「ほら、大和も座りなさいよ!」
心音が大和の腕を引っ張り、空いていた椅子に腰を下ろす。
「うん。でも心音、そこ一人掛けの椅子だよ?」
「二人ぐらい座れるわよ!」
「いや、無理だって!」
仕方なく大和が隣の椅子に座る。
「ちょっと! 何で離れて座るのよ!」
「離れてないよ、隣だよ?」
「それじゃあ、」
そう言うと心音は立ち上がり、大和の座っている上にどっかと腰をおろした。
「これで許してあげるわ!」
「まさにツンデレですわ」
奈央が嬉しそうに微笑んだ。
「ツンドラ!」
ひかりが続く。
「それは寒い地方!」
奈々と心音の声が見事に重なった。
「おお、二人息ぴったりやん」
「ぴったりじゃない!」
「ぴったりじゃない!」
「ほら」
奈央がニッコリと笑う。
「さっきから何なのよ、あんた!」
心音が奈々を指差した。
「それはこっちのセリフよ!」
「私のマネしないでよ!」
「そっちこそ!」
「二人とも、そっくりだね!」
ひかりが嬉しそうに言った。
「似てない!」
「似てない!」
「似てる」
マリエがぽつりとつぶやく。
二人は顔を見合わせた。
なんだか納得がいかない。
「ところで皆さん!」
奈央がパンと手を叩いた。
「せっかく9人揃ったのですから、例のアレをやりませんか?」
「あれって何よ?」
心音が興味なさげに、だが本当はあることが見え見えに聞く。
「メンバーが揃ったら、アニメでは必ず記念撮影です」
「何の記念なんですかぁ?」
愛理が可愛く首をかしげた。
「愛理ちゃん、アニメや特撮にはお約束ってのがあるでしょう!?それです」
「なるほどですぅ!」
「ぜんぜんなるほどやあらへんわ!」
「あ! 撮りたい撮りたい!」
ひかりがぴょんと跳ねる。
その隣で、マリエも無言でぴょんと跳ねた。
「いいわ。ひかりがそう言うんなら、私が撮ってあげる」
奈々がスマホを取り出した。
「ツンデレですぅ!」
「違うわよ!」
「ツンドラ?」
またひかりが首をかしげる。
「そうじゃないって!」
「ベニスとかの?」
「それはゴンドラ!」
「開けてはいけない箱?」
「パンドラ!」
「メロメロ〜って」
「昼ドラ!」
「それはドロドロだよ、奈々ちゃん」
「うきーっ!」
「奈々ちゃんがお猿さんになった」
「もういいから! 早くみんな集まって!」
そう言ってスマホを構える奈々。
「奈々ちゃんは写らないの?」
「私は撮る方だから」
「じゃあ私が撮る!」
「それじゃ、ひかりが写らないじゃない!」
「じゃあ奈々ちゃんが撮って!」
「どっちやねん!」
「ふふん」
その時心音が、得意そうに鼻を鳴らした。
「こういうときはセルフタイマーを使うのよ!」
ひかりがパッと心音に視線を向ける。
「セルフサービス?」
「セルフタイマー!」
「セルフレジ?」
「違うって!」
「じゃあガソリンスタンドで……」
「うきーっ!」
「うきーっ!」
奈々と心音が同時に猿になった。
「まぁまぁ、ココも落ち着いて。遠野さん、セルフタイマーって言うのは、自動でカメラのシャッターが切れる機能だよ」
「へぇ、便利だね!」
そんなこんなでなんとか話がまとまり、記念撮影が始まった。
奈々のスマホをテーブルの上に立てかけ、全員で並ぶ。
ところが、これが思いのほか難しかったのだ。
「センターはこの俺だぜ、ベイビー!」
正雄が真っ先に真ん中を陣取った。
「なんであんたが真ん中なのよ!」
「主役は真ん中に立つものさ、お嬢さん!」
「そのお嬢さんはヤメて!」
「では、身長順に並んではいかがでしょう?」
奈央の提案に、一同がうなづく。だが……
「私は大和の隣じゃないとありえない!」
心音が即座に宣言した。
「身長順だよ?」
困り顔の大和。
「じゃあ大和、ちょっと背を低くして!」
「そんな無茶な!」
「膝を曲げればいいのよ!」
「ボク、ずっと中腰で写るの?」
「そうよ!」
両津の呆れ顔が、大和に向く。
「館山くんも大変やなぁ、小さい頃からこんなのとずっと一緒なんやろ?」
「まぁね」
困ったような、照れているような笑顔の大和。
「こんなのってどんなの?」
ひかりの問いに、両津が心音を指さした。
「こんなの」
そんな騒ぎをよそに、マリエはひかりの隣にピタリとくっついている。
「マリエちゃんも真ん中に来たら?」
「ここがいい」
「そうなの?」
「ひかりのとなり」
「てへへ〜」
ひかりが嬉しそうに笑った。
「愛理ちゃん! 写真撮るんだから、お菓子は手に持たない!」
今度は奈々が愛理を注意する。
「はぁ〜い」
愛理は手にしたお菓子を全部口の中に放り込んだ。
「そういう意味じゃない!」
「もぐもぐ……」
「口いっぱいじゃない!」
「もぐもぐ……ごっくん!」
「飲み込めばいいってもんじゃない!」
「でも奈々先輩、お菓子を粗末にしたらいけないですぅ」
「それはそうだけど!」
「えらい」
マリエが小さく拍手する。
「何がえらいのよ!?」
「ちゃんと食べる子、えらい」
「子供かよっ!」
ようやく9人が並んだ。
「じゃあ、10秒後に撮れるようにするからね!」
心音はスマホをセットすると、慌てて大和の隣に走った。
「はい、チーズ!」
ひかりが叫ぶ。
「まだ早い!」
「チェダー!」
「チーズの種類じゃない!」
「カマンベール!」
「だから!」
「ゴルゴンゾーラ!」
「もういいってば!」
「……六甲おろし」
マリエがぽつり。
「それ阪神タイガースや! けど、なんで!?」
「チーズおろし機」
「遠いって!」
両津が思わず叫んだ。
カシャッ!
