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【レグニア王国物語】魔王を討伐したら終わりだと思った?今度は腐敗した貴族社会がお相手のようです。〜勇者パーティは政争の道具じゃありません!〜  作者: たけぞう
査問会議編

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門閥貴族編④王女の思惑

「なぜだ……なぜ、こんなことになった……」

 拘束され、冷たい石畳に転がされた貴族たちは、泥と血にまみれた顔を歪めながら虚空に向かって絶叫した。自分たちの計画は完璧だったはずだ。なぜ、兵たちは命令に従わず、なぜ一瞬でこんなにも無残に敗れ去ったのか。彼らには最後までそれが理解できなかった。


 だが、それはあまりにも必然の結果であった。

 彼らは日頃から富と利益を自分たちだけで占有し続け、命を張って支えてくれるはずの忠実な部下や家臣たちにさえ、決して正当な報酬や見返りを分かち合おうとしなかった。

「選ばれた存在である自分たちが利益を独占するのは当然なのだ」と、傲慢さの上に胡座をかいていたのだ。


 そんな強欲な主たちの下で、下々の者がいつまでも忠誠を尽くしてついてくると思う方が間違っている。

 現場の兵士や部下たちは、王女の手が伸びてきたとき、冷徹なまでの損得勘定を瞬時に働かせていた。


 ――このまま腐った主について行っても、何の得もない。それどころか、王女の粛正の巻き添えを食らって、自分たちまで処刑される危険すらあるのではないか?

 ならば、今ここで私欲にまみれた貴族たちを見限り、正義と実力を重んじる王女につけばどうなるだろうか。


 有能な者はしっかりと正当に評価される。

 不正の証拠を持って自主的に王女の下へ降ることで、これまで上司の指示で行なってきた小さな罪や過ちも、門閥貴族に強要されていたものとして不問となり、新たな体制の中でうまく処理されるかも知れない。

 力と実績のある者ほど、正当に評価される新しい世の中に変わっていく――。

 賢明な者たちであれば、どちらの未来を選ぶべきかなど、深く考えるまでもなく明白だったのだ。

 自らの蒔いた種によって誰からも見捨てられ、音を立てて崩れ去る特権階級の城。

その中心で、王女の冷徹かつ鮮やかな知略は、血を流さずとも王国を完全に生まれ変わらせていくのだった。


 王女は、当初は別の未来を描いていた。

 それは、敬愛する兄――王太子が王位を継ぐ未来。善良な人柄の彼を裏から支え、自らの圧倒的な知略と能力を発揮しながら、この国を正しい形へと導いていく。そのための穏やかで、しかし確実な改革のロードマップが彼女の頭にはあった。

 今回門閥貴族を一網打尽にするために使った不正や腐敗の数々の証拠。

 それらはすべて、来るべきその日のためにと、長い年月をかけて着々と集めていた「備え」にすぎなかった。

まさか、こんなにも早い時期にそれらを解放し、使用することになるとは。

王女自身にとっても想定外の、嬉しい誤算だった。


 この国が長い歴史を積み上げてきた中、時代の変化や制度の疲弊によって、貴族制度も宗教も、すでに機能不全に陥っていた。

 魔王の脅威に常に晒されているこの国にとって、古い膿を出し切り、国家体制を刷新することは、もはや一刻の猶予もない急務である。


 しかし、何代にもわたって王家を牽制し、強大な勢力を伸ばしてきた門閥貴族たちの力は決して侮れるものではなかった。


 ――この国の改革。それは、間違いなく私の一生をかけた、ライフワークとなる。


 まだあどけなさの残る少女時代に、王女は静かにそう決意し、誰も知らない水面下で孤独な活動を続けてきたのである。


 だが、その綿密な計画の歯車は、予想外のイレギュラーな存在によって急激な変化を迎えることになった。


 ――それは、勇者パーティの登場だった。

 最初は、誰も期待していなかった。

 先代魔王を討ち滅ぼした建国王によって、建国時に王都の中央広場に突き立てられたと言う、魔王との戦いに使われた聖剣。

 引き抜いた者は、次代の魔王を討ち果たす勇者となると言われ、王国の長い歴史の中で、数多の騎士や冒険者がこれを引き抜こうと挑んできた。


…誰も引き抜くことができないまま数百年が経つと、いつしか聖剣の話は都市伝説と成り下がり…王都を訪れた者がその記念にと、一生に一度はチャレンジしてみる名所として、完全に観光地と化していた。

あれは、建国王の功績を讃えるために作られたモニュメントで、元々抜けるようにはできていない。今ではそう思われるようになっており、誰も抜くことのできないそれに、本気で期待する者などいなくなっていた。


 それを引き抜いて見せたのが、今の勇者アレスである。


 まさか、本当に聖剣を抜く者が現れるとは!


