幕間⑤不器用な初恋
レオンハルトという男は、やはりどうしようもなくチョロかった。
物心ついたときから、ただひたすらに剣を振るだけの人生。
女性に興味がなかったわけではない。年頃の男としての関心はあったし、むしろ人並み以上にあったはずだ。
だが、いかんせん不器用で真っ直ぐすぎる性格の彼には、己のすべてを傾けて剣の修練に没頭しながら、同時に女性へちょっかいをかけるような器用な真似などできるはずもなかった。
そんな、圧倒的なまでの「女っ気のなさ」をこじらせて生きてきた彼にとって、大聖女フィオナとの旅は、ある種の猛毒だった。
誰もから敬愛され、どこに行っても温かな光を纏うような聖女と一緒に寝食を共にし、過酷な旅路を並んで歩く。
そんな環境で、恋に落ちない男などいるだろうか――いや、いない。
旅の途中で見せつけられる彼女の表情は、無骨な男の心を狂わせるには十分すぎた。
無邪気に自分に向けてくる、太陽のような笑顔。
祝宴の席で初めて口にしたお酒に、ほんのりと頬を染めてへべれけになっている無防備な姿。
大賢者にからかわれて、むっと頬を膨らませて怒っている可愛らしい姿。
長距離の移動に疲れ果て、「ごめんなさい、少しだけ休憩を……」と申し訳なさそうにしおれる姿。
足手纏いだとからかわれて、子供のように拗ねてみせる仕草。
救った村人たちから心からの感謝を告げられ、照れくさそうに目を細める表情。
そして、自分の身なりが汚れるのも一切構わず、額に汗を滲ませながら必死に怪我人を治療する、凛とした…それでいて慈愛に溢れた大聖女としての横顔。
そのどれひとつを取っても、思い出すだけで胸が締め付けられ、息が詰まるような熱がこみ上げてくる。
(これが……恋、なのか?)
戦場を血で染めてきた男が、今さら自分のなかに芽生えた、あまりにも純粋で、あまりにも激しい独占欲と焦がれるような感情に気づき、一人で勝手に真っ赤になって恥じらう。
不器用な英雄の初恋は、静かに、しかし確実に彼のすべてを侵食し始めていた。
そして、旅を始めた頃は攻撃特化と言われていた彼の剣は、いつしか聖女を護ることを優先するようになっていた。




