幕間① 魔王討伐への旅路
次の「門閥貴族編」までの、幕間編です、
過去の、魔王討伐の旅路。
その中で、彼らがどのように互いに絆を結び、惹かれていったのか。
そんなエピソード集になります。
彼らの内面を知ることで、もっと彼らを好きなってもらえたらうれしいです。
今でこそ「世界を救った英雄」として讃えられている勇者パーティだが、その旅の始まりは、決して輝かしい祝福に満ちたものではなかった。
むしろ、為政者たちの身勝手な悪意と、計算ずくの打算から生み出された「体裁の良い死刑宣告」にすぎなかった。
すべての発端は、ひとりの冒険者――魔法戦士のアルスが“聖剣”を引き抜いたことだった。
それは、王都の大広場にある、建国王の功績を讃える石碑に突き立てられた大剣。魔王を討ち倒す者のみが引き抜けると伝えられている伝説の聖剣だ。
のちに建国王となる剣士が、女神様の「神託」を受けた初代教主の言葉に従い、魔王にとどめを刺した大剣を岩に突き立てたものと言われている。
だが、実際には誰も抜けないまま数百年が経過し、もはや石碑と一体化したかようなそれは、「どうせ誰にも抜けやしない、ただのモニュメント」と王国の誰もが高を括っていた代物だった。
それを、文字通り力任せに引き抜いてしまったのが、のちの勇者アレスである。
魔王軍の襲撃に苦しんでいた民衆は「本物の勇者様が現れた!」と狂喜乱舞したが、王国の貴族たちは最高に苦い顔をした。
歴史を紐解けば、古の時代に先代魔王を打ち倒した者がこの王国の建国者であり、それに付き従って戦った者たちが現在の貴族階級の祖となっていた。
――ならば今、魔王が再び現れたこの時代に新しい「勇者」が現れ、世界を救ってしまったら、自分たち旧来の特権階級はどうなる? 王権や自分たちの地位が脅かされるのではないか?
その拭えぬ不安と恐怖から、貴族たちは裏で「あんなものは偽物に違いない」との流言をせっせと流し、彼らの存在を貶めようとした。
しかも彼らにとっては更に最悪なことに、勇者の登場とほぼ時を同じくして、この世界の主神である豊穣の女神から「神託」を受けた、と言う聖女が現れた。
「聖剣を引き抜いた者を勇者とし、共に魔王を討伐せよ」と。
そう、まるで、先代魔王を討ち滅ぼした建国王と初代教主のように。
その神託を受けたと言う聖女フィオナは、教会の指示や体面など一切おかまいなしに、勝手に貧民街へ赴いては「癒やしの奇跡」を無償で振り撒いているらしい。
「莫大な寄付を納めた者しか受けられないはずの癒しの奇跡を、勝手に無償で……! 忌々しい!」と、教会の上層部は歯ぎしりして悔しがった。
このままでは、貴族たちの威信も、教会の絶対的な威光も地に落ちてしまう。
危機感を抱いた彼らは、厄介払いとばかりに、ある「計画」を実行に移すことにした。
王国の騎士団で剣の腕は間違いなく一番だが、融通が利かずに頭が固く、政治の「せ」の字も理解しないやっかいな男、レオンハルト。
そして、平民の不満を抑えるためのガス抜きとして形骸化していた「特待生枠」に、あろうことか実力だけでトップを射止め、平民のくせに主席で卒業を控えている生意気な女魔導士、ヴァレリア。
この(貴族にとっての)問題児二人を、厄介払いを兼ねて勇者に「仲間」として押し付け、魔王討伐という名の“無理難題”を科すことにしたのだ。
「こんな死の旅、どうせ途中で命を落とすか、恐れをなして逃げ出すだろう。もし命令を拒否すれば、晴れて『命令無視の敵前逃亡』『勇者を騙る詐欺師』として処刑できる。どちらに転んでも都合がいい」
貴族たちはほくそ笑み、心の中で笑いが止まらなかった。
だが、彼らの思惑は最初の段階で盛大に躓くことになった。
お膳立てされた絶望的な旅の計画を突きつけられた勇者アルスは、眉一つ動かさず、こう言い放ったのだ。
「言われなくとも、俺は最初からそのつもりだった。……それに、こんなに頼もしい仲間を用意してもらえて、助かる」
…どうやら、この男は本物の狂人(あるいは真の英雄の器)だったらしい。
計画が狂ったとはいえ、こうなればついでだ。甚大な被害を出している魔王軍に対しての、騎士団への各地からの応援要請。
王都周辺の守りが薄くなることを恐れた貴族達が殆ど無視していたそれらの要請を、彼ら「自称勇者パーティ」に対応して廻らせつつ、そのまま魔王討伐へ向かわせる命令を下してやろう。
そうすれば、「各地の救援要請に英雄を派遣した」という素晴らしい名目すら手に入る。
そうして、周囲の傲慢な思惑と冷笑を背中に浴びながら、彼らの過酷な旅立ちは幕を開けたのだった。
――いま、その陰湿な権力闘争の構図が、形を変えて再び彼らの首元に牙をむこうとしているとも知らずに。




