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【レグニア王国物語】魔王を討伐したら終わりだと思った?今度は腐敗した貴族社会がお相手のようです。〜勇者パーティは政争の道具じゃありません!〜  作者: たけぞう
査問会議編

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第二王女④【引きこもり王女の給仕仕事】王室仕込みの接客で食堂が大繁盛!世界初のメイド食堂爆誕!

元ひきこもり王女、王宮仕込みの給仕で評判になり、看板娘に!

この世界初の「メイド食堂」爆誕秘話!

◆常連客の青年との出会い


 翌日。

 昼の喧騒が落ち着き、食堂は夕方の柔らかい光に包まれていた。


 セレスティアは女将に言われた通り、空いた皿を片付けたり卓を拭いたりしていた。

 慣れない動きにぎこちなさはあるものの、常に最高峰の給仕を受けていた彼女は、身近にいた侍女たちの洗練された動きを無意識に覚えていたのだ。

 そのため、予想以上に手際よくやれている……と、自分では思っていた。


(……王宮では、給仕される側だったのにね)


 ふと、そんな自分がおかしくもあり、可笑しくもあった。


 その時、店の扉が開き、ひとりの青年が入ってきた。

 背が高く、ラフだが仕立ての良い服を纏っている。背筋を伸ばした歩き方は妙に静かで、周囲から視線を集めることに慣れた“洗練された人間”のそれだった。


「お、来たね! いつもの席、空いてるよ!」


 女将が威勢よく声を張る。

 青年は軽く微笑むと、店の奥の指定席に腰を下ろした。

 その笑顔がどこか優しげで、けれどかすかに寂しげで……セレスティアは思わず目を奪われた。


「はじめまして、だね。新人さんかい?」


 ティアが注文を聞きに行くと、青年が気さくに話しかけてきた。

 セレスティアは少し慌てて小さく頷く。


「は、はい。今日から……」

「そっか。女将さん、見る目があるからね。ここにいる子はみんな良い子たちだ。常連の僕が保証するよ。ここなら、安心して働けると思う」


 慣れない仕事で肩に力が入っているティアを見て、緊張をほぐそうと声をかけてくれたようだった。

 その細やかな気遣いと温かい言葉が、ティアの中に静かに染み込み、強張っていた心を解きほぐしていく。


(……優しい人だな)


「その立ち方、話し方……貴族の、それも上位貴族の教育を受けた人の癖だね」


 不意を突かれ、セレスティアの心臓が大きく跳ねた。


(……見抜かれた!?)


 あからさまに顔色を変えたティアに、青年は慌てて両手を振った。


「いや、責めてるわけじゃないよ。ただ、すごく丁寧だなって思っただけさ。隣国では色々あったみたいだし……ここまで来るのも、大変だったろう?」


 その声には、心からの同情と気遣いが込められていた。

 青年は、少しだけ視線を落とした。


「ここ最近は……政変のせいで、逃げてきた人が多いんだ」


 セレスティアは息を呑んだ。


(……私のことを、どこまで……?)


「でも、安心して。ここの女将さんは本当にいい人だ。……貴族だった頃のような贅沢な生活は望むべくもないけれど、多くを望まない限りは、きっとここで幸せになれると思うよ」


 その言葉は、まるで——

『ここにいていいんだよ』

『幸せになってもいいんだよ』

 と言われたようで、胸の奥が熱くなった。


「名前、聞いてもいいかい?」


 青年が穏やかに尋ねてくる。

 セレスティアは一瞬だけ躊躇した。本当の名を名乗るべきか、それとも——。


(……私は、もう王族じゃない)


 そう思い直し、まっすぐに青年を見つめて小さく答えた。


「……ティア、です」


 青年は優しく目を細めた。


「いい名前だね。僕はクリス」


青年はそう名を名乗り、静かに言葉を続けた。


「困ったことがあったら言って。僕はよくここに来ているからさ」


その言葉は、暗い曇り空の中から差し込んできた一筋の光のようだった。



◆看板娘と、メイド食堂の誕生


 その後、三人組の男性客のテーブルへ注文を聞きに行くよう指示され、ティアはそちらへ向かった。


「いらっしゃいませ」


 両手を前で自然に揃え、すっと滑らかに頭を下げる。

王室仕込みの完璧な礼法。客の男たちは面食らったようにポカンとティアを見上げた。


「……なにか?」


 あまりの静寂に『何か間違えてしまっただろうか』と不安になり、声をかける。


「……い、いや。そんな丁寧な接客、なぁ……?」

「あ、ああ……いつもなら『ほら! 注文は決まったかい!?』って女将に怒鳴られてたからな……」

「なんか……俺たち、貴族様にでもなった気分だぜ」


 それまで、女将や港町育ちの娘たちの荒っぽい接客しか受けていなかった客たちにとって、ティアの王室の侍女を模した洗練された接客は、この上なく新鮮だったのだ。


『あの店に行けば、美人給仕による貴族風の極上の接客が受けられる!』


 そんな噂がひそかに広まり、元から忙しかった店にはさらに客が押し寄せるようになった。


「すっかり看板娘だねぇ!」


 女将に笑いながらポンと力強く背中を叩かれる。


 新入りが自分たちとは違った接客で人気が出たとなれば、先輩従業員たちからの嫉妬やいじめがあってもおかしくないところだが——そこは、あの女将が厳選して雇った者たちである。


「ねぇ、私達にもその丁寧なやつ、教えてよ!」


 嫉妬するどころか、なんと貴族式の接客を教えてもらいに来るほどだった。

ティアも持ち前の「妹力」を存分に発揮し、すっかり店のみんなから可愛がられるようになっていたのである。


 その後、みんなで覚えた品のある接客が大好評なことを受け、悪ノリした先輩従業員の提案で、なんとメイド風の制服が採用された。


 ——こうして、この世界初の「メイド食堂」が誕生したのだった。

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