幕間⑥ 惹かれる気持ちと決意
勇者アレスは、いつから彼女に惹かれていたのだろう。
思えば、出会った頃から彼女はいつもそうだった。
王国の権力者たちに冷遇され、周囲の人間からどれほど冷ややかな目を向けられようとも、フィオナは自分の損得勘定で動いたことがない。
ただ目の前で泣いている子供がいれば泥だらけになって抱きしめ、病に臥せた老人がいれば、身を削るようにして神の奇跡を分け与えた。
圧倒的な力を持つ聖剣を抜き、世界の命運を背負わされた自分と、ただの「無力な少女」でありながら誰よりも大きな愛で人々を救う彼女。
戦いの最中、勇者が前衛で魔物の大群を切り伏せ、振り返ったときに見る光景はいつも決まってあった。
それは、消耗してフラフラになりながらも、自分の傷すら省みず、村人たちのために両手を差し出し祈り続けるフィオナの背中だ。
ある日の夜、深い森の中の野営地でのこと。
激しい戦闘を終え、ようやく周囲の安全が確保された静寂の中で、勇者は焚き火のそばに座り込むフィオナの姿を見つけた。
誰もいないところで、彼女はこっそりと自分の痛む腕を摩り、小さく息を漏らしていたのだ。
「……フィー」
声をかけて近づくと、彼女は慌てて顔を上げ、いつものようにパッと花が咲くような笑みを作ってみせた。
「あ、アレス様。どうしました? どこかお怪我でも…?」
「いや、俺は平気だ。それより、お前こそ……無理をしすぎだ」
そう言って勇者が差し出したのは、湿布代わりの薬草だった。不器用な手つきで彼女の赤く腫れた手首を受け取り、そっと軟膏を塗り込む。
その温もりに驚いたように、フィオナがわずかに肩を震わせた。
「……ありがとうございます、アレス様。でも、私は大丈夫です。みんなが助かったんだもの、これくらい何でもない」
痛みを隠して、どこまでも他人のために笑う。
その健気さと、底知れぬ強さに触れるたび、勇者の胸の奥底で、熱くて重い感情が膨れ上がっていくのを感じていた。
護りたい、と思った。
世界の平和や王国の思惑なんてどうでもいい。世界中が敵に回ろうとも、この純粋すぎる少女が傷つくことだけは絶対に許さない。
その笑顔を曇らせるすべてのものから、自分がこの剣にかけて彼女を護り抜く。
それは、仲間としての情愛などではなく、一人の男としての強烈な独占欲と、身を焦がすような恋心だった。
夜の闇の中、焚き火の炎に照らされたフィオナの横顔を見つめながら、アレスは静かに、しかし誰にも譲れない誓いを自分の胸に刻み込んでいた。




