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『婚活アプリのプロフィールに「夜の相性も大切です」と書いた女とマッチしました』  作者: Momokun
第5部『夫婦になっても、自分の人生を生きていいですか?』
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50/64

第10話/通算第50話 「結婚しても、自分の人生を生きていいですか?」

第5部『夫婦になっても、自分の人生を生きていいですか?』




前書き




結婚したら、ずっと一緒にいられると思っていた。




でも、現実はそんなに甘くありません。




四十五歳、バツイチ医師の小鳥遊優。




四十二歳、食品メーカーで働く東海林喜咲。




婚活アプリで出会い、恋をして、何度も喧嘩をして、それでも二人は夫婦になりました。




第4部では、結婚してから最大の夫婦喧嘩を経験。




それでも最後には、お互いに「今日もあなたがいい」と伝えることができました。




ようやく、幸せな新婚生活が始まる。




……はずだったのですが。




妻が出世しました。




喜咲は企画部長に昇進。




仕事が増え、責任が増え、会議が増え、夫婦の時間が減っていく。




夫は妻の成功を喜びたい。




妻も仕事を頑張りたい。




でも、二人とも一緒にいたい。




ここで、新しい問題が生まれます。




結婚した二人は、自分の人生と夫婦の時間をどう両立させればいいのでしょうか。




夫の収入だけでも生活できる。




妻が仕事を続けることも、専業主婦になることも、働き方を変えることもできる。




でも、それは妻だけが考える問題なのでしょうか。




夫が働き方を見直すこともできる。




家事の分担を変えることもできる。




二人で過ごす時間の作り方を変えることもできる。




どちらか一人が夢や仕事を諦めるのではなく、二人が納得できる生き方を探すことはできないのでしょうか。




もちろん、相手の人生を勝手に決めることはできません。




けれど、自分の希望を言わずに、すべてを相手に任せることが優しさとも限りません。




第5部では、仕事への思い、夫婦の時間、一人で過ごす時間、そして将来の人生について、優と喜咲が向き合います。




もちろん、真面目な話ばかりではありません。




正しすぎる医師の夫と、毒舌だけれど寂しがり屋の妻。




今回も、夫婦の会話は簡単には終わりません。




婚活は終わった。




結婚式も終わった。




でも、人生の選択は終わらない。




夫婦になっても、自分の人生を生きていいですか?




そして。




自分の人生を大切にしながら、二人で幸せになることはできますか?




笑って、ときどき胸が痛くなって、最後には二人を応援したくなる。




そんな大人の結婚ラブコメ、第5部の開幕です。




あなたなら、愛する人との時間と、自分の人生をどう両立させますか?




