02話
真っ青な空に浮かんだ美味しそうな入道雲。それらは夏にふさわしい。そういや、あと3週間ぐらいで夏休みだっけ。
「おー良い天気だ。絶好のデート日和だぞ」
「ほんと良い天気。仁君、日焼け止め塗らないと真っ赤になるよ」
「壱羽、日焼け止めちょーだい」
「ん」
日傘を指した私と帽子一つの仁君。圧倒的に、仁君の方が日焼けするよね。日焼け止めぐらい持ち歩けっていつも言ってるのに。
「仁、壱羽、チケット取れたぞ」
「ありがとう!」
「サンキュー、鷹臣」
「誘ったのお前なのに、なんで俺がチケット取りに行かなきゃならんのだ」
「ほら、お前って美形なのに擬態が上手だからな」
擬態はしてると思うけど、美形なのは隠れてないけどなあ。仁君も鷹臣君も人目を集める。綺麗な顔だから。んで、私は羨むような顔で見られるのだ。
「んで?どこから行くんだ?」
「まずはたこ焼き。それから焼きそばにパフェ」
「食いモンばっかじゃねぇか」
「暑いから、食べとかないと回れないでしょ。食べたら雑貨見に行きたい」
日傘を閉じて、帽子を被る。仁君と違って日焼け止めはバッチリだ。周りは人人人、人ばかり。賑やかだなあ。全国各地の有名な食べ物ばかりを集めた夏フェスタに、私が行きたがってたのを仁君は知ってたんだ。勿論、食べ物以外にも風鈴とか雑貨も集まってて、結構大規模なフェスタなのである。
実は、去年もこのフェスタに三人で行く予定だったのだけど、バイトがどうたらで、ドタキャンされてしまった苦い思い出がある。その時は、諦めて一人でケーキを作ってやけ食いした覚えがある。
「うまぁ」
「食ってる時のお前、ほんと可愛いよなあ」
「食べてる時だけかよ」
「普通の時は可愛くないらしいよ、前にも言われたことあるし」
食べてる君が好きってか。やたらとニコニコして、たこ焼きを頬張る私を見る仁君。私の隣では、鷹臣君が呆れたようにサイダーを呷った。通りがかった人たちは、みんな仁君と鷹臣君を見て行く。
…あぁ、今日はやたらと視線が気になる。
「壱羽、どうかしたのか?」
「いや、いつもより視線が気になって。感覚が研ぎ澄まされたような、」
言葉が途切れた。喧騒が遠ざかる。仁君と鷹臣君の存在が薄くなる。その場に私だけが取り残される。私だけ時間が止まっているような、奇妙な感覚に冷や汗が背筋を伝った。
「ーーな、に…?」
地面から沸き上がる黒いモヤ。おぞましいとさえ思えるソレは、目なんかないのに、口なんかないのに、私を見てニタリと嗤った。仁君や鷹臣君がするようなニヒルな笑い方じゃなくて、そうだ、あの笑い方は、悪意のある笑い方だ。
私は、この笑い方を知ってる…?
粟立つ肌。全ての感覚が研ぎ澄まされていくのに、いまだ私だけが取り残されている。耳が痛いくらいの静寂。私の呼吸と心臓の鼓動だけが響いているような錯覚。
これは、白昼夢?それとも現実?
「ーーーーっひとは!!」
伸ばした手は、誰にも届かなかった。落ちていく感覚。浮遊感。溢れ頬を伝う涙。全ては闇に暗転した。
また、だ。




