序5:終わりと始まり
天変地異が起こっても、時の流れが変わったわけではなく。
その日は終わりを告げようとする。
時刻は既に0時を指そうとしていた。
「外に何かがいる」
その話が耳に入ったのは夜の帳が辺りを包み始めて間もない頃だった。
現在、病院には多くの患者が詰め込まれていたが、不思議なことに外部からの来訪者はその日のうちに現れることはなかった。自衛隊が訪れたり、新たな患者が運び込まれることがなく。病院の周囲は変な静けさに包まれていた。
そんな状況からの不安からか、そんな話が病院の中で広まっている。
「早瀬?」
私が病院の窓から外を見ていたら、声がかかった。
振り向くと、彼が缶コーヒーを二本持って立っていた。
「ほら」
片方の缶を投げて寄こすのを、私は空中で受け止める。
「ありがとう」
「ん。何見てた?」
「外…かな。何かいるって聞いて。それに、誰か来ないかと思って」
「そっか。…変だよな。誰も来ないっていうの」
「うん」
缶のプルタブはあけて、中身を啜る音が廊下に響いた。
周囲に人は少ない。皆不安になっているのか、暗くなるにつれて自然、ロビーに集まっていた。私は周りの不安に耐えられず、その場から離れてこの廊下へ来ていたのだ。彼――蒼井勇樹と名乗った彼がここに来たのは、そんな私を見て心配してくれたのだろう。こんな状況じゃなければ、少し心が揺れたかもしれない。
「そう言えば――」
「うん?」
「いや、屋上で外を見てたって奴が話してたのを聞いたんだけどさ」
「うん」
「昼頃に、音が聞こえたらしい」
「音って、何の?」
「…銃声、とか言ってたけど。どーだろ。俺らって本物の銃声なんか聞いたことないし、その話してた奴もないだろうから信憑性ないよな」
「そうだね」
ユウキがどこか苦笑気味に話すのを見て、私も苦笑しながら答えた。
だけど、彼が話した内容はどこか不安を掻き立てられた。
「でも、それが銃声とかじゃなくても。何かが聞こえたのは確かなんじゃないかな?」
「そうだな。もしかしたら、誰かが近くに来てるのかもしれないな。んで、道に迷ってるとか。あの森、深そうだし」
「かもしれないね。中に入ったら先が見えなさそうだよね」
二人はそういって森のほうに目を向けた。
「「え?!」」
二人の声が重なる。懐疑と驚きが含まれたその声は、二人が森へと視線を向けた瞬間だった。
「…み、た?」
「…うん」
「えっと、あれって…」
「人…じゃ、ないよね」
闇の中に一瞬だけ見た光景。
それは。
「…モンスター…?」
モンスター。怪物。化け物。どう言ったほうが正確か分からない。それでも二人は森の中にちらりと見えたその姿は人外のそれだった。
見えたのは体の半分。頭部は人と似ていたが、この闇の中怪しく輝く瞳が人と違うことを示し、更に人とは違い手を地面に付けて歩むその姿は不気味としか言いようがなかった。一瞬のことだったので、それ以上の特徴は見えなかったがその刹那だけで感じたのは恐怖という名の感情だった。
「はは…まさか…」
「だよ、な。まさかな…ははは」
つい否定の言葉が漏れる。在り得ない、と。不安が呼んだ錯覚かもしれない。
この世界の常識上、存在し得るはずがないのだ。例え、天変地異が起こったこの状況でも、それは信じたくなかった。
二人はそうやって否定することで、なんとか視線を外から中へと引き戻した。
「…とりあえず。ロビー、にいこうか?」
「そう、だね…」
二人はどこかぎこちなく頷き合うと、なるべく窓の外を見ないようにその場を離れた。
―――闇の中、何かが蠢いた。
昨日更新予定でしたが、遅れてしまいました。
とりあえず、今日更新させていただきました。
が、作者は今回の文章がどこかたどたどしく感じているので後日、書き換えを行う予定です。
今回の文は生暖かい目で見ていただければ、と(苦笑




