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第3話/通算第33話 「新婚夫婦なのに、デートする暇がありません」

第4部『夫婦になっても恋人でいられますか?』




前書き




婚姻届を出した。




名字を決めた。




夫婦になった。




これで婚活は終わり。




めでたし、めでたし。




……になるはずでした。




でも、結婚した翌日から始まるのは、




「夫婦として一緒に暮らす」という、もっと面倒な毎日です。




元妻との思い出を、どこに置くのか。




家の中に、誰の居場所を作るのか。




仕事と夫婦の時間を、どう両立するのか。




家事は、どちらがやるのか。




記念日を忘れたら、どうするのか。




そして。




夫婦になったあとも、




「今日もこの人がいい」と思えるのか。




優には、一度結婚して、離婚した過去があります。




喜咲にとっては、初めての結婚です。




同じ「夫婦」になっても、




二人が立っている場所は、少し違う。




だから第4部では、




結婚したから分かり合える二人ではなく、




結婚しても分からないから、何度でも話す二人




を描きます。




恋人から夫婦へ。




でも、




夫婦になったからといって、




恋人であることまで終わる必要はない。




第4部のテーマは、




「夫婦になったあとも、今日この人を選び直す」




です。




付き合ったら、婚活より面倒だった。




では、




結婚したら?




たぶん。




もっと面倒です。




それでも二人は、




一緒にいたいと思えるのでしょうか。




第4部




『夫婦になっても恋人でいられますか?』




始まります。

「今月、休みが合うの、一日しかなくない?」


新婚なのに。


一日だった。


俺は勤務表を見る。


喜咲の予定を見る。


もう一度、自分の予定を見る。


やはり変わらない。


「一日ですね」


「優」


「はい」


「新婚だよね?」


「はい」


「一緒に住んでるよね?」


「はい」


「なのに、休みが合うの一日だけ?」


「そうなりますね」


喜咲がスマートフォンを置いた。


嫌な予感がした。


「優」


「はい」


「最近、デートした?」


考えた。


結婚した。


婚姻届を出した。


一緒に暮らし始めた。


昨日は二人で食器とタオルと寝具を買った。


「昨日、行きました」


「どこに?」


「買い物です」


「生活用品を買いに?」


「はい」


「それをデートに数える?」


「二人で出かけました」


「じゃあ役所も?」


「二人で行きました」


「スーパーも?」


「二人です」


「ゴミ捨ても?」


少し考えた。


「一緒に行けば」


「デートじゃない!」


違った。


デートの定義

「では」


俺はスマートフォンを置いた。


「デートとは何でしょう?」


「そこから?」


「定義を統一しないと話が進みません」


「新婚夫婦がデートの定義から話し合う?」


「認識のズレは早めに修正したほうがいいです」


「仕事みたいに言うな」


難しい。


付き合っていた頃は、


会うだけでデートだった。


食事をする。


映画を見る。


散歩する。


ただ話す。


それだけで、


わざわざ予定を合わせて会っていた。


今は違う。


帰れば喜咲がいる。


朝も会う。


夜も会う。


「毎日会っていますよね」


言った瞬間。


喜咲の目が細くなった。


「優」


「はい」


「朝、私が歯を磨いてる横でネクタイ締めながら『行ってきます』って言う五分間」


「はい」


「帰ってきて、私が寝る前に『今日どうでした?』って聞く十分間」


「はい」


「それをデートって呼ぶ?」


「……呼ばないですね」


ようやく分かった。


会っている。


でも。


一緒に過ごしてはいない。


空いている時間を探す

「予定を確認しましょう」


「うん」


二人でカレンダーを開いた。


水曜日。


「ここ」


喜咲が指を差した。


「夜、空いてる」


「当直です」


「はい消えた」


土曜日。


俺は午前勤務。


喜咲は休み。


「午後なら空いています」


「何時に終わる?」


「予定では十三時です」


「予定では?」


「急患がなければ」


喜咲が画面を閉じかけた。


「待ってください」


「だって終わる時間わからないじゃん」


「十四時には」


「本当に?」


「十五時までには」


「伸びた」


「十六時なら確実です」


「それもう夕方!」


「夕方からでもデートはできます」


「どこ行く?」


考えた。


映画。


食事。


買い物。


「スーパー」


「生活に戻るな!」


難しい。


他の日も確認した。


外来。


会議。


当直。


残業。


休日出勤。


取引先。


仕事。


仕事。


仕事。


二人のカレンダーには、


予定がぎっしり入っている。


なのに。


二人の予定だけが、


入っていなかった。


結婚したら、恋人じゃなくなるの?

