↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
520/528

第520話 誰が返した?

これまでのあらすじ

過去のハーフムーン船内では、美咲たちがメインシステム遮断作戦を決行直前。

後藤と小池葵は花菱工業・大沢工場の地下の爆発から脱出!

そのころ教習所のひかりたちは、火星大王の異変に気づいていた……

 都営第6ロボット教習所。

 その地下深くにある、対袴田素粒子防衛中央指揮所。

 巨大なバーチャルスクリーンが何枚も浮かび、多くの所員たちがコンソールに向かって忙しく作業を続けている。

 その一角に、田中美紀と後藤茂文の姿があった。

 大沢工場の地下施設で取得したデータを報告するためである。

「へぇ……」

 後藤が、珍しそうに辺りを見回す。

「こんなことになってんのかぁ」

 以前、この教習所では暴走ロボットとの戦闘に参加したことがある後藤だったが、この地下指揮所に入るのは初めてだった。

 巨大スクリーン。

 宇宙空間を示す地図。

 袴田素粒子の観測データ。

 世界各地の監視情報。

 どこを見ても普通のロボット教習所とは思えない。

「秘密基地みてぇだなぁ」

 後藤が感心したように言う。

「まぁ、だいたい秘密基地みたいなもんですわ」

 そう答えたのは南郷だった。

「教習所の地下に秘密基地って、そりゃ反則じゃねぇかぁ?」

「何が反則なんです?」

 陸奥が苦笑する。

「いや、なんとなくだけどよぉ」

 中央テーブルには、所長の雄物川、陸奥、南郷が集まっている。

 いつもならここにいることの多い久慈の姿はない。

 山下美咲が今も長時間“潜った”まま戻ってこないため、久慈はそのそばに付き添っていた。

「それで」

 雄物川が後藤を見る。

「大沢工場の件、聞かせてくれ」

「俺より、こっちのお嬢ちゃんの方が詳しいぜぇ」

「お嬢ちゃんはやめてください!」

 美紀が即座に返す。

「技術的なことは、私から説明します」

 美紀がコンソールを操作した。

 巨大スクリーンに、大沢工場地下で取得されたデータが表示される。

「まず、地下施設そのものですが、ほぼ完全に焼失しました」

「例の証拠隠滅か」

 雄物川が言う。

「はい。特殊な腐食性の泡で設備を破壊した後、最終的には施設全体を焼却しています。回収できた物証は、ほぼありません」

「逃げたという男、田丸だったか?」

 雄物川の問いに、今度は後藤が答えた。

「まだ行方不明だぁ」

「地下の奥にいた可能性は?」

「分からねぇ。別の場所へ移動したのか、どっかに逃げ道があったのか、それすら分からん」

「そうか」

 雄物川は短くうなづいた。

 美紀はそのやり取りを聞きながら、スクリーンへ視線を戻した。

 二基の台座。

 FACMに似たシステム。

 ブラックドワーフ内部と似た黒いケーブル。

 そして、人間と機械を直接つなぐような設備。

 あれだけのものを目の前にしながら、結局ほとんど何も持ち帰ることができなかった。

「現時点で、手がかりと言えるのは……」

 美紀がさらに操作する。

 余計なデータが消えた。

 スクリーンに残ったのは、二本の波形だった。

「これだけです」

 陸奥が画面を見上げる。

「ダイナレーダーのデータですか?」

「はい」

 美紀が一本目を指差す。

「こちらが私たちが地下へ向けて発振した共振波」

 そして二本目。

「こっちが、返ってきた共振です」

「よう似てまんなぁ」

 南郷が首をかしげる。

「似てますけど、同じじゃありません」

「反射しただけとちゃいますのん?」

「単純な反射なら、基本的には元の波形が減衰して返ってくるはずです」

 美紀は二つの波形を重ねた。

 いくつかの山と谷は重なる。

 だが、途中から明らかに別の揺らぎが加わっている。

「地中を通ってますから、ノイズや多少の変形は当然あります。でも、それだけでは説明しにくいんです」

 陸奥が腕を組む。

「何かが途中で加工した?」

「その可能性はあります」

「誰が?」

「それが分からないから困ってるんですよ」

 美紀が少し強い声を出す。

 後藤がニヤリとする。

「昨日からずっと、そればっかりだなぁ」

「だって分からないことしか残ってないんです!」

「ダイナレーダーも残ってねぇしなぁ」

「それは言わないでください!」

 美紀の眉がピクリと動く。

「ポータブル型は世界に一台しかなかったんですから!」

「また作れぇ」

「予算ください!」

「俺に言うなってぇ」

 南郷が吹き出す。

「お二人、ずいぶん息合うてますなぁ」

「合ってません!」

 美紀が即答する。

「田中主任」

 雄物川が穏やかに話を戻した。

「現時点で考えられる可能性は?」

 美紀の表情がすぐに真剣なものへ戻る。

「大きく分ければ、三つだと思います」

 指を一本立てた。

「一つ目。敵勢力が作った自動応答システム」

 二本目。

「二つ目。向こうも袴田素粒子の共振を使った、何らかの通信か認証技術を開発していた」

 三本目。

 そこで少し間を置く。

「三つ目……」

「まだあるんでっか?」

「そこに存在していた袴田素粒子そのものが応答した」

 それまで軽かった室内の空気が変わった。

「素粒子が?」

 南郷が聞き返す。

「可能性の話です」

 美紀はすぐに付け加える。

「でも、地下への隠し扉はダイナレーダーの共振に反応して開きました。ということは、少なくとも敵勢力が共振を何らかの信号として利用する技術を持っていた可能性は高いです」

