サツバツ!いえ日常ですよの巻。
まったりした日常。
挨拶回りと武芸者のこと。
年が明けて初の週末、挨拶がてら顔を出したのは近所の古武術道場。
「そうか、彼女の親に挨拶したのか」
道場主の鈴木さん、さっそく揶揄いに来ましたよ。困ったオッサンだよまったく。
「違いますって」
「母親だけだったのはちょっと残念だな、父親っていうハードルが残ってるぞー」
「だからそういうのじゃないって」
隣で小動物が固まってるじゃないか、逃げられたらどーすんだ。
そして小動物が赤い顔してるのは見なかったことにしよう。
「ま、冗談は置いといて」
置いとくのかよ。
鈴木さんの奥さんが、『お父さん、若い女の子をからかったら駄目でしょう』なんて言ってるんだけど。
「久しぶりに一本やってくかい?薙刀と槍はなしで」
いつもの軽いノリで誘われた。
槍や薙刀が出てきたら、剣しか使わない俺じゃ勝てないからね。今は魔法で肉体強化っていう誤魔化しもできないし。
「お願いします」
「じゃ、道場に行くかね。小暮さんも、よければ見においで」
「あ、はい」
そういや、小動物には剣を振ってる姿って見せたことないんだよね。
「へえ、初めて見せるんだ?」
鈴木さんの家は昔から剣術を教えてたこともあって、敷地内に小さい道場がある。そこで壁にかかってた木刀を選びながら、鈴木さんは面白そうにコメントした。
「あんまり見せびらかすようなもんでもないですし」
「それもそうか。こっちでいいかな?」
言いながら鈴木さんが手に取ったのは、他とは違う姿の木剣。
「はい、それで」
少し湾曲した片手剣を模した木剣を軽く振る。
鈴木さんは事情を知ってるから、俺の流派がどうだとかは絶対聞いてこない。というか、俺が二回目に巻き込まれて元の世界に行った時に召喚されたのが鈴木さんだし。
召喚された時にブチ切れて、たまたま持ってた日本刀振り回して暴れたんだよなあ、このおっさんは。
あっちに銃刀法なんか無いから、別に良いんだけどね。
そんな鈴木さんとの付き合いも、俺が中学生の時からだからずいぶん長くなった。
「で、雄太君、練習はしてるの」
「最近は素振りがやっとですねー」
忙しいし。剣術忘れても死なないし。
「せっかくなんだからさー、ちゃんと練習しといてよ」
「なぜに」
「私が楽しい」
ぶっちゃけすぎだよ、おっさん。
──────────
俺が使ってる剣術はアルバスとして習った戦場向けの剣なので、お世辞にもきれいなものじゃあないんだけど、鈴木さんとしては『実践的な』剣術が見られて嬉しいんだそうで。
「ただの泥仕合ですよ」
剣で戦うのなんて、戦闘の最終局面だからね。遠隔で魔法ぶつけて、中距離で弓矢の応酬があってから歩兵含めて槍で殴り合った後に、最後の最後で突撃して、剣でドツキあい。これがあっちの戦闘の大体の流れだから、剣術と言ったって馬上も徒歩も想定されてるし、攻撃手段も殴る蹴るなんでもあり。
正統派の場合、素肌剣術じゃなくて甲冑着込んでのドツキあいになります。
で、そういう『正統派』の剣術に加えて俺の場合、暗殺部隊やってましたからね。隠密行動の邪魔になるので甲冑は着ないかせいぜい鎖帷子なので、暗殺者の剣は素肌剣術に近いことになる。
体術と組み合わせて静かに殺すための技まであるので、泥仕合なんて言葉がきれいに聞こえるくらい、えげつないです。なにしろ、敵が側面を見せた膝は蹴飛ばして壊すものだし。
「いいんだよ、他の人がやってないことだからさ。面白いでしょ」
鈴木さんは殴り合いより理を追求したいタイプだから、俺との手合わせは型をさらったりするのがメインになる。
というか鈴木さんが習った剣術って、俺のえげつない方の剣術とよく似てるんだよね。お互いに本気を出したら洒落にならないので、型をさらうことになってます。
「ところで、彼女は雄太君の剣術の事、知ってるの?」
「あ~、春に被害にあったんですよ、この子」
さらっと一言で伝えると、鈴木さんがぎんっと目を光らせた。
「……叩き斬っておくべきだったな」
口調は静かなんだけどね。なんというか本気で頭にきてますね。
「斬りそびれた奴がやらかしましてねー」
「次にあっちに行くことがあったら、私の代わりに斬ってこないか?」
この武芸者は物騒でいけません。
「やるならこっそりやりましょうよ」
「雄太君だって物騒じゃないか?」
「そりゃ、ねえ。暗殺が仕事でしたから?」
おっさんと顔を見合わせて笑う。
まあお互い、目は笑ってないんだけどね。
「次に行く予定が出来たら、うちに寄ってから行ってくれるかな。刀、貸してあげるよ」
やっぱり物騒な武芸者でした。
現代日本は平和なので、剣術をさぼったところで命に係わらないのです。