「なんかさ」


喜咲が言った。


「はい」


「変だね」


「何がです?」


「付き合ってた頃のほうが、会ってた」


確かに。


会うために、


予定を空けていた。


次はいつ会えるか。


どこへ行くか。


何を食べるか。


それを決めていた。


でも結婚してからは、


決めなくなった。


帰れば会えるから。


「結婚したらさ」


喜咲がスマートフォンを伏せた。


「デートしなくなるのかな」


「そんなことは」


言いかけた。


根拠がない。


実際、


していない。


「別に毎週どこか連れてってほしいとかじゃないよ」


「はい」


「高い店に行きたいわけでもないし」


「はい」


「旅行したいって話でもない」


「はい」


「ただ」


少しだけ、


喜咲の声が小さくなった。


「夫婦になったら、恋人じゃなくなるのかなって」


俺は何も言えなかった。


俺は喜咲と結婚したかった。


だから結婚した。


でも。


結婚した瞬間から、


安心していたのかもしれない。


もう会う約束をしなくていい。


次のデートを決めなくても、


帰れば会える。


それは。


少し違う。


「喜咲」


「何?」


「デートしましょう」


「だから、休みが合わないんでしょ」


「合わせます」


「どうやって?」


俺は勤務表を見る。


空いている日を探した。


ない。


だから。


考え方を変えた。


空いている日に、


デートをするのではなく。


先に、


デートの日を決める。


「来月は?」


「まだ勤務表出てない」


「希望は出せます」


喜咲が俺を見る。


「休み希望?」


「はい」


「デートのために?」


「はい」


「仕事じゃなくて?」


「はい」


「何か用事があるわけでもなく?」


いつもの俺なら、


ここで言ったかもしれない。


喜咲が行きたいなら。


喜咲に合わせます。


どこでも大丈夫です。


でも。


それでは、


また同じだ。


俺は少しだけ迷ってから言った。


「俺も」


喜咲が俺を見る。


「俺も、喜咲とデートしたいです」


喜咲は何も言わなかった。


数秒。


それから、


ゆっくり笑った。


「それ」


「はい」


「最初から言えばいいのに」


「今、気づきました」


「遅い」


「すみません」


「でも」


喜咲がスマートフォンを開いた。


「合格」


「新婚夫検定ですか?」


「今日は特別加点」


少し嬉しかった。


二人の予定

来月。


まだ何も入っていない日を一つ選んだ。


俺は勤務希望を入れる。


喜咲も、


できる限り仕事を入れないようにする。


「どこ行く?」


「まだ決めなくていいのでは?」


「デートなんだから決めようよ」


「では、食事」


「どこ?」


「喜咲が好きなところ」


「また私基準」


昨日と同じだった。


俺は考える。


「俺が行きたいところ」


「どこ?」


かなり考えた。


「水族館」


喜咲が目を丸くした。


「優、水族館好きなの?」


「嫌いではありません」


「また地味な答え」


「でも、行きたいです」


「どうして?」


俺は少し迷った。


「喜咲と行ったことがないので」


今度は、


喜咲が黙った。


「……それ、ずるい」


「何がです?」


「たまに急に彼氏になるのやめて」


「夫です」


「そういうとこ!」


結局。


来月のカレンダーに、


予定を一つ入れた。


《デート》


それだけ。


場所はまだ決まっていない。


時間も決まっていない。


水族館になるかどうかも分からない。


でも。


仕事より先に、


二人の予定が入った。


夫婦になったから、


会えるのではない。


夫婦になっても、


会おうとする。


たぶん。


それが必要なのだ。


今日のデート

「でも」


喜咲が言った。


「来月まで待つの?」


「今月は一日あります」


「それ以外」


俺は時計を見た。


午後九時十八分。


「今からですか?」


「無理?」


明日は仕事。


俺は朝が早い。


喜咲も仕事。


遠くへは行けない。


「三十分なら」


「短い」


「一時間」


「交渉みたい」


「では、九十分」


「採用」


決まった。


俺たちは上着を着た。


財布を持つ。


スマートフォンを持つ。


玄関を出る。


「どこ行く?」


「近所を歩きませんか?」


「それだけ?」


「途中でコーヒーを飲みます」


「コンビニ?」


「カフェが開いていれば」


「閉まってたら?」


「コンビニです」


「結局そこか」


エレベーターを待つ。


喜咲が隣に立つ。


いつもと同じマンション。


いつもと同じ夜。


特別な予定はない。


でも。


「喜咲」


「何?」


「これはデートですか?」


喜咲が少し考えた。


「うん」


「定義は?」


「二人とも、デートだと思ってること」


なるほど。


かなり曖昧だ。


医学的でもない。


論理的でもない。


でも。


悪くない。


「では、デートですね」


「そうです」


画像

エレベーターが来た。


扉が開く。


そのとき。


俺のスマートフォンが鳴った。


画面を見る。


病院からだった。


喜咲も、


画面を見た。


俺は電話を取る。


短いやり取りをして、


切った。


「病院?」


「はい」


「行くの?」


俺は答えようとした。


いつもの答えなら、


もう決まっている。


必要なら行く。


仕事だから。


医師だから。


でも。


喜咲は何も言わず、


俺を見ていた。


そして。


静かに聞いた。


「……優、それ断れる?」


第4部 第3話/通算第33話 完

次回 第4部 第4話/通算第34話

「仕事と私、どっちが大事とは聞きたくない」

仕事が大事なのは分かっている。


医師という仕事なら、


なおさら。


だから喜咲は、


「私を選んで」


とは言いたくない。


でも。


何度も後回しにされたら、


寂しくないわけではない。


そして、


優だけではなく、


喜咲も口にする。


「大丈夫」


相手を思いやっているつもりで、


二人とも本音を隠してしまう。


仕事か、家庭か。


そんな単純な二択ではない。


大切なものが二つあるとき、


夫婦はどうやって話せばいいのか。

。


「結婚したあとも、夫婦で『デートの予定』を入れていますか?」


感想やコメントで教えてください。

この物語の続き・ほかの作品は、note「momokun」と Momokun Official で公開しています。

Note:momokun https://note.com/momokun1 https://note.com/dreamy_bonobo524

Momokun Official https://momokun.jp/

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