 王都に激震が走った。


 そして、それに呼応するかのように現れたのが、女神の神託を受けたと語る聖女フィオナだった。

「聖剣を抜いた者を勇者と呼び、その者と共に魔王を討ち倒すように」との神託が下ったと語る聖女。

 普通だったら狂人の戯言と笑い飛ばされて終わりのところだ。

だが、実際に聖剣を引き抜く者は現れていたし、その神託を受けたのが、王国史上稀にみるほどの「癒しの奇跡」の力を持つ聖女だと言う。


過去に神託を受けた者は皆、強い癒しの力を持っていたと言われている。

魔王軍の暴虐に苦しんでいた民の期待は、一気に高まっていた。


 しかもその聖女は、一人貧民街に赴き、病で苦しむ者達に無償で奇跡を施して廻り、民衆から圧倒的な支持を受けていた聖女だったため、その噂は瞬く間に国中に広まっていった。

 「神託が下るとしたらあの聖女様しか居ないと思っていた」「あの聖女様が言うなら間違いない」「あの聖剣を抜いた者も、きっと勇者に違いない」と。


 だが、その「神託」と有り難がられるものの裏側の真実を、国民も、そして王女も知る由はない。


 女神から直接、聖女のもとへ下った神託の実際のテンションは、神聖な威厳など微塵もないものだった。

 癒しの奇跡は、女神への祈りによって発現する。実はこの祈り、女神様直通で、毎回女神様自身が奇跡の力の許諾を行い、奇跡の力である『寵愛』を授けていた。

 

通常、「癒しの奇跡」は、大聖堂で高額な寄付を行なった者にのみ行われる。

それも、複数の聖女によって、行われるのは1日数件のみ。

 これは、「癒しの奇跡」を使える聖女の存在自体が非常に稀少であることと、その使用に膨大な精神力と集中力が必要であり、使用できる回数が限られていることがその要因であった。


だが聖女フィオナは、治療が必要にも関わらず、寄付が行えずに治療を受けることが叶わない者が多く住む貧民街に一人赴き、気力と体力が続く限り、何件でも奇跡をおこなった。


あまりに頻繁に癒しの奇跡を使うため、許諾のために祈りかけられる女神がうざったく感じるほどに。

(ちょっと気軽に使い過ぎじゃない?私そんなに暇じゃないんだけど!)と注意しに来た女神。その際、今まで神託を授けた者達と違い、自分に対してあまりにも物怖じしない様子に、この子、面白いわね。と、暇つぶし(暇なんじゃん!)や気分転換にちょいちょい話しかけるようになっていた女神様。神託のありがたみも何もない。そして。

『あ、なんか聖剣抜ける資質を持つ者が現れたみたい。ちょうどいいから、あなた、彼と一緒に魔王倒してきてくれない? 彼は勇者ってことで。

大丈夫。あなた、奇跡を使いまくって、今や奇跡使い放題な感じだし(※そんな事はない)。

ね? そろそろ一回大人しくさせとかないと面倒なことになりそうだし。お願いね?』

 そんな、普段の雑談の途中に私用のお使いを頼むような…神様個人の都合と軽いノリが多分に含まれた「神託」によって、すべての運命は大きく動き、加速していったのだった。


話を戻して、王女の改革計画について。

 王女がどれほど完璧な証拠を集めようとも、それだけで強大な教会や門閥貴族を断罪し、切り捨てることなど、現実の政治では不可能だった。

 どれほど正論で相手の罪を咎め立てたところで、実際にその罰の執行を可能とするだけの圧倒的な「武力」を持っていなければ、相手に「ああん? だからなんだってんだよ?」と居直られておしまいなのだ。力を持たない正義など、力を持つ者の前では無力な、紙切れ同然の空論でしかない。


 だからこそ、王女は長い時間をかけて計画を練っていた。王家直属の戦力を少しずつ蓄え、門閥貴族たちの資金源や権勢をじわじわと削り取り……いつの日か、力のバランスが完全に逆転するその時が来るまで、じっと機を待つつもりでいたのだ。

 ――そのパワーバランスの計算を、一気に、暴力的なまでにひっくり返す規格外の存在が現れるまでは。


「この圧倒的な力……なんとしても、我が手中に収めなくては!」

 出会った当初、王女が勇者に向けて抱いていた感情は、紛れもなく冷徹な「打算」の塊だった。

 この世界を物理的に制圧できるほどの力を、どうすれば王家側の手札として完全に繋ぎ止められるか。そのための政略結婚であり、駒の配置にすぎなかった。


 ――もっとも、その打算は、実際に婚姻の儀を済ませ、同じ屋根の下で夜を過ごすまでのことだ。

 …これほど自分を狂わせる快楽が、この世に存在するとは。王族として常に傅《かしず》かれてきた王女が…初めて「支配される悦び」を知ったのだった。


 …いや、もちろんそれだけでは…夜の悦びだけでない。権謀術数に染まりきった自分とは違う、どこまでもまっすぐに世界の平和や人々の救済を願う勇者のひたむきな姿に、心の底から胸を打たれた――という側面も…たぶん、きっと…かなり強いはず……である。


 ともかく、彼女が「一生をかけて行なうライフワーク」だと覚悟していた長大なる国家改革のロードマップ。

 そのすべての計画を数年単位…いや、それこそ一瞬にして前倒しにさせ、強制的に激変させた最大の触媒こそが、ほかならぬ勇者と聖女という、あまりにもイレギュラーな存在の登場だったのである。

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