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ラストパルス—記録の逆流

本郷の手が玲の首を絞めていた。 だがその瞬間——


空気が、逆回転を始めた。


玲の頭の奥に、“音ではない何か”が押し寄せる。 ノイズだったものが、言葉と映像へと解像していく。


——白い息。 ——女の悲鳴。 ——走り出す足。 ——追いつかれる。 ——“ごめんね……玲”という、最後の残響。


それは、母・翠の記録だった。


玲の瞳から、涙ではなく「怒り」が流れ出る。

熱く、けれど凍えるように冷たい視線が、 本郷を真っ直ぐ捉える。


「……アンタだったんだ……」


その瞬間だった。


ギィ……ィィィィッ……!


本郷の目の前、空間に“何か”が浮かび上がる。


翠の姿。  かすれた目。涙。怒り。  

まるで“記録再生ではない”  ——“直接の感情粒子”が、本郷の視界に届く。


「な……ん……だ、これ……!」


本郷が一瞬、手を緩めたその刹那。 玲は崩れ落ち、泥を掴んだ手に「母と同じ感触」を得る。 視界が揺れながらも、直感する。


——これが“母の死のときと全く同じ構図”。 ——そして、母が“記録の一部、いわば再生キーを書き込んでいた対象”が本郷だったこと。


今、記録はすべて揃った。


“記録された意志”は観測された瞬間、再現を開始する。

しかも今度は、“玲を守るために”


本郷の背後、風が渦巻いた。

視えない怒気が、翠という記録と、玲という観測者の“共振”を媒介にして発生する。

“ペア粒子のように”生成された怒りのエネルギーが、 本郷の身体を突き飛ばすように車道へと向かわせた。


「やめろッッ!!」


その叫びが届くよりも早く——

ブワアアアアッッ!!!

走ってきたトラックの前方。

本郷の身体は音もなく跳ね上げられ、 空に一閃の影を描いてから、崩れるように落ちた。


静寂。

ただ、楠の枝が少し揺れているだけだった。

玲は、うずくまったまま、かすかに呟いた。

「……お母さん……  ありがとう……」

翠は、記録ではなく、存在として—— 玲を“守り切った”。


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