「あ! 撮れた!」
全員がスマホに駆け寄る。
そこには、なんとも奇妙な9人が写っていた。
ひかりは目を閉じ、奈々と心音は口を大きく開けている。両津はマリエに向かってツッコんでいる最中。
愛理はまだ口をもぐもぐさせていた。
そしてマリエだけが、いつもの無表情で真っすぐカメラを見つめている。
「あははは! 奈々ちゃんとココちゃん、同じ顔!」
「同じじゃない!」
「同じじゃない!」
またしても二人の声が重なる。
「やっぱり双子なんじゃない?」
ひかりが真剣な顔で尋ねた。
「違う!」
「違う!」
「きっと双子」
マリエがうなづく。
「マリエまで!」
「もう一回撮るわよ!」
奈々が宣言した。
今度は正雄がスマホの前でポーズの練習をしている。
「棚倉くん、何してんねん?」
「最高の一枚を目指しているのさ、ベイビー!」
「普通に写れへんのか?」
「普通では伝説は生まれないぜ!」
「さすがに写真一枚で伝説はでけへんと思うけどなぁ」
再びセルフタイマーが動き出す。
今度は誰もしゃべらない。
しかし、正雄だけが少しずつ両腕を広げていく。
3、2、1……。
カシャッ!
結果は見事だった。
正雄の両腕が、両津と奈央の顔を完全に隠していたのである。
「なんでボクの顔がないねん!」
「わたくしも写っておりませんわ」
「すまない、ベイビー!」
「すまないで済むかい!」
「俺のポーズは完璧だったんだが……」
「ポーズ以前の問題や!」
「ジョニーの記念写真」
マリエが写真を覗き込みながら言った。
「それはそれで伝説やな!」
もう全員、笑いが止まらない。
「もう! 全員、動かない! しゃべらない! 変なポーズも取らない!」
とうとう奈々が両手を上げた。
「特にひかり!」
「ほえ?」
「何も言わない!」
「は〜い!」
「返事はいいの!」
「……」
「黙らなくていいのよ!」
「どっちやねん!」
3回目。
9人は直立不動でカメラを見つめた。
誰も動かない。
誰もしゃべらない。
もちろん正雄もポーズを取らない。
カシャッ!
今度こそ成功!
……と思いきや。
「なんか、お葬式みたいね」
心音が写真を見てつぶやいた。
「縁起でもないこと言うなや!」
「卒業アルバムですわね」
「まだ早いですぅ」
「証明写真?」
ひかりが首をかしげる。
「9人一緒の証明写真なんてあらへんわ!」
「集合証明写真ですわ」
「何を証明するんや!」
「全員、生きてます!」
ひかりが元気よく答えた。
「そら見たら分かるわ!」
「じゃあ、これは失敗ね」
心音が大きくため息をつく。
「写真って、こんなに難しかったっけ?」
大和も首をかしげている。
「もう普通に撮ろうよ」
そして苦笑しながら、そう提案した。
「みんな、いつもどおりでいいんじゃないかな?」
「そうね。もう好きにして!」
奈々もすっかり諦めた。
9人が、なんとなく集まる。
ひかりは奈々の腕にしがみつき、その反対側にはマリエ。
心音は当然のように大和の腕を抱え、両津と正雄は何やら怪しげなポーズ。
愛理はお菓子の袋を抱え、奈央はそんな一同を見て微笑んでいる。
「じゃあ撮るよ!」
大和がスマホをセットして、慌ててみんなのところへ戻った。
カウントが始まる。
そのとき、ひかりが突然叫んだ。
「あ! みんな、笑って!」
「言われなくても笑ってるわよ!」
「奈々ちゃん、怒ってる?」
「怒ってないわよ!」
「怒ってる」
「マリエ!」
カシャッ!
今度は、全員が満面の笑顔。
……ただし奈々の眉毛だけは三角だった。
「奈々ちゃん、変な顔〜!」
「だから誰のせいよ!」
「あれ? でもココちゃんも同じ顔してるよ!」
「私はちゃんと笑ってるわよ!」
「双子」
「だから違うってば!」
奈々と心音の声が、またしても重なった。
談話室に、大きな笑い声が響き渡る。
そんな、いつもと変わらない午後なのであった。
奈々とココ、やっぱり似ているような……。
いや、本人たちは全力で否定するでしょうけど(笑)。
今回もお読みいただき、ありがとうございました!




