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序4:終わりと始まり

 正直言うと、未だにそれを信じられないでいた。

 話を聞いて自らの目で見て、それでもこれは何か悪い冗談、夢なんじゃないかって。

 夢の中で、これが夢だって理解しながらもその夢を彷徨う。深い眠りに落ちた時にたまにそんな夢を見たりしないだろうか。今の私が置かれている状況は、そんなかんじに似ていて…それでも、やはりこれは現実なんだって思い知らされる。

 それがリアルだから。

 辺りに漂う匂い、忙しく人々が動く音、体に触れる風の感触、喉の奥に唾を飲み込んだ感覚。どれをとってもそれが夢ではないことを知らせる。


 だけど、もし夢があまりにも現実味を持っていたならば、もしかしたら自らが夢の中にいるのだと自覚しないままにその夢の中にい続けるなんてことはありえないだろうか。

 人が何を持ってそれを夢と判断するか。先にも考えた日常の感覚、五感か。

 それとも何かしら特別なもの…例えば、第六感か。


「違う、か」


 考えが本来のものと懸け離れていくのを感じ、小さく呟くことでそれを止めた。隣に居る彼にはその呟きが届いてはいないだろう。


 私は目の前の状況を再確認する。

 混乱した頭を一度リセットして、在るがままを為すがままに受け止める。


「なんだかなぁ…」

「…だよな」


 ぽろりとこぼれた私の言葉に隣の彼が同意する。


 眼前に広がるのは生い茂る無数の大樹。高さは通常の木よりも更に大きく、高層ビル並なのではないだろうか。遠く見た感じ、太さもまた大の大人が十数人で囲む程にあるかもしれない。

 その木々の合間を縫うようにいくつかの人工的なコンクリートの建物が見え隠れする。だが、それらの殆どが地面から突き出てきた大樹に貫かれて崩壊していた。見れば、自らが立つこの建物も同じように大樹が突き出している。よく崩れずに保っているものだと他人事のように感心してしまう。


「支えられるように周りを樹が囲んでいるからな…なんとか崩れずにいるらしい」


 私の表情や視線から気づいたのか、彼がそう答える。なるほど、この病院の周囲は確かに樹が乱立している。生えてくる途中で建物が崩れるものだが、もしかしたら樹は同時期に同速度で一気に生えてきたのかもしれない。私はそうやって無知の憶測で考えてみる。


「…てわけでさ、見ての通り。二回の地震が終わった後、この樹が地面から生えて来たんだ。目の前で見てたけど、まじで信じられねぇってか…在り得ない、よな。そん時はホント地獄だった…俺は運良く生えてきた樹の横にいたけどさ…隣に立ってた奴なんて悲惨だったぜ。コンクリを突き破って現れたアレに持ち上げられてさ。その生える速さとか半端なくて。気づいたら高層ビル並みの高さから落ちてきて…」

「……やめて」


 想像してしまった。彼の言葉にその状況を。そして、気を失う前に見たあの状況を。


「ぁ。悪ぃ……ごめん」


 彼は非常識なことを口走っていることに気づき謝った。彼が私に話しかけてきたのは、もしかしたら彼もこの状況に混乱しており、その事で誰かに話さずにはいられず饒舌になっていたせいもあるのかもしれない。優しさもあっただろうが。

 仕方がないこと、なのだろう。おそらく。今のこの状況であれば。

 誰だって自らの認識を確認し、自己を形成したくなる。


『そう、精神を保つために周囲の……をするのは・・・正しい行……』



「え?」

「…ど、どうした?」

「え。いや…あ…なんでも、ない」


 一瞬、頭の中に言葉が浮かんだような、聞こえたような。よく分からない状況が私の中で起こった気がした。疲れているのかもしれない。今日はただ、友人と買い物をするために街に出ただけだったというのに、こんな風になってしまって。


 本当に…どうなっているのだろう。この状況は。

 この世界は。

(9/22更新)

 今夜更新予定でしたが、作者の事情のため早めに更新しました。

 次回『序5:終わりと始まり』は25日に更新予定です。

 また別件で連載小説【人に焦がれた魔術師達】を始めました。

 ジャンルは現代ファンタジーです。若干ふぁんたじぃチックではないですが…。

 目次ページよりリンクしています。お暇があれば読んでみて下さい。

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