↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【レグニア王国物語】魔王を討伐したら終わりだと思った?今度は腐敗した貴族社会がお相手のようです。〜勇者パーティは政争の道具じゃありません!〜  作者: たけぞう
査問会議編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/36

第二王女②【引きこもり王女の旅立ち】「…旅に出よう」

 王城の一室。

 厚いカーテンを閉め切った暗い部屋の中で、第二王女セレスティアはベッドに座り、ぼんやりと窓の向こうの光を見つめていた。


 剣聖レオンハルトに政略結婚を断られてから、彼女は部屋から一歩も出られなくなっていた。


「……どうして、私じゃだめだったの?」


 その問いは、誰にも届かない。彼女自身にも答えが出せなかった。


 大聖女フィオナの優しさが眩しくて。

 剣聖の誠実さが痛くて。

 姉の強さが、あまりにも遠くて……。

 自分だけが、止まった時間の中に置き去りにされている気がした。


 そんなある日のこと。

 兄である元・王太子ルキウスが、後継争いを避けるためにすべてを捨てて出奔したという噂が、ひそかに耳に入ってきた。


(……あの人らしいな)


 驚きはしなかった。むしろ、どこか羨ましかった。

 侍女が扉の前に置いていった冷めた食事を見つめながら、第二王女はふと思う。


(……このままじゃ、だめだわ)


 彼女はゆっくりと、力なくベッドから立ち上がった。

 鏡に映る自分は、王族としての気品を保ちながらも、いつ音を立てて壊れてもおかしくないほど脆い少女だった。


「……旅に出よう」


 その言葉は、誰にも聞こえないほど小さかった。


 彼女は静かに、しかし迷いのない手つきで旅支度を始めた。

 王族らしい豪華なドレスや宝石は、すべて部屋に残していく。

 代わりに身につけたのは、旅装用のフード付きの質素な外套と、わずかな金貨だけ。

 そして——幼い頃に大好きな姉からもらった、小さな髪飾りをそっと胸に抱いた。


(……誰にも言わずに行こう)


 ただ、何も知らせずに消えれば、誘拐を疑われて城が大騒ぎになってしまうかもしれない。

 自分の意思で出ていくこと、決して探さないでほしいことを簡潔に記し、家族への最後の挨拶として机の上へ置いた。



 部屋を出ると、静まり返った王城の廊下に出る。


 姉は政務と国家改革で手が離せない。勇者はそんな姉を傍らで支えている。

 大聖女は大聖堂の旗印となり、剣聖はその愛しい妻の隣に控えている。


 ——彼女の旅立ちを止める者は、城の中に一人もいなかった。


 王城の大きな門の前で、セレスティアはふと足を止めた。


「……私、ずっと弱かったな」

「……きっと、このままここにいたら……一生、変われない」


 彼女は深く息を吸い込み、ゆっくりと重い門をくぐった。


 王都の街並みは活気に満ち溢れ、人々の幸せそうな笑い声が響いている。

 セレスティアはフードを深くかぶり直し、誰にも気づかれないようにそっと歩き出した。


「……いつか、笑って戻れるかな」


 その呟きは、柔らかな秋の風の中に溶けて消えた。


 彼女は旅人として、歩き出す。

 王族としてではなく——ただの一人の少女として。


 その小さな背中は、王都の喧騒の中にゆっくりと紛れて消えていった。

 王城では、彼女の部屋だけが静かに空いたまま残された。


 この時はまだ……誰も知らなかったのだ。

 第二王女が、己の痛みを抱えたまま、自分だけの新しい人生を歩み始めたことを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。