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【レグニア王国物語】魔王を討伐したら終わりだと思った?今度は腐敗した貴族社会がお相手のようです。〜勇者パーティは政争の道具じゃありません!〜  作者: たけぞう
査問会議編

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【第二王子と永遠の守護者 】「最後くらい、本当のことを言おうと思ってね…」~生涯で一度きりの口づけ~

 静まり返った寝室に、穏やかな死の気配が満ちていた。

 ベッドの縁に腰掛け、皺の刻まれない美しい指先で老いた男の手を握っているのは、この国の誰もが敬う稀代の天才魔法使い――大賢者ヴァレリアだった。


 幾十年もの年月が流れたというのに、彼女の容姿はあの魔法学校の門をくぐった日から一寸たりとも変わっていなかった。

 卓越した「内気」と「魔力」の複合操作によって自らの細胞を常に活性化させ、老化を完全に停止させ続けたかのように。


 「まさに、本物の魔女だな……」


 掠れた声で呟く夫の言葉に、大賢者はわずかに眉をひそめた。

 だが、その赤い瞳の奥には、隠しきれない痛切な色が滲んでいる。


 長年連れ添った夫。形だけの夫婦。

子供を作れないという彼なりの「優しさ」を信じ、同性愛者という秘密を互いに共有しているつもりだった、たった一人の理解者。


「…最後に、一つだけ…わがままを聞いてくれるかな?」


「最後、ね……。なぁに? どうせ、ろくな事じゃないんでしょう?」

 あえて憎まれ口を叩く彼女の声音は、少しだけ震えていた。


「……言いなさいよ」


「最後に――キスをしてもらえないかな? 頬じゃなく、唇に」


 大賢者は驚いたように目を見開いた。

 ――だって、あなた……同性愛者でしょう?

 言葉にはしなかったが、その疑問は明白に彼女の瞳に浮かんでいた。


「はは……。まだ信じてたんだね。大賢者を何十年も騙し続けられたんだ、私の嘘も大したものだね」

「嘘……って、あなた……」

「そう、あれは嘘さ。僕は同性愛者じゃないよ」

「なんで、そんな嘘……」

 言いかけた瞬間、彼女の頭脳が猛烈な勢いで過去のすべてのパズルを噛み合わせ、そして一つの真実に到達した。


 高熱の嘘。同性愛者の嘘。そのすべてが、自分の罪悪感を消すためだけに、自分を縛らないためだけに彼が編み出した「優しさ」だったのだと。


「そんな……そんなことって……」


「最後くらい、本当のことを言おうと思ってね」


「バカ……あなたって、ほんとバカよ……こんな女のために……」


 震える声で呟く妻に、老いた男は優しい笑みを向けた。


 「君がそれを言う?」

 その言葉に、大賢者は息を呑んだ。

 彼女が大聖女フィオナに向けている想いが、ただの友情ではないことを、この男は最初から知っていた。知った上で、隣に立ち続けてくれたのだ。


 「僕はもう解放されちゃうけどさ……君の想いは、一体いつまで続くのやら。

 想像もできないな…大変だよ?」


 「ふふ……そうね……一体、いつまで続くのやら……」

 自嘲する彼女の姿は、あまりにも美しく、そしてどこか途方に暮れていた。


 女神の寵愛のせいか、あるいはその並外れた力のせいか。勇者パーティの面々は、その極限まで高められた生体エネルギーの恩恵によって、皆、歳を取らないままの若々しさを保ち続けていた。


 それは他国からは「魔王討伐の呪いだ」と不気味がられ、苦々しく語られる奇跡だったが――この国の人々にとっては、別の意味を持っていた。


 「この国にとっては、ありがたい話だけどね」


 老いた男が静かに目を閉じる。その手の温もりが、ゆっくりと失われていく。

 彼女は彼の最期の願い通り、その唇にそっと…生涯で一度きりの口づけを落とした。


 彼は最後の瞬間、まるで少年の頃のように、

ほんの少しだけ照れた笑みを浮かべた。


「……ありがとう」


 静かに目を閉じる彼を見つめながら、大賢者の指先はかすかに震えていた。

 その震えは、魔力の乱れでも、老化の兆しでもない。

 …自分が、最大の理解者を永遠に失うのだと…ようやく理解してしまったから。


 冷たくなっていく夫の額に自分の額を寄せ、彼女は誰にも聞こえない声で呟いた。


 「……ずるい人ね。

 最後まで、こんな呪いを残していくなんて」

 その声は、誰にも聞こえないほど小さく…しかし、心の深くまで響いていた。


 彼が去ったあとも、世界は回り続ける。

 大賢者ヴァレリアは相変わらず気怠げに魔法書をめくり、勇者アレスは王配として政務に励み…剣聖レオンハルトは大聖女を守るように寄り添い、大聖女フィオナは相変わらず慈愛に満ちた笑顔で周囲を癒やし続ける。


 老いることを忘れた者たちが紡ぐ、終わりなき日常。

 国境を越え、畏怖と感謝を込めて、人々はいつしかこう呼ぶようになっていた。

――「永遠の守護者」と。

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