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【レグニア王国物語】魔王を討伐したら終わりだと思った?今度は腐敗した貴族社会がお相手のようです。〜勇者パーティは政争の道具じゃありません!〜  作者: たけぞう
査問会議編

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門閥貴族編⑤王太子の決断「王太子の地位を返上する!」

 反乱事件が鎮圧され、王都に静けさと新たな秩序が戻った数日後。

 重大な発表があるとの公布により、王城前に集まった国民を前に、王太子は静かに、しかし揺るぎない決意に満ちた表情で語りかけた。


「自分を次代の王へと押し上げようと、彼らは今回、このような愚行に走った。その動きを事前に察知し、未然に防ぐことができなかった私にも、指導者としての重大な責任がある」


 今回のクーデターは、あくまで彼を支持していた門閥貴族たちが勝手に暴走して引き起こしたものであり、王太子自身にその計画への関与や一味としての加担は一切なかった。それは尋問や証拠の調査によっても完全に証明されている。


 だが、彼は自ら進み出て、こう告げたのである。


「…ついては、私は王太子の地位を返上する!」


 会場に走る衝撃。

 さらに彼は、今回の事件解決に誰よりも尽力し、貢献した王女こそが次の「王太女」にふさわしいと強く支持する旨を公に表明した。


 もともと、民衆や志ある家臣たちの間では、その圧倒的な有能さと実績から「王女殿下こそ次代の王に」と望む声は根強く存在していた。

そうした中で、何より第一王子が王太子であることを後ろから支えていたはずの門閥貴族派が完全に失脚した今。

王太子本人が自発的に身を引くと言えば、政治的な障害や反発が入り込む余地などどこにもなかった。


 勇者と婚姻を結ぶ前の王女であれば、敬愛する兄を無理にでも玉座に据え、自分がそれを背後から支えるという体制を維持しようと画策したかもしれない。


 しかし、今は違った。

 勇者に深く惚れ込み、その胸に抱かれる温もりを知ってしまった今――王女の胸には、冷え切っていたはずの感情の波が押し寄せていた。


 (……あの人との間に生まれた子供に、この国の未来を、王位を継がせたい)


 胸の奥から湧き上がってくる、政治的打算とは全く無縁の、あまりにも個人的で熱を帯びた母性と愛情。自分の中にそんな変化が起きていたことに気づいたとき、王女自身が一番驚いていた。権謀術数にどっぷりと浸かっていたはずの少女は、いつの間にか、一人の愛する男の妻としての未来を本気で夢見るようになっていたのだ。


 そんな妹の胸中を知ってか知らずか、王太子はさらに畳みかけるように、周囲の貴族や臣下たちがハッと息を飲むような提案を口にした。


「我が王家の正統性は、かつて先代の魔王を撃ち倒し、世界を救ったことに由来する。

 ……だが、今代の魔王との戦いにおいて、我が国は防衛することに手一杯であり、王家自らの手で討伐を果たすことは叶わなかった」


 王太子はまっすぐ前を見据え、切々と説く。


「それを成し遂げた勇者こそ、新たな王位に就くべき揺るぎない正統性を持つ。

……先代魔王を討ち果たしてこの国を興した王家の血を引く王女と、今代の魔王を討ち果たした英雄である勇者。

 この二人の間に結ばれる血統こそが、これからの新時代を統べるに最も相応しいはずだ」


 それは、王太子の地位に執着しない無私の譲位であると同時に、王女と勇者の結びつきを国家の最高権力として絶対的なものにする、究極の祝福と布石であった。


 兄の温かな思いやりと、自分自身のなかに芽生えた抗いがたい愛情と母性。

 知略の限りを尽くして勝ち取った王国の実権の先に、王女が手に入れようとしている未来は、かつて彼女が描いていた冷徹な改革のロードマップよりも、はるかに温かく、そして力強い輝きを放ち始めていたのだった。


 静まり返った私室のなか、二人きりになった空間で、王女は少しだけ頬を朱に染めながら、愛しい男にそっと語りかけた。


「ねぇ、あなた……わたくし、このお話、受けようと思いますの。あなたも、いずれはこの国の王配《おうはい》となることになりますが……」


 政治の道具として割り切り、冷徹な打算だけで結ばれたはずの婚姻。だが、今の彼女の声音には、あどけない少女のような戸惑いと、一人の女性としての確かな熱が混じっていた。


 それに対し、勇者は一切の迷いもない真っ直ぐな瞳で、彼女を優しく見据えながら笑った。


「構わないさ。君は、誰が何と言おうと王となるに相応しい人だ。きっと素晴らしい女王になって、この国を――この世界を、もっと良い場所へ導いていけると思う。そんな君の隣にいられることを、俺は心から誇らしく思うよ」


 そして、ふっと柔らかく微笑むと、彼女の大きな決意を包み込むように力強く続けた。


「俺も、微力ながら君の盾となり、剣となることを誓おう。これからも君と一緒に、世界をより良くしていきたいんだ」


 その言葉は、計算高い権謀術数にまみれた王宮の中で、王女がずっと求めてきて…でも手に入らないと思い込んでいた「純粋な光」そのものだった。

 胸の奥が熱くなり、思わず言葉を失う王女の頭を、勇者が愛おしそうにそっと撫でる。

 かつて冷徹な知略だけで国を操ろうとしていた少女は、いまや最強の英雄である夫の大きな腕に包まれ、誰もが羨む真の女王への階段を、確かな足取りで歩み始めているのだった。

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