ぜひ、優と喜咲の新しい十話を見届けてください。

「……優。私、決めた。大型プロジェクトに参加する」


昨日、「仕事を辞めようかな」と言った妻が、今朝はそう宣言した。


俺は味噌汁のお椀を持ったまま固まった。


「……退職届ではなく、参加の返事ですか」


「昨日の話、ちゃんと聞いてた?」


「……全部聞いていたので、驚いています」


「私も、ちょっと驚いてる」


喜咲は笑って、皿のパンをちぎった。


昨日の夜、妻はようやく「まだ仕事が好きみたい」と口にした。今までと同じ働き方はしない、とも。


そのあと、結論を急がずに休んだ。


「朝、目が覚めてもね。やっぱりやってみたかった」


「……怖くはありませんか」


「怖い。昨日みたいな毎日が続いたら、また辞めたくなるかもしれない」


喜咲はパンを置いた。


「だから、参加するなら役割も仕事量も確認する。何でも引き受けない。必要なら調整してもらう。私が部長だからって、全部背負わなくていいんだよね」


「……そう思います」


「それに、無理だったら、そのときまた考える」


俺はうなずいた。


昨日の疲れも、今朝の決意も、どちらも本物なのだ。


「……ただ、俺にも希望があります」


「おっ。夫として?」


「……今日の味噌汁が冷める前に、朝食を終えたいです」


「そこ!?」


喜咲が笑った。


俺の前にはご飯、妻の前にはパン。昨日わざわざ確認した、夫婦別々の朝食だ。


一緒に暮らしていても、好きなものまで同じになるわけではない。


もっとも、人生の選択は朝食ほど簡単ではなかった。


* * *

【それでも働いていい?】

食器を片づけたあと、妻は昨夜のノートを開いた。


《続けたいこと》


《変えたいこと》


その下にある《大型プロジェクト》を、指でなぞる。


「ねえ、優。私、働かなくても生きていけるんだよね」


「……はい」


「専業主婦になる道だってある。それでも働いていい?」


「……それを俺に聞くんですか?」


「夫だから」


俺は言葉を探した。


収入だけを考えれば、喜咲が働き続ける必要はない。だが、本人が仕事を好きなことも、今なら分かる。


「……喜咲の人生なので、喜咲が決めてください」


「……そういうところ、たまに腹立つ」


「……なぜです?」


「正しいから」


正しいのに怒られる。


結婚生活は、医学書より難解だ。


「許可をもらいたいんじゃないの」


「……では、何を?」


「私が決めたせいで、優の生活も変わるでしょ。帰りが遅くなるかも。一人になりたい日だってあるかも。それを『あなたの人生です』って言われると、私だけが先へ行くみたい」


