第二王女③【引きこもり王女の就職】女将「この店で働かないかい?」
乗合馬車を乗り継ぎ、たどり着いた隣国の王都。
セレスティアは馬車の中の雑談で聞いた、女将の性格がよく料理も美味いと評判の宿屋へと向かった。
その宿屋の一階は大きな食堂も兼ねており、昼時ということもあって大勢の客ですでに賑わっていた。
入口で部屋をとろうと手続きをしていると、噂の女将が気さくな笑みを浮かべて話しかけてきた。
「ねぇ、あんた。レグニア王国の、貴族のご令嬢だろう?」
セレスティアはビクッと肩を跳ねさせた。
「あはは! そんなに驚かなくっていいよ! あんたの立ち居振る舞いを見れば、没落したお貴族様のご令嬢だろうってのはすぐに分かるよ! ここんとこ、多かったからねぇ」
女将は豪快に笑いながらバチンとウインクした。
「あんたの国で、大きな政変があったんだって? 数ヶ月前から、たくさんの元貴族様がうちの国にも流れてきてたからね。……まぁ、平民平民と、わたしらを見下してくる嫌な奴らばかりだったよ。だから言ってやったさ! あんたらだって、今や同じ平民だろってね! ハハッ!」
なんとも豪快極まりない性格のようだった。
「あいつらの末路は、まぁ哀れなもんだったよ。……っと、あんたの知ってる奴だったらごめんねぇ。でも、嫌な奴らだったから同情する気もないさ」
そう吐き捨てると、女将はふっと柔らかく、優しい目を向けてきた。
「でもね、あんたは違う。立ち居振る舞いは上品だけど、驕ったところが全くない。……いい子だなって思ったよ。あんたがあいつらみたいに落ちぶれていくのを見るのは、なんだか忍びないのさ」
そう言うと、彼女の顔をのぞき込んでくる。
「あんた、この先の身の振り方は決まってるのかい? 誰か、頼る先のご貴族さまでもいるかい?」
セレスティアは慌てて首を横に振った。
そんな当てなど、最初から全くなかったのだから。
「そうかい。じゃあさ——この店で働かないかい?」
「え……?」
セレスティアは思いがけない言葉に、間抜けな声を漏らした。
「ちょうど一人、結婚が決まった子がいてね。もうすぐ辞めちまうんだ。うちなら、寝泊まりもできるし、住み込みで働けるよ? どうだい?」
「そ、そんな……! 今会ったばかりなのに……」
「こんな商売を長年やってるからね!人を見る目には自信があるんだ。どうだい? 悪い話じゃないだろう?」
この女将の圧倒的なパワフルさに、気弱なセレスティアが逆らえるはずもなかった。
戸惑いながらも、カクカクと頷くことしかできない。
「決まりだね! あんた、名前は?」
「えっと……セレ…いえ…ティ、ティア……です……」
「よし、よろしくね、ティア! 今日からあんたも、うちの家族だよ!」
「は……はい……! よろしくお願いします……」
「隣国からの長旅で疲れているだろう? 今日はお客さんとして、客室でゆっくり休みな! 明日からは、しっかりと働いてもらうよ!」
こうして、城を抜け出した第二王女セレスティアは——隣国の宿屋兼食堂で、給仕の「ティア」として、新しい一歩を踏み出したのだった。