「探査か、通信か、認証か」

 陸奥が言う。

「はい。ただし、ダイナレーダーと同じ技術だったとは限りませんが」

「なるほど」

 雄物川が腕を組む。

「これは袴田君にも見てもらった方がよさそうだな」


『データはこれで全部かね?』

 大型スクリーンの中で、袴田伸行がそう言った。

 東郷大学、袴田研究室。

 教授の隣には、助手の遠野拓也が座っている。

「はい。ダイナレーダー側に残った観測データは、それで全部です」

 美紀が答える。

『分かった』

 袴田は画面の波形を見つめた。

 誰もしゃべらない。

 波形を拡大する。

 一部分を切り出す。

 時間軸を変更する。

 二本の波形を重ねる。

「教授?」

 拓也が声をかける。

 返事はない。

「教授?」

『……少し待て』

 突然、袴田が立ち上がった。

 そのまま画面の外へ消える。

 後藤が目を丸くした。

「どこ行ったんだぁ?」

『さぁ……』

 拓也も困った顔をする。

『こうなると長いんですよ』

「研究者ってのは、みんなこうなのかぁ?」

 後藤が南郷を見る。

「一緒にせんといてください!」

「いや、南郷さんも似たようなもんですよ」

 陸奥が淡々と言う。

「陸奥さんまで何言うてますのん!」

 そんなやり取りをしているうちに、袴田が戻ってきた。

 手にはタブレットを持っている。

『やはりな』

 拓也が身を乗り出す。

「何か分かったんですか?」

『いや、まだ分からん』

「どっちですか!」

『ただ、以前どこかで似た反応を見た記憶があった』

 袴田がタブレットを操作する。

『UNHだ』

「国連宇宙軍総合病院?」

『山下君が治療を受けていた時の記録だ』

 指揮所にいる者たちの表情が変わる。

 山下美咲。

 その脳内には今も、アイと呼ばれる袴田素粒子が存在している。

『山下君が長期の睡眠治療を受けていた頃、彼女の脳波とアイさんとの間に、奇妙な相互反応が観測されている』

「意思疎通ですか?」

 美紀が聞いた。

『当時は、そうではないかと考えられた』

 袴田はその場でUNHへ連絡を入れた。

『牧村先生。急ですまない。山下君とアイさんの相互反応が記録された検査データを確認したい』

 しばらくして、新しいデータがスクリーンへ転送されてきた。

『届いた』

 袴田が二つの記録を並べる。

 拓也が首をかしげた。

「似てる……?」

『いや』

 袴田は即答した。

『波形そのものは違う』

「じゃあ、似てないんじゃ?」

 南郷がもっともな疑問を口にする。

『形が似ているんじゃない』

 袴田が画面を指差した。

『振る舞いが似ているんだ』

 指揮所が静かになった。

「振る舞い?」

『こちらから何らかの刺激を与える。それに対して、単純な反射ではない変化が返ってくる』

 美紀の目が細くなる。

『山下君とアイさんの時にも、似た特徴があった。入力された情報に対して、相手側から別の反応が返される』

「つまり……会話ですか?」

 陸奥が聞く。

『そこまでは言えん』

 袴田は首を横に振った。

『似た振る舞いを示している。それだけだ』

「やっぱり断定はせえへんのですなぁ」

『科学とはそういうものだ』

 美紀は再び端末に目を落とした。

「……あれ?」

「今度は何や?」

「やっぱり……」

 発振ログを拡大する。

「こっちが変えた直後です」

「何が?」

「共振パターン」

 美紀がログをスクリーンへ転送した。

「最初の発振では反応がなかった。でも、私が共振パターンを変更した直後、向こうの反応も変化してる」

 袴田がデータを確認する。

『なるほど』

「このシンクロは、やっぱり偶然拾った信号じゃないってこと?」

『少なくとも、こちらとは無関係に発生していた信号とは考えにくいな』

 拓也が二本の波形を見つめた。

『じゃあ……本当に返事だった可能性があるってことですか?』

 誰もすぐには答えなかった。

 霧山側の機械なのか。

 過激派の袴田素粒子なのか。

 それとも、彼らとは別の何かなのか。

 答えはない。

 スクリーンには、二本の波形だけが並んでいる。

 こちらから送ったもの。

 そして、向こうから返ってきたもの。

 しばらくして、拓也が口を開いた。

『もし本当に、何かがこの信号を返したんだとしたら……』

「うむ」

『誰が返したんでしょう?』

 袴田は答えない。

 二本の波形を見つめたまま、小さく首を横に振った。

『誰が返したのか……じゃない』

「え?」

 拓也が教授を見る。

 袴田はスクリーンから目を離さなかった。

『なぜ、返したのかだ』

今回もお読みいただき、ありがとうございます。


大沢工場の地下施設は、証拠隠滅によってほぼ完全に消えてしまいました。

人間と機械をつなぐような設備。

FACMに似たシステム。

そして、ダイナレーダーに返ってきた謎の“共振”。


残されたのは、ほんのわずかなデータだけです。

今回、その“返事”が単なる反射ではなく、何らかの反応だった可能性が見えてきました。


けれど――


返したのは誰なのか。

そして、なぜ返したのか。

まだ答えは出ていません。


物語はいよいよ、地下施設に残された謎のさらに奥へ進んでいきます。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。