妻はノートを閉じた。


「優は、どうしたい?」


思いがけず、胸の奥が詰まった。


昨日、俺は「どちらを選んでも応援したい」と言った。だが同時に、寂しくなるかもしれないから自分の気持ちも聞いてほしい、と頼んだ。


妻はそれを覚えていた。


俺の答えを、待っている。


* * *

【夫のわがままは、規約違反ですか?】

「……仕事を続ける喜咲を、応援したいです」


「うん」


「……でも、夕食を一緒に食べたい日もあります。休日に出かけたいです」


「うん」


まだ言えることがある。


しかし口にすると、妻の決意を邪魔する気がした。


「……たまには、俺を仕事より優先してほしいです」


喜咲の表情が止まった。


しまった、と思った。


「……今のは、仕事を辞めてほしいという意味ではなく」


「分かってる。でもさ、それって私に仕事か優か選べってこと?」


「……違います」


「じゃあ、どんなとき?」


俺は黙った。


妻が残業になるたびに寂しいと訴えるつもりはない。責任ある仕事を放り出して帰ってほしいわけでもない。


けれど、我慢だけが夫の役割だとも思いたくなかった。


「……例えば、二人とも休める日に、仕事を入れるか迷ったら。一度、俺の希望も聞いてほしいです」


「最初からそう言ってよ」


「……すみません」


「謝らなくていい!」


妻は額に手を当てた。


「優は優しいけど、優しさの説明書が長すぎるの!」


「……要約が苦手で」


「医者なのに?」


「……診察より難しいです」


喜咲が噴き出した。


そして、俺の手を取った。


「嬉しいよ。やっと、優がわがまま言ってくれた」


「……わがままでしょうか」


「夫の希望でしょ。私の希望と並べて考えればいいじゃん」


その言葉で、ようやく息ができた。


「……では、決めるまで一緒に考えるのは、俺にもやらせてください」


「うん。それが聞きたかった」


喜咲は、自分の選択を俺に預けなかった。


俺も、応援するために自分の気持ちを消さなかった。


話し合っても、すべてが思い通りになるわけではない。


それでも、相談する前よりは、一緒に進めそうだった。


* * *

【一人と一人のままで】

「でもね、優」


「……何ですか」


「結婚したら、自分の人生は自分だけのものじゃなくなるのかな」


妻の指には、結婚指輪が光っている。


「一人のときは、全部自分で決めてた。今は優がいる。それが嬉しいのに、私の選択で優を我慢させるのが怖い」


俺は妻を見た。


この人は五年間、結婚する相手を探していた。


そして今、結婚したからこそ、自分の人生を選ぶのをためらっている。


「……俺は、喜咲の人生になりたいわけじゃありません」


「……うん」


「……俺の人生に喜咲を閉じ込めたいわけでもないです」


妻の目が揺れた。


「……でも、俺の人生には喜咲がいてほしいです」


言ったあとで、急に照れくさくなった。


喜咲は何も言わず、俺の肩に額を寄せた。


「……ずるい」


「……何がです?」


「そんなこと、真顔で言うところ」


「……事実なので」


「そういうところも!」


肩を小さく叩かれた。


今朝から何度目だろう。


「私、これからも面倒だよ。仕事するし、一人でいたい日もあるし、怒るし」


「……すでに存じています」


「最後まで聞いて!」


「……失礼しました」


妻は顔を上げた。


「それでも、一緒にいる?」


あの大喧嘩のあと、俺たちは相手を選び直した。


あのときは、離れないための言葉だった。


今は少し違う。


相手が自分の道を歩いても、隣にいたい。


「……今日も喜咲がいいので」


妻は唇を結んだ。


「……また、その台詞?」


「……同じ答えでも、理由は少し増えました」


「例えば?」


「……喜咲が自分で選ぶところが、好きです」


妻は急に顔を背けた。


「……卑怯」


「……どこがですか」


「その言葉を言われたら、怒れないじゃん」


俺は妻の背中に手を添えた。


「……明日も、同じことを聞きますか」


「聞くかも」


「……そのときも、答えます」


妻が笑った。


俺は、その笑顔を見ていた。


* * *

【次の日曜日、場所は未定】

妻はスマートフォンを手にした。


参加する意思を伝える文章を見直し、仕事の役割や負担について相談したい、と付け加える。


「送るよ」


「……はい」


「止めない?」


「……止めません。ただ、無理な働き方まで約束しないでください」


「それは、ちゃんと確認する」


送信。


喜咲は画面を伏せ、息を吐いた。


「……怖いなあ」


「……そうですね」


「うまくいくか、分かんない」


「……俺も、分かりません」


「そこは『絶対大丈夫』とか言わないの?」


「……言えません。でも、困ったら相談してほしいです」


妻は、昨日のノートを見た。


《大型プロジェクト》の横に丸をつける。


「決めた。私、やってみる」


俺はその手を握った。


この人の人生を代わりに決めなくてよかった。


俺自身の寂しさを、なかったことにしなくてよかった。


「……じゃあ、俺も一つ決めます」


「何?」


共有カレンダーを開き、次の日曜日に予定を入れる。


《次の日曜日 デート》


《場所:未定》


妻が画面をのぞいた。


「……決めてないじゃん」


「……相談しようと思って」


「デートの行き先くらい、決めてよ!」


「……俺だけで決めると、好みが違うかもしれません」


「だからって全部未定!?」


二人で笑った。


妻は自分で仕事を選んだ。


俺は、妻と過ごす時間を望む自分を認めた。


一人と一人のまま、一緒に生きていく。


次の日曜日には、何を食べようか。


そんな小さな相談が、今は楽しみだった。


けれど、その翌日。


妻の予定表から、俺たちの時間が消え始めることを、このときの俺はまだ知らなかった。



第50話 完


第5部『夫婦になっても、自分の人生を生きていいですか?』完


次回予告

第6部『夫婦の時間は、誰のものですか?』


第1話/通算第51話


「妻の予定表から、俺との時間が消えました」


大型プロジェクトの予定が、共有カレンダーを埋めていく。


日曜日のデートは残っている。


なのに、妻と話す時間が見つからない。


夫婦の時間は、予約しなければ消えてしまうのだろうか。


第6部、開幕。


結婚しても、自分の人生を生きていい。


でも、相手と過ごす時間も大切にしたい。


あなたなら、仕事と夫婦の時間をどうやって選びますか?


ぜひ感想やコメントで聞かせてください。

この物語の続き・ほかの作品は、note「momokun」と Momokun Official で公開しています。

Note:momokun https://note.com/momokun1 https://note.com/dreamy_bonobo524

Momokun Official https://momokun.jp/

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