序2:終わりと始まり
西暦2018年8月5日――この日を人々は後に「文明の落日」と呼ぶようになる。
その日、少女は街へと出かけていた。特別な用事はなく、仲の良い友人とぶらつくためだった。朝の占いではラッキーカラーは緑。人を助ければ良い事があるかも、などと出ていたがきっとそのような事は起きないだろう。ただただ刹那的な喜びと快感を求めて今日も過ぎていく…いつも通りの日常で終わるだろう、そう感じながら友人との待ち合わせ場所に佇んでいた。
「つか、遅いっつーの」
待ち合わせの時間はとっくに過ぎており、時計はその時間から30分が過ぎたことを示していた。
「RRRRRR……」
と、彼女の携帯から着信音が響く。着歌などではなく初期設定のただの電子音で、この年頃の女性にしてはめずらしい。
彼女は携帯を取り出して開く。メールが一件届いていた。
どうやら待ち合わせの友人からのメールで、遅くなることをなんだかよく分からない言い訳とともに記されていた。
「どうせ寝坊でしょうに…ったく」
内容を確認した彼女は軽いため息をついて立ち上がる。
どうせ待っていてもあと30分は来ないだろうと判断して、近くの喫茶店にでも入ろうかと考える。今いる広場を見下ろせる喫茶店が確か向こうの建物の中にあったはずだ。
足を三歩進めた時――
『止マレ』
「え?」
耳の傍で、いや頭の中で声が響いたような気がした。突然のことで一瞬何か分からずに足を止める。
その瞬間。
ッゴ―――
地面が大きく揺れた。
バランスを崩して後ろ手に彼女が倒れると、周囲にいた人々も同じように倒れこむ。
「じ、地震!?」
誰かがそう叫ぶのが聞こえた。
(地震って…てかやばくない!? ここ身を隠すところがないんだけど!)
街の中心深部にある広場。周囲には雑居ビルが立ち並ぶ中、当然身を守るための物など皆無に等しい。しかも、揺れは治まることなくむしろ激しくなる。
周りから悲鳴も上がっていた。倒れこんだ人々は立ち上がることもできず、もし立っている人がいたとしてもまるで酔っ払いのようにふらふらしているだけでまともに動くことができない。
(ちょ、ちょっとやばいって! まじでまじで…いやだ!! た、助け…)
彼女が心の中で混乱して叫ぶ中変化は更に続く。しかも最悪な方へと。
――バキッ!!
何かが壊れる音が頭上から聞こえた。そう感じた瞬間、耳を劈くような衝撃音と何かを押しつぶす音が耳に届く。
「いやぁあああああああああああ!!」
「わ、ぁああああああああああああ!」
悲鳴。
それもさっきまでの混乱による悲鳴ではない。恐怖…それを音にしたもの。
激しく揺れ動く中、少女は音のしたほうに目を向けた。
「…っ?!」
認識が遅れる。
まず見えたのは看板。おそらくビルの屋上にあった大きな看板だろう。地震によって落下してきたのだ。そして、
(赤…何? ペンキ? え? 違う…あれ…あれって…)
落下した看板によって押しつぶされた、何か。
そして、少し離れたところに転がっている赤い液体に塗れたモノは、
「あれって…腕…っ!!」
少女は認識してしまった。日常ではあり得ない存在を。
「うぁ…ぁぁああああああああああああああああああっ!!!!!!」
―――ッ……
少女の中で、何かが切れる音